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令和8年8月15日(第4555号)
パースペクティブ・テイキング(視点取得)が、相手へのポジティブな気持ちを高める
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3254字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、書籍の原稿の執筆。
また16kmのランニングでした。
*
さて、本日のお話です。
突然ですが皆さま、「群盲象を評す」という格言をご存知でしょうか。
目の見えない人たちが象のあちこちを触り、
鼻を触った人は「これはホースだ」と言い、
しっぽを触った人は「これはロープだ」と言い、
足を触った人は「これは柱だ」と言い、
体を触った人は「これは壁だ」と言う——という、
あの有名なたとえ話ですね。
そんな話を思い出させる、ある研究があります。
キーワードは「パースペクティブ・テイキング」。
つまり『(他者の)視点取得』という意味です。
これに関する論文の内容が、なかなか興味深いものでした。
相手の立場に立って世界を見てみる。
それがどういう効果をもたらすのかという実証研究です。
ということで、早速見てまいりましょう。
それでは、どうぞ!
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<今回の論文>
・タイトル:Perspective-Taking: Decreasing Stereotype Expression, Stereotype Accessibility, and In-Group Favoritism(視点取得:ステレオタイプ表現、ステレオタイプアクセス可能性、および内集団ひいきの低減)
・出版:Journal of Personality and Social Psychology, 2000年, Vol. 78, No. 4, 708–724
・著者:Adam D. Galinsky, Gordon B. Moskowitz
・所属:ノースウェスタン大学(Kellogg School of Management)/プリンストン大学
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■30秒でわかるこの論文のポイント
・「ステレオタイプを意識的に抑え込む」よりも「相手の視点に立つ」方が偏見を減らせる
・思考の抑制はかえって偏見への「リバウンド効果」を引き起こしてしまう
・視点取得は、自分と相手(外集団)の自己表象を重ね合わせることで偏見を減らす
・最小集団パラダイムの実験では、視点取得によって内集団ひいきが完全に消えた
・偏見の解消は「内集団を下げる」のではなく「外集団の評価を底上げする」ことで起きる
■研究の背景と目的
現代社会では、人種や年齢、性別といったグループへの
偏見や差別的な言動は、批判や社会的な制裁の対象になります。
そこで直感的によく使われるのが、
「ステレオタイプ的な考えを意図的に抑え込む」
という戦略です。
しかし、この「抑制」には、副作用があります。
というのも、抑え込もうとすればするほど、
かえってその考えへのアクセスしやすさが高まってしまう。
いわゆる「リバウンド効果」です。
頭の中で「考えないようにしよう」とすることが、
逆にその考えを浮かびやすくしてしまうわけです
(ダイエット中に「甘いものを考えないようにしよう」とすればするほど甘いものが頭から離れなくなるみたいな話)。
この研究では、そうした抑制の欠点を乗り越える、
より積極的なバイアス低減の方法として
「パースペクティブ・テイキング(視点取得:相手の立場に立って世界を見てみること)」の効果を検証しています。
視点取得が、意識のうえでの偏見表現だけでなく、
無意識のアクセス可能性まで抑えられるのか。
そして、自分と相手(グループ)の自己概念が重なり合うことで、
外集団への評価が肯定的になり、内集団ひいきが解消されるのか。
そのメカニズムを解き明かそうとした研究です。
■研究の方法
大きく3つの実験が行われています。
実験1では、大学生37名が高齢男性の写真を見て
「その人の典型的な1日」についてのエッセイを書きます。
条件は3つ、
「特に指示なし(統制群)」
「ステレオタイプ的な先入観を積極的に避けるよう指示(抑制群)」
「その人になったつもりで、彼の目を通して世界を見て、彼の靴を履いて歩くように想像する指示(視点取得群)」です。
その後、干渉タスクを挟み、
高齢者ステレオタイプに関連する単語かどうかを
瞬時に判断する語彙決定タスクで、
無意識レベルのアクセス可能性を測定しています。
実験2では、参加者に「自分自身」の性格特性と
「高齢者一般」の性格特性を、90項目にわたって評価してもらい、
両者がどれだけ重なり合っているか
(自己-グループ重複度)を測定しました。
実験3は最小集団パラダイムという手法を使い、
参加者を偽のフィードバックによって
「過大推定者(内集団)」に分類したうえで、
「過小推定者(外集団)」の立場に立ってエッセイを書く視点取得群と、
いくつかの統制条件とを比較し、
内集団ひいきがどう変化するかを検証しています。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:抑制は「リバウンド」を、視点取得は「持続する好意」を生む
エッセイのステレオタイプ性については、
抑制群も視点取得群も統制群より低くなりました。
けれど、文章の感情価(ポジティブさ)で見ると、
視点取得群だけが有意にポジティブな文章を書いていました。
しかもこの傾向は、2つ目・3つ目のエッセイでも持続していました。
さらに興味深いのが語彙決定タスクの結果です。
抑制群だけが、ステレオタイプに一致する単語に対して
有意に速く反応していました。
これはまさに「抑え込もうとしたことが、
かえって頭に浮かびやすくなっている」
というリバウンド効果の証拠です。
一方の視点取得群では、
こうしたリバウンドは一切見られませんでした。
◯わかったこと2:視点取得は「自分」と「相手」を重ね合わせる
実験2では、視点取得群は高齢者への
ステレオタイプ的な特性評価が有意に低くなっただけでなく、
「自分」の性格特性評価と「高齢者一般」の性格特性評価の差が、
他の条件よりも有意に小さくなっていました。
つまり、自分と相手グループの自己表象が
強く重なり合っていた、ということです。
さらに、この「自己とグループの重複度」を統計的に取り除くと、
視点取得によるステレオタイプ低減効果そのものが
消えてしまうことも分かりました。
これはつまり、視点取得が偏見を減らすのは、
「自分と相手を重ねて見る」というプロセスを介しているから、
ということを示す結果です。
◯わかったこと3:内集団ひいきは「外集団を下げる」のではなく「上げる」ことで消える
実験3では、統制群を含むほとんどの条件で、
内集団を外集団より高く評価する
「内集団ひいき」が見られました。
ところが視点取得群だけは、
内集団と外集団をほぼ同等に評価し、
内集団ひいきが完全に消えていたのです。
しかもそのメカニズムがおもしろく、
視点取得によるバイアス解消は
「内集団への評価を下げた」からではなく、
「外集団への評価が底上げされた」ことによって起きていました。
同じポジティブな特性(「協調的」「親切」など)でも、
外集団に対して使うとどこか割り引かれてしまう
というのが通常の傾向ですが、
視点取得群ではそのニュアンスの目減りが起きなかったわけです。
■考察
論文では、視点取得によって記憶の中で活性化した
「自己概念」が、相手やそのグループにも適用されると
解釈されています。
自分についての情報が相手を判断する際にも使われることで、
ステレオタイプ的な構造が入り込む余地が小さくなる、ということです。
もう一つ興味深いのが、抑制と視点取得の「向き」の違いです。
抑制は「差別や過ちを避けよう」とする回避・予防志向であり、
結果的に相手との距離をつくってしまいます。
一方、視点取得は「対象へ近づいていく」促進・接近志向であり、
相手への関心や肯定的な関係構築を後押しする戦略なのだそうです。
■まとめと感想
「その人になったつもりで、彼の目を通して世界を見て、
彼の靴を履いて歩くように想像する」。
しばしば、リフレクションでも
「相手がどう感じていたか」を考えるという話が出てきますが、
この副次効果として、「相手との距離が縮まる」
という効果もあるのだな、ということが発見でした。
いずれにしても、視点取得というシンプルな
「相手の感情を想像する行為」がエビデンスに裏付けられている
ということは、リフレクションや共感の意義を示す、
パワフルな論拠になると思った次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:172km
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