配信日時 2026/08/28 09:18

誰かの熱量は、どのように組織へ広がるのか? ー「感情の社会的共有」のメカニズムー【カレッジサプリ】

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令和8年8月27日(第4566号)


誰かの熱量は、どのように組織へ広がるのか?ー「感情の社会的共有」のメカニズムー


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 2663字/読了時間3分)


■こんにちは。紀藤です。

昨日は午前中に、研修プログラムの設計、執筆、
午後からは、外部人事パートナーとして関わらせていただいている企業様の、
コンサルティング&コーチングでした。

また夜は、立教大学の教員ミーティングでした。
リーダーシップ・プログラムの振り返りでしたが、
教員仲間の振り返りの視点が、大変勉強になる時間でもありました。



さて、本日のお話です。

少し前、組織開発コンサルタントとして活躍する大学院の仲間が、
こんな話をしていました。

「組織が変わるとは、熱量の伝播なのかもしれない。
誰かの熱量が別の誰かに伝わり、だんだんと場が温まっていく。
そんな熱伝導のようなものがある気がする」

また、1年前に参加した出版ゼミでは、
ベストセラーを何冊も手がけてきた編集者の方が、
こんな話をしていました。

「売れる本には、エネルギーがある。
人の感情を揺さぶり、誰かに話したくさせる。
受け取ったエネルギーがコップからあふれるように伝わり、
また別の人へ広がっていく」

いくら宣伝しても、本自体にエネルギーがなければ
重版にはつながらない。

今では「口コミ」は当たり前の言葉ですが、
心を動かされた経験を、思わず誰かに伝えてしまう現象は
興味深いものがあります。

そんなとき、「感情の社会的共有」を論じた論文に出会いました。

個人に生まれた感情は、どのように人から人へ広がり、
組織の空気をつくるのでしょうか。

今日は、そんな論文をご紹介します。

それでは、どうぞ!


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■<今回の論文>
タイトル:The Social Sharing of Emotion as an Interface Between Individual and Collective Processes in the Construction of Emotional Climates
(感情的気候の構築における個人と集団プロセスの接点としての感情の社会的共有・仮訳)
著者:Bernard Rimé
所属:University of Louvain(ルーヴァン・カトリック大学/ベルギー)
掲載誌:Journal of Social Issues, Vol. 63, No. 2, 2007, pp.307–322
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■30秒でわかるこの論文のポイント

・感情を伴う出来事の88〜96%は誰かに語られ、
 その約60%は出来事が起きた当日に共有される

・聞いた人も別の人へ話す「二次共有」が起こり、
 感情にまつわる情報は社会的ネットワークへ広がっていく

・感情の共有は、集団の連帯感や相互信頼を育て、
 出来事を集団的記憶として残す働きを持つ

・ネガティブな感情の共有には、苦痛を長引かせる面と、
 支え合いや希望を生み出す面の両方がある



■研究の背景と目的

この論文の中心概念が「感情の社会的共有(Social Sharing of Emotion)」です。

これは、感情を揺さぶられた人が、
その出来事や気持ちを誰かに語ることです。

聞き手が共感すれば、話し手はさらに感情を表現し、
聞いた人もその話を第三者へ伝えていきます。

本論文は、個人の感情体験と、
社会や組織の「感情的気候(Emotional Climate)」をつなぐ接点として、
感情の社会的共有が果たす役割を検討したものです。



■研究の方法

本論文は単一の実験ではなく、
日記調査や感情誘発実験、大規模事件などの調査を統合した
理論的レビューです。

感情の共有が、

1.感情的気候、
2.集団の凝集性や連帯感、
3.集団的記憶に与える影響

を検討しています。



■主な結果(わかったこと)

◯わかったこと1 感情は、かなりの確率で誰かに語られる

研究では、感情を伴う経験の88〜96%が、
少なくとも一度は他者に共有され、
その約60%は出来事が起きた当日に語られていました。

私たちは感情を揺さぶられると、
その気持ちを自分の中だけにとどめておくことが、
なかなかできないようなのです。


◯わかったこと2 感情は、二次共有、三次共有へと広がる

話を聞いた人が、その内容を別の人に話すことを
「二次共有」と呼び、その発生率は約75%に達するとされます。

ある研究では、病院の遺体安置所を訪れた33人の学生の経験が、
一次共有、二次共有、三次共有と広がり、
10日間で約900人にまで伝わっていました。


◯わかったこと3 共有は、集団の連帯感と希望を育てる

2004年のマドリード列車爆破テロ後の縦断調査では、
社会的共有が多いほど、
ネガティブな感情や覚醒状態が持続する傾向が見られました。

一方で、社会的サポートを感じやすくなり、
孤独感が下がること、トラウマ後の成長が促されること、
さらに8週間後の連帯感や希望にもつながることが示されました。

つまり、つらい出来事を語ることは、
苦しさをただ消すわけではなく、
「自分だけではない」「私たちはつながっている」という感覚を
育てる働きがあるようです。


◯わかったこと4 共有が、出来事を集団の記憶に変える

ベルギー国王ボードゥアン1世の急逝に関する研究では、
感情の高ぶり自体が、直接記憶を強めていたわけではありませんでした。

重要だったのは、人と話し、
メディア報道を追うという「社会的リハーサル」でした。

何度も語り、触れることで、
個人の経験が集団の記憶へと変わっていったのです。



■考察:感情の共有が「場の空気」をつくる

「感情」は短期的に一瞬で消える個人的な反応ではなく、
言葉にされ、聞き手の反応で再び刺激され、
別の人へと運ばれ、やがて集団の「空気」をつくっていくという
長期的な物語となっていきます。

ただし、感情の共有には二面性があります。

ネガティブな出来事を語り続けることで、
不安や怒りが長引くこともあります。

一方で、共有が支え合いや信頼、
連帯感を育てることもあります。

誰がどのように受け止め、
どんな意味を与えて次へ伝えるかが、
この論文で言う集団の「感情的気候」を左右するのでしょう。



■まとめと感想

「感情を誰かに話す」という身近な現象が、
1990年代から研究されてきたことに、まず興味を惹かれました。

感情体験の88〜96%が共有され、
33人の経験が10日で約900人に伝わること。

こうした数字を見ると、
「何気ない行動のインパクト」を感じます。

たとえば、私が仕事で関わる「企業の研修」もそう。

それは、参加した人だけで終わるものではなく、
もし「心が動いた経験」になるのであれば、
二次共有、三次共有として、職場へ広がる可能性を秘めています。

「思わず誰かに話したくなるような強度の感情」を、
どれほど生み出せるか。

そのことを念頭に置き、
目の前の場に魂を込めて関わることが大切なのでしょう。

冒頭の「組織が変わるとは、熱量が伝播すること」という言葉は、
まさにこのことを表しているように思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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【編集後記】
◯今月のランニング:283km

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