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令和8年7月12日(第4521号)
今週の一冊『成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 2956字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日土曜日は、大学院仲間と、
夜のランニング部からの懇親会でした。
ランニングをしているということを通じて、
多くの繋がりが生まれていることに、ありがたいなあ、と感じる時間でもありました。
*
さて、本日のお話です。
毎週日曜日は、最近読んだ本の中から、おすすめの一冊をご紹介しています。
今週ご紹介する本は、こちらの一冊です。
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『成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』
加藤洋平(著)
https://amzn.asia/d/02T8pcF9
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著者の加藤洋平さんは、成人発達理論を専門に研究されている研究者のお一人です。
私自身も、成人発達理論に関しては
『リーダーシップ・サークル・プロファイル360°』という
関連するアセスメントの資格を持っており、
仕事の中でしばしばこの考え方に触れる機会があります。
今日はそんな話も交えながら、
本書からの学びを書いてみたいと思います。
それでは、どうぞ!
■成人発達理論とは何か
成人発達理論というのは、
成人の意識が段階的に発達していくプロセスを扱う理論です。
それは、自分の成長だけに執着するのではなく、
自分と他者、社会との関係性の中で視野が広がっていくこと、
そして視点が高まっていくことを意味しています。
視点が高まるというのは、
いまの構造や慣習を、俯瞰的に見られるようになるということでもあります。
つまり、成人発達理論の背景にあるのは、
「もっと高いステージに行くこと」や「上のステージに行くほど優れている」という
能力主義の話ではない、ということ。
そこには時に停滞や葛藤も含まれており、
それもまた成長にとって重要なプロセスであるという
メッセージが込められています。
そんな中で、
いまの新自由主義的な考え方は、
効率性や成長ということに過度にフォーカスしており、
あらゆるものが成長の強要や能力主義の正当化に使われてしまっている危険性がある…、
本書ではそのことが、多くの哲学者の言葉を引用しながら、
さまざまな観点から論じられています。
■本書で印象に残った3つのポイント
さて、実査に読んでみて、印象に残った3つのポイントを紹介します。
1)「成長疲労社会」の特徴
ドイツの哲学者ビョンチョル・ハンが指摘する
「疲労社会」「ハッスルカルチャー」を参照しながら、
常に自己改善・常にパフォーマンスが求められる環境が描かれています。
「もっと成果を」「もっと変容を」という量的成長への飽くなき欲望が、
人々の自我を肥大化させながらも、
むしろ自尊感情やウェルビーイングを損なってしまうという逆説が指摘されています。
たとえば、マインドフルネス・休暇・読書といったものまでもが、
すべて「自己成長」や「仕事に役立つもの」として絡め取られている…と。
あらゆるものが「自分磨き」の材料にされ、商売にされてしまっている。
我が身を振り返って、実際に自分も当てはまるなあ…と納得してしまいました。
(ピアノの発表会に向けて難曲にチャレンジする、
ランニングで更なる成長を目指すとかも、その一つかもしれません)
2)健全な自我の発達とは何か
本書では、健全な自我の発達を
「自己中心性の縮小」と「利他性の拡大」として説明しています。
成人発達の高次段階とは「自分の成長」だけに執着するのではなく、
自分と他者・社会との関係性の中で、何をどこまで成長させるのかを、批判的・倫理的に選び取っていく能力を含んでいる、ということです。
その中で、利己的な成長に傾倒していないだろうか、というメッセージも、
我が身を振り返って、思い当たるところがあるようにも思いました。
前よりマシになったとは思いますが。
3)発達理論の誤用
新自由主義的な社会では、成人発達理論のステージ概念が、
「もっと高いステージに行けない人はダメ」「上のステージほど優れている」という
能力主義・序列化の装置として使われてしまう傾向があります。
余談ですが、ちょうど先日、私の息子も田中ビネー式を受検し、その結果を聞きました。
要は、IQテストにまつわる話ですが、もともとこのテストは、
心理学者のビネーが、子どもの発達状況を見て、
どのような教育的アプローチや発達支援が必要かを知るために作られたものでした。
つまり、そこに序列を付けるなどの発想はなかった。
それがアメリカに輸入された際、徴兵のための選別・序列化の材料として使われたり、
優生思想に組み込まれてしまったりした背景があるといいます。
本来、成長や発達を支援するためのアセスメントやテストが、
いつのまにか人を順位づけるためのものになってしまう。
それは入試なども含めて、
さまざまな場面で起きていることだと、本書では指摘されています。
■成長疲労への処方ワークの活用
では実際に、私たちはこの成長疲労社会の中で、
効率性や成長への強迫的な感覚から、どう距離を置くことができるのでしょうか。
本書ではいくつかのワークが紹介されており、
その中で個人的に面白いと感じたものをいくつかご紹介します。
1.多種多様なことへの挑戦:
金銭獲得や出世を目指した活動ではなく、純粋な趣味として楽しめる活動、あるいは本当はやってみたいと思っていることをやってみる。
2.利己の内省と利彼の確認:
自分の実践が利己的になっていないかを確認し、自分中心の発想から、誰かのためになる行動は何かを考えてみる。
3.自分にできないことのリストアップ:
できることではなく、やりたくてもできないことをリストアップする。それによって、自分にはできないことができている他者への尊重の念が生まれる。
4.言葉の感性の涵養:
日々の言葉が機能的・機械的になりすぎていないかを確認し、心に養分を与えてくれる詩や歌詞を探して味わう。
5.丸1日のデジタルデトックス:
SNSを含め、丸1日デジタルから離れてみる。
6.休息や休暇の自分なりの意味づけ:
勤労を美徳とする労働観の中では、休息や休暇は「停滞」や「退行」のように捉えられがち。しかし、停滞・退行こそが発達につながる側面がある。
7.旅の勧め:
国内でも国外でもいいので、旅に出かけてみる。旅は視点取得能力を育ててくれる。自分の認識の枠組みを広げ、これまで取れなかった視点を取らせてくれる。
8.自分の痛みや苦痛の検証:
自分自身に与えられた贈り物は、実は自分の中にある痛みや苦痛そのものである、という捉え方。否定的な出来事による痛みや苦痛を克服したときにこそ、何かを得られることがある。
このほかにも、「驚きの体験のワーク」や、「日々の活動を断捨離する」、「人生の意味や自分の存在を問う」、「自分の中にある関心事を追求する」など、さまざまなワークが紹介されています。実際にやってみると、なかなか面白いものだなと感じました。
■まとめと感想
いまの新自由主義の副作用として生まれている
”成長への強迫観念”、”効率化こそ正義”、”常に秀でていかなければならないという感覚”、
そこから少し距離を置くための視点を養ってくれる、そんな一冊でした。
一方、とはいえ、老後問題や、経済的なことを含めて、
「成長」=「豊かさ」のようになっていることもある気がして、
成長を手放してみるのもよいけど、本当にそれでいいのだろうかと思う自分もいます。
まさに、私は思い切りその文脈に絡み取られている人なのですが(汗)、
成長だけでも、余暇だけでもない、
二項対立ではない自分なりの答えを、改めて立ち止まって考えてみたい、
そんなことを思った次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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【編集後記】
◯今月のランニング:109km
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