配信日時 2026/07/06 08:34

毎日「ありがとう」と言っているのに、なぜすれ違うのか? ー『伝える感謝』と『届く感謝』の違いの研究ー【カレッジサプリ】

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令和8年7月6日(第4515号)


毎日「ありがとう」と言っているのに、なぜすれ違うのか?
ー『伝える感謝』と『届く感謝』の違いの研究ー


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3542字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、午前中は13キロのランニング、
ならびに子どもと遊んだりでした。

午後からは、
立教大学の中原先生のゼミの主催で行われた
「リフレクションワークショップ」への参加でした。

ものすごく濃厚な内容なのに、なんと無料(!)という震える企画でした。
申込者は700名超。

リフレクションの奥深さに、知的刺激を大いにもらって、俄然やる気ができました。
強み本も、早く、世に出したいという気持ちが大きくなる今日この頃です。

まだものすごく半ばですが、だいぶ固まりつつあるので、
今週はしっかりと進めていきたいと思います。



さて、本日のお話です。

先日、「感謝」に関する論文をご紹介しました。

参考:妻に「最近ありがとうって言わなくなったね」と言われた日のこと ー感謝を言葉にする科学ー
https://note.com/courage_sapuri/n/ne94dc04d6e2b

上記記事の内容としては、

「感謝を心の中で思い出すこと」と「実際に相手に伝えること」は効果として別物だよ、
だから『思っているだけじゃなくて、伝えることが大事なんだよ!』

という結論を、大いなる自戒を込めて書いてみました。


今回は、その論文の結論を、更に深めるような「感謝」の研究をご紹介します。

この論文のテーマは、


「ありがとう」と伝えても、相手にちゃんと届いていなければ、その感謝は機能しないのではないか?


という疑問を探究したものです。

「言い表された感謝」と、「知覚された感謝(=相手が感じ取れた感謝)」。

この二つのあいだには、思った以上の差があるのかもしれない。

そんな問いを出発点にした研究です。

この二種類の感謝がカップルの「関係の質」にどう影響するのか——

そのことを、アフリカ系アメリカ人のカップルを対象に、
横断・縦断の両方で調べた、読み応えのある一本です。

それでは、どうぞ!


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■今回の論文
・タイトル:Expressed and Perceived Gratitude as Buffers Against Relationship Stressors Among African American Couples
 (「言い表された感謝」と「知覚された感謝」——アフリカ系アメリカ人カップルにおける関係ストレスへの緩衝効果)
・出版:Journal of Social and Personal Relationships(2023年、第40巻5号 1622–1644頁)
・著者:(ProSAAF研究グループ)
・所属:国立児童保健発達研究所 / 国立老化研究所(NIH)助成研究
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■30秒でわかるこの論文のポイント

・感謝には「伝える感謝(Expressed)」と「感じ取れる感謝(Perceived)」の2種類がある

・パートナーから感謝されていると知覚することが、ケンカや経済的苦境による関係悪化を強力に緩衝した

・一方、「伝えた感謝」の方は、保護効果をほぼ示さなかった

・この効果は16ヶ月の縦断追跡でも確認され、男女差もみられなかった

・「気持ちが届く感謝」をつくるには、伝え方の質そのものを変える必要がある



■研究の背景——「感謝の経済」という視点

社会学者のアリ・ラッセル・ホックシールドはこう述べました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「カップルが衝突する時、それは誰が何をするかという問題ではなく、
感謝を与え、受け取ることを巡って争っていることが極めて多い」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これを「感謝の経済(economies of gratitude)」と呼びました。

この言葉を読んだ瞬間に「たしかに……」と思いました。

家事の分担がどうとかじゃなくて、
「自分のことを大切にしてくれているかどうか」の問題、
それが関係のコアにある、ということだと思うのです。

この分野の研究は近年進み、
ロマンティックな関係(恋愛関係)における感謝には大きく2つの形がある、と整理されてきました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・言い表された感謝:パートナーへ感謝を伝えること。
・知覚された感謝:パートナーから感謝されていると感じること、大切にされていると実感すること。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この2つを同時に測定し、
お互いの効果を統計的に制御した上で分析した研究は、これまでほとんど存在しなかった。

それが本研究の出発点です。



■研究の方法

対象は、ジョージア州の地方コミュニティに住む316組(計632名)のアフリカ系アメリカ人カップル。
全米平均を上回る失業率・貧困率の地域です。
平均年齢は女性が37.5歳、男性が39.8歳。

子どもが少なくとも1人いる家庭で、
平均7〜10年ともに生活してきた、
いわゆる「人生の苦楽を共にしてきたカップル」たちです。

3つの時点(Wave 1・2・3)で約16ヶ月かけてデータを収集。

カップル構造(時間 × 個人 × ペア)に対応したマルチレベルモデルで分析し、
さらに多重比較補を適用した統計処理をしました。



■主な結果(わかったこと)

◯わかったこと⑴:「知覚された感謝」が関係を守る緩衝材になる

最も印象的な発見は、これです。

パートナーから感謝されていると感じている人(知覚された感謝が高い人)は、
不毛な言い合いが増えても、経済的に苦しい状況になっても、
「関係満足度・信頼感・関係の安定性の低下が大幅に抑えられた」ということ。

具体的には、

知覚された感謝が低い人は、
不毛な議論の増加とともに満足度急激に落ちていくのに対し、

知覚が高い人はその下落幅が半分以下に留まりました。

経済的困窮については、
知覚が高いグループでは、困窮が増しても満足度への悪影響がほぼ消えてしまった(統計的に非有意化した)という
驚きの結果まで出ています。

つまり、「大切にされている」という感覚は、
外からのストレスにも内からの摩擦にも、
まるでクッションのように機能するのです。


◯わかったこと⑵:「伝えた感謝」は、ほぼ空振りに終わった

そして、もうひとつ興味深いのが、
Expressed Gratitude(言い表された感謝)には、
保護効果がほとんど確認されなかったという点です。

多重比較補正を通過した有意な緩衝効果は、
個人間でも個人内でも、ゼロ。

これは、「ありがとうと言っていれば大丈夫」というわけにはいかない、ということです。

まさに、伝えることと届くこと、
この二つは、まったく別の話なのだと気づかされます。


◯わかったこと⑶:その効果は16ヶ月後も続いていた

縦断分析(16ヶ月追跡)においても、
日頃から知覚された感謝が高いカップルは、

その後に不毛な議論が増えたとしても、
関係満足度と信頼感の下落幅が有意に浅いことが確認されました。

感謝が高い群の信頼感の低下は、低い群の半分以下に留まっています。

日常の積み重ねが、
将来の嵐に備えた「信頼の貯金」になる、ということなのだと思います。

また、すべてのモデルにおいてジェンダーによる差は見られませんでした。
男性にも女性にも、同等に有効な知見です。



■考察:なぜ「伝えた感謝」は届かないのか

論文では、Expressedが空振りする理由としていくつかの要因が示唆されています。

ひとつは「定型句のルーティン化」。

「ご飯ありがとう」「ゴミ出しありがとう」が義務的なやりとりになってしまうと、
相手は"大切にされている"とは感じにくくなります。

もうひとつは「認知のバイアス」。

経済的なストレスや育児疲れがある時、
人は相手のポジティブな言動を見落としやすくなります。
普通に「ありがとう」と言っても、相手のアンテナに引っかからない状態になっているのです。


■「相手に伝わる感謝」の3つのポイント

では、どうすればいいのでしょうか?

論文の知見を踏まえると、届く感謝には3つの要素が大切といえます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
⑴「行動」ではなく「相手の存在や資質」に焦点を当てる。

「掃除してくれてありがとう」よりも、
「いつも気がついてくれてありがとう。あなたって本当に気が利くね」。
相手は、労働ではなく、自分の心を見てほしいと言えそうです。

⑵「自分がどう助かったか」を具体的に伝える。

「お迎えありがとう」ではなく、
「おかげで締め切りに間に合った。本当に助かった」と。
自分の感情と恩恵をセットにすることで、相手は"自分の貢献に意味があった"と実感できます。

SBIフィードバック(どんな状況で:Situation/どんな行動が:Behavior/どんなインパクトを与えたのか:Impact)
が大事なのですね。


⑶「相手がコストを払ってくれた」と認識していることを伝える。

疲れているのに家事をしてくれた時、
体調が悪いのに気を遣ってくれた時。

「疲れているのにありがとう」の一言は、
相手の犠牲をちゃんと見ているよ、というメッセージになります。



■まとめと感想

改めて思ったのは、たとえ毎日「ありがとう」と言っていても、
それが相手にとって受け取れるタイミングでなければ、
届いていないかもしれない、ということでした。

定型化した「ありがとう」は、
習慣になる分、心が入りにくくなります。

ふと思えば、私が「ありがとう」を言わなくなったのは、 
この定型的な「ありがとう」を妻に指摘されたことが始まりでした。

そして、私の心の小ささから、
それをきっかけに口に出すことが減り、更に伝わらなくなり、
「最近ありがとうって言わなくなったね…」という悲しいフィードバックをもらうことになったのでした。
(そういう意味では定型句のルーティン化のほうがまだマシなのかもですね)

いずれにせよ、相手が話を聞けるタイミングで、
目を見て、具体的に伝えること。

そのひと手間が、知覚された感謝に変わっていくのだと思います。

「ありがとうの質」が大事である。

それを意識する習慣を、少しずつ育てていきたいと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

※ 本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
https://note.com/courage_sapuri/n/n5649e2cd0aaa?app_launch=false
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【編集後記】
◯今月のランニング:37km

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