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令和8年9月8日(第4578号)
「よく眠らなければ」が、眠りを遠ざける?
―睡眠スコアに振り回される「オルソソムニア」とはー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3150字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
相変わらず、「良い睡眠」を目指して、
頑張っている(?)今日この頃です。
そして、まさかの睡眠時無呼吸症候群と診断されてから1ヶ月、
睡眠外来で「睡眠時無呼吸症候群の対策のためのマウスピース」が
出来上がりました。
つけ始めて、約1週間。
なんとなく以前よりも眠れているような…、気もしなくもありません。
一つ、確実に言えることとしては、
面長な顔×下顎が出ることで、
「イースター島のモアイみたいな顔になっとるよ」
と妻に評価されている点でしょうか。
さて、相変わらずウェアラブルデバイスのGarminを見ると、
睡眠評価は「悪い」ばかり。
うーん、正直、ちょっとかなしい(涙)。
その結果を見るたびに、
「今日も、体が回復していないのか」
「練習の準備が整っていないんだ…」
と感じて、日課のランニングを頑張りきれないような気がしてくる。
……そんなことを考えていたら、実は2017年に、
こうしたウェアラブルデバイスの数値に振り回されてしまう状態に、
ある名前がつけられていたことを知りました。
その名も、「オルソソムニア(Orthosomnia)」。
今日は、この言葉が提唱された論文をご紹介したいと思います。
それでは、どうぞ!
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<今回の論文>
タイトル:Orthosomnia: Are Some Patients Taking the Quantified Self Too Far?(オルソソムニア:一部の患者は「自己数値化」を行き過ぎさせているのではないか?)
著者:Kelly Glazer Baron、Sabra Abbott、Nancy Jao、Natalie Manalo、Rebecca Mullen
掲載誌:Journal of Clinical Sleep Medicine, 2017年
所属:ラッシュ大学医学部、ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部
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■30秒でわかる、この論文のポイント
・睡眠トラッカーの数値を完璧にしようとする、
過度なこだわりを「オルソソムニア」と名づけた
・3人の症例では、デバイスの数値を信じすぎることで、
睡眠への不安や不適切な行動が強まっていた
・「もっと眠らなければ」と長時間ベッドにいることが、
かえって不眠を悪化させる場合があった
・睡眠データは否定するのではなく、
限界を理解した上で参考情報として使うことが大切である
■オルソソムニアとは何か
「オルソソムニア」は、
「正しい」を意味する“ortho”と、
「睡眠」を意味する“somnia”を組み合わせた造語です。
健康的で正しい食事への過度な執着を表す
「オルソレキシア」という言葉になぞらえて、
この論文で提唱されました。
たとえば、
「睡眠スコアを上げなければならない」
「8時間眠らなければ、今日は十分に活動できない」
「深い睡眠を、もっと増やさなければならない」
このように、理想の睡眠を追い求めるあまり、
デバイスの数値に強くこだわり、
不安や完璧主義的な行動が強まってしまう状態を指します。
ちなみに、オルソソムニアは、
この論文で提案された概念です。
正式な医学的診断名として確立されたものではありません。
それでも、言葉があることで、
「これは自分だけの感覚ではなかったのか…!」と
気づかされます。
■主な結果(わかったこと)
(1)3人の患者に起きていたこととは?
この論文は、大規模な実験研究ではありません。
睡眠トラッカーのデータを強く信じ、
自分には睡眠障害があると考えて受診した、
3人の患者を扱った症例研究です。
(ここから)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●1人目:8時間睡眠にこだわりすぎる、40歳の男性
彼は、トラッカーに「8時間睡眠」と表示されなければ、
日中の調子が悪くなると考えていました。
そのため、目標を達成しようとして、
必要以上に長くベッドに留まっていました。
しかし、ベッドにいる時間を長くすれば、
必ず深く眠れるわけではありません。
むしろ眠れない時間が増え、
「また眠れていない」という不安を強めることがあります。
●2人目:睡眠効率にこだわりすぎる、27歳の女性
彼女は、トラッカーが示した
「睡眠効率60%」という数字を強く信じ、
その記録を印刷して睡眠日記に貼りつけ、
診察に持参しました。
病院で詳しく検査すると、
十分な深い睡眠が確認されました。
しかし、それでも彼女は、
「では、なぜFitbitは私の睡眠が悪いと言うのか」と疑問を抱き、
デバイスの数値を信じ続けました。
●3人目:夜間の覚醒が気になる69歳の男性
睡眠時無呼吸症候群の治療後も、
トラッカーが示す夜間の覚醒を不安に感じていました。
一方で、睡眠薬を減らしていく経過を
データで確認できたことは、良い方向にも働いていました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)
睡眠トラッカーそのものが悪いわけではありません。
問題は、データを「一つの参考情報」として扱うのか、
それとも「自分の感覚よりも正しい絶対的な答え」として扱うのか、
という点にあるようです。
*
(2)数字を良くしようとして、睡眠が悪くなる
3人の症例に共通していたのが、
トラッカーの数値を良くしようとして、
ベッドに長く留まっていたことでした。
「睡眠時間が足りない」と表示された。
→だから、いつもより早くベッドに入る。
→しかし、まだ眠くないので眠れない。
→すると、「眠らなければ」と焦る。
→焦るほど頭が冴えて、ますます眠れなくなる。
という悪循環です。
なんとも皮肉ですが、良い睡眠を取ろうと努力するほど、
睡眠が遠ざかっていくことがあるのです。
*
(3)睡眠トラッカーの限界
論文では、睡眠トラッカーの限界についても
触れられています。
ウェアラブルデバイスは、
医療機関で行う睡眠検査のように、
脳波を直接測定しているわけではありません。
主に体の動きなどの情報とアルゴリズムから、
眠っている時間や睡眠段階を推定しています。
つまり、画面に表示される「深い睡眠」や「覚醒」は、
睡眠そのものを完全に捉えた絶対的な事実ではなく、
あくまで推定値。
ところが、数字は具体的であるがゆえに、
説得力があります。
「睡眠スコア62点」と表示されると、
目覚めた直後はそこそこ元気だったとしても、
急に体調が悪いような気がしてくる。
そして日中に少し眠くなれば、
「ほら、やっぱり62点だったからだ」と、
データと不調を結びつけてしまう…。
もちろん精度はどんどん上がっていますが、
「体感値とのズレ」があることは、
留意しておく必要がありそうです。
■まとめと感想
今回の論文を読んで、まず驚いたのは、
睡眠を意識しすぎることの弊害に、
すでに名前がつけられていたことでした。
別の研究では、アスリートが
「睡眠による回復が十分ではない」といった情報を
与えられることで、自己効力感や練習への心理的な準備に
影響が生じる可能性も指摘されています。
私はアスリートではなく一介の市民ランナーですが、
それでも睡眠スコアを見て
「今日は良い練習ができないかもしれない」と
感じることがあります。
であるならば、
競技成績が生活やキャリアに直結するアスリートにとっては、
より大きな問題になり得るのでしょう。
良い睡眠を目指しつつも、
完璧な睡眠は求めすぎないこと。
私自身、まだ最適なバランスを見つけられてはいませんが、
この論文からの示唆も参考に、
マウスピースの効果も含めて、
このあたりはもう少しじっくり観察していきたいと思います。
睡眠とは、かくも奥が深いものですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:82km
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