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令和8年8月3日(第4543号)
信頼とは、どのように育ち、どのように壊れるのか? ー信頼の3つのタイプ
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3531字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日の日曜日は22kmのランニング。
その後、家族での食事と執筆活動などでした。
*
さて、本日のお話ですが、
今日は「信頼」についての論文をご紹介します。
突然ですが、高校生ぐらいの頃、親戚のおじさんに、ふと、
こんなことを言われたことがあります。
「夫婦が壊れる時って知ってる?
それはね、お互いに信頼しなくなった時なんだよ」
なぜ親戚のおじさんが、不意にそんなことを言ったのかは
わかりませんが(笑)、なぜか今でも記憶に残っています。
その後、前職の会社でも「信頼」に関する研修を
取り扱っていました。
信頼を生み出す文化がある組織は、
スピードが上がり、コストが下がる。
シンプルだけれど、腑に落ちるルールでした。
そんなふうに、信頼の重要性は、
うっすらとそこにある空気のように、
私の中でずっと認識され続けていました。
一方、この「信頼」というテーマについて、
時系列で主要な論文をじっくり見たことはなかったなと。
信頼とは一体何なのか。
そして、これまでの研究でどんなことが語られてきたのか。
少し腰を据えて見てみたくなり、
これから何回かに分けて、
信頼をテーマにした論文をご紹介していこうと思います。
まず第一回目の本日ご紹介するのは、
1995年に発表された、過去の信頼研究を整理し、
概念的なモデルを構築した論文です。
信頼にはどんなタイプがあり、
それがどのように発達していくのか。
読んでいて、なかなかに面白いものでした。
それでは、どうぞ!
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<今回の論文>
・タイトル:TRUST IN RELATIONSHIPS: A MODEL OF DEVELOPMENT AND DECLINE(関係性における信頼:発達と衰退のモデル)
・出版:Conflict, Cooperation, and Justice: Essays Inspired by the Work of Morton Deutsch(Jossey-Bass Inc., Publishers, 1995年, pp. 133–173収録)
・著者:Roy J. Lewicki, Barbara Benedict Bunker
・所属:Roy J. Lewicki(オハイオ州立大学 経営・人的資源部門)/Barbara Benedict Bunker(ニューヨーク州立大学バッファロー校 心理学部)
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■30秒でわかるこの論文のポイント
・信頼には「計算に基づく信頼(CBT)」
「知識に基づく信頼(KBT)」
「一体化に基づく信頼(IBT)」という3つの段階がある
・関係が深まるにつれて、信頼はCBT→KBT→IBTへと
階層的に発展していく
・信頼が壊れやすいかどうかは段階によって違う。
初期は脆く、深まるほど多少のことでは揺らがなくなる
・信頼違反が起きた時のメカニズムも、
段階ごとにまったく異なる
■研究の背景
「信頼は、築くよりも壊すほうがずっと簡単だ」
この説は、協力や紛争解決の研究の中で、
30年以上も前提とされてきたものだそうです。
囚人のジレンマのような実験用ゲームでは、
協調関係が「一瞬の裏切り」で急速に崩れることが、
繰り返し示されてきました。
けれど、著者たちはここに疑問を投げかけます。
従来の信頼研究は、心理学、社会学、経済学、
社会心理学と、様々な分野にまたがっているものの、
それぞれが自分の得意な視点(性格特性だったり、
制度的な仕組みだったり、取引上の期待だったりします)に
閉じてしまっていて、統合された理論が存在していなかった、と。
また、これまでの交渉・紛争研究の多くは
「一回きりの取引」に偏っていて、
長期的な関係の中で信頼がどう育ち、
どう変化していくのかを説明できていなかった、
とも指摘しています。
■研究の目的
この論文が目指したのは、大きく2つです。
ひとつは、これまでバラバラに存在していた信頼研究の文献を、
整理し、批判的に見直すこと。
もうひとつは、対人関係やビジネス関係が
発展していくプロセスと連動させながら、
信頼がどう育ち、どう壊れていくのかを説明する、
包括的な概念モデルをつくることです。
その先にあるのは、「信頼は本当に脆いのか」という問いに、
もっと丁寧な答えを出すことでした。
■研究の方法
この論文は、実験やアンケートを行った実証研究ではなく、
文献レビューと理論構築による、
いわば「概念研究」です。
性格理論、社会心理学、制度経済学といった分野の定義を
比較・整理しながら、恋愛関係における信頼の発達段階を示した
Boon & Holmes(1991)のモデルと、
ビジネス関係における信頼を3つに分類した
Shapiro, Sheppard, & Cheraskin(1992)の枠組みを統合しました。
そこに、原因帰属理論
(何かが起きた時、その原因をどう解釈するかという理論)や、
Gottman(1993)の感情に関する理論も組み合わせて、
信頼が発達し、時に壊れていくプロセスを、
一つの動的なモデルとして描き出しています。
■わかったこと1:信頼には3つの段階がある
まず、信頼には次の3つのタイプがあるとされています。
・計算に基づく信頼(CBT)
逸脱すれば罰があるという抑止力や、
関係を続けることの合理的な損得計算に基づく信頼です。
繰り返しの取引や、評判を失うリスクが、
この抑止力として働きます。
まだ相手をよく知らない、
関係の初期段階に多く見られるものです。
・知識に基づく信頼(KBT)
相手について十分な情報を持ち、
行動を「だいたいこう動くだろう」と
予測できることに由来する信頼です。
日々のコミュニケーションや、
お互いを知っていく過程
(論文では「求愛」と表現されています)を通じて
築かれていきます。
・一体化に基づく信頼(IBT)
相手の望みや意図を、自分ごととして理解し、
内面化するレベルの信頼です。
お互いが相手の「代理人」のように行動できる状態で、
共通の目標や価値観、同じ場所で過ごす時間などによって
育まれます。
ここまでくると、もはや相手を監視する必要すらなくなる、
と論文は述べています。
■わかったこと2:信頼は段階を経て発展する(こともある)
信頼は基本的に、CBT→KBT→IBTという順序で、
階層的に発展していくとされています。
面白いのは、その移行には
「視点の転換」が必要だという指摘です。
CBTからKBTへ移る時には、
相手との違いに注目していた視点から、
共通点や似ている部分に注目する視点への転換が。
KBTからIBTへ移る時には、
個人的な感情や深い共感の芽生えが必要になる、
というのです。
ただし、すべての関係がIBTまで至るわけではありません。
時間やエネルギーの限界、構造的な制約、
あるいは相手を知りすぎたことで生まれる失望などによって、
CBTやKBTの段階に留まり続ける関係も
多いとされています。
また、IBTまで到達した成熟した関係であっても、
状況や環境の変化に応じて、
KBTとIBTの間を行ったり来たりしながら、
絶えず再調整が行われているようです。
■わかったこと3:信頼が壊れるメカニズムも、段階によって違う
ここが、個人的にとても興味深かった部分です。
CBTの段階での違反は、
まだ積み重ねてきた歴史や絆がないため、
たった一度の違反で、
一気にゼロまで転がり落ちてしまう。
論文では、これを「滑り台」に例えています。
KBTの段階での違反は少し違います。
期待とのズレが生じた時、
それが「状況のせいだったのか」
「意図的だったのか」という原因の解釈が行われ、
状況的な説明がつけば信頼は保たれ、
説明がつかなければ、認知の立て直しや、
一時的な距離が生まれます。
そしてIBTの段階での違反は、
核心的な価値観そのものへの裏切りとして受け取られます。
強い負の感情が生まれ、
それまで積み重ねてきたポジティブな感情との
バランスが崩れることで、
関係そのものが根本から揺らいでしまう、というのです。
■まとめと感想
信頼には、「計算に基づく信頼」
(たとえば、6時までに帰ってこなかったら
お母さんに怒られる、というようなもの)、
「知識に基づく信頼」
(ともに過ごす時間が増えることで生まれる信頼)、
そして「相手を自分と同一化する信頼」
(より深い相互依存の信頼が生まれる段階)がある。
この3段階の話は、私自身の感覚にも、
非常にすっと入ってくるものでした。
また、シャピロらが挙げていた、
「信頼の発達に寄与する4つの活動」
というのも興味深いものでした。
1.名前や集団としてのアイデンティティを共有すること。
2.同じ場所、同じ街、同じ部屋に居ること。
3.共同の製品や成果物を一緒に創造すること。
4.時間の経過とともに、少しずつ関係を深めていくこと。
とてもシンプルで、それでいて腑に落ちる内容でした。
(大学や大学院のプロジェクト課題とか、
まさに上記の4つが全て当てはまります…!)
一方で、信頼というものは、
特に初期段階ではまだ積み重ねがないぶん、
一度の違反で一気にゼロになってしまう。
そして期待にズレが生じたとき、
それに説明がつくかどうかが、
滑り台を滑り落ちるように
信頼が一気に崩れてしまうかどうかの分かれ目になる。
そして最後の、同一化にまで至った段階では、
逆に核心的な価値観への裏切りとなり、
強い負の感情を生んでしまう。
…実際に日々の関係の中でも
気をつけるべきところだな、と感じました。
特に、信頼を築いている最中は、
たった一度の失敗が、
関係全体を一気に決裂させてしまう可能性がある。
だからこそ、繊細な扱いが必要なのだ、
と改めて思わされた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:35km
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