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令和8年7月4日(第4513号)
夫婦間での「ありがとう」が、仕事のパフォーマンスを変える?!
—育児期夫婦115組の研究からー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3652字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は1件のアポイント。
また、8kmのランニング。
その他、時間ができたので
「強み本」の執筆と編集者の方との打ち合わせでした。
紆余曲折ありながら、ようやく方向が定まって、
ゴールまでのルートが見えてきました…!
ここから一気に形にしていきたいと思います。
本当に、「本」を一冊形にするのも本当に大変なんだな、と思う次第です。
*
さて、本日のお話です。
急に私事ですが、我が家には就学前の子どもがおります。
仕事で疲れても、子どもの顔を見て、
ちょっと戯れると元気がもらえたりします。
家族で夕ご飯を食べて、ランニングしたりして、
一緒に川の字になって布団に横になると、「幸せだなあ」としみじみ感じます。
逆に、子どもが不機嫌で、
それにつられて妻も不機嫌になったりして、
そして暗鬱とした空気が数日漂うループに入るときは、
仕事をしていても、気になったりします…。
仕事も家庭も、地続きでお互いに影響をし合っている。
少なくとも私は、そう感じています。
そして、同じように感じている方も少なくないのでは、と思います。
今回は、就学前の子を持つ夫婦を対象に、
「夫婦間の感謝」が仕事と家庭をつなぐ結節点として
どのように機能しているかを検討した、日本発の研究をご紹介します。
納得感が高く、また男女でその心理プロセスがまったく異なるという、興味深い内容でした。
ということで、早速みてまいりましょう。
それでは、どうぞ!
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<今回の論文>
・タイトル: Enhancing Mental Health Among Couples with Preschool Children: Exploring the Impact of Gratitude on Spillover and Compensation Between Home and Work Realms
(育児期夫婦における感謝が精神的健康に与える影響 ―仕事と家庭のスピルオーバー・補償に着目して―)
・出版: 認知行動療法研究,50(1), 13–23, 2024年
・著者: 伊藤 里菜(Lina Ito)、池田 浩之(Hiroyuki Ikeda)
・所属: ティーペック株式会社、兵庫教育大学大学院学校教育研究科
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■30秒でわかるこの論文のポイント
・就学前の子を持つ夫婦115組を対象に、
夫婦間の「感謝」が精神的健康に与える影響を調査
・妻は「仕事の充実(ポジティブ・スピルオーバー)が家庭に波及」→感謝→仕事が癒やしの場に」
というプロセスを経る
・夫は「仕事のストレスを家庭で癒やされる(補償)→感謝→家庭が仕事に悪影響を与えなくなる」
という職場完結型のプロセスを経る
・夫婦ともに「しているつもり」の感謝と「されていると感じる」感謝の間にはズレがある
■なぜこの研究が生まれたのか ー研究の背景ー
日本では共働き世帯が年々増加しており、
育児期の男女は仕事・家事・育児という複数の役割を同時に担っています。
しかし、それらをうまく両立できていると感じている人は少なく、
育児と仕事の両立に何らかの困難を感じている人は
約70%にのぼるという調査結果もあります(内閣府男女共同参画局,2020)。
先行研究では、育児期の父母の精神的健康には
「夫婦関係の質」が大きく関わること、また仕事や家庭の状況が生活満足度影響することはわかっていました。
しかし、「夫婦間の感謝」と「仕事・家庭間の相互作用」を
かけ合わせた研究はほとんど存在しませんでした。
この研究は、その空白を埋めるために設計されています。
「感謝」というコミュニケーション行動が、
仕事と家庭の関係をどのように変え、精神的健康へとつながるのかを、
妻と夫それぞれにモデル化した点に高い新規性があります。
◯キーワード:スピルオーバーと補償とは
本論文には少し専門的な言葉が登場しますので、先にご説明します。
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*「スピルオーバー(spillover)」 とは…
仕事と家庭のどちらか一方の経験が、もう一方にそのまま波及することを指します。
仕事で気分よく過ごせたからこそ家でもご機嫌でいられる——これが「ポジティブ・スピルオーバー(PSP)」。
反対に、職場でのストレスをそのまま家庭に持ち込んでしまう——これが「ネガティブ・スピルオーバー(NSP)」です。
*「補償(compensation)」 とは・・・
一方の領域での不満や疲れを、もう一方の満足感で埋め合わせることを意味します。
「仕事は大変だけれど、家に帰れば癒やされる」という感覚がまさにこれにあたります。
(=仕事から家庭への補償)
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■研究の方法
関西圏の幼稚園・保育所・子ども園を通じて、
就学前の子を持つ夫婦115組を対象に、郵送による自記式質問紙調査を実施(2018年9月〜11月)。
夫婦が互いの回答を見られないよう封筒を分けて配布・回収するなど、
プライバシーへの配慮も徹底されていました。
測定した主な項目は以下のとおりです。
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・家事・育児への感謝: パートナーへ「する感謝」と、パートナーから「される感謝」を7件法で測定
・スピルオーバー尺度(小泉他,2007): PSP・NSP・補償の6下位因子、31項目
・主観的幸福感尺度: 人生の面白さなどを問う12項目
・GHQ30: 精神的・身体的健康度を問う30項目(得点が低いほど健康度が高い)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
得られたデータは共分散構造分析(パスモデル)によって解析されました。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:妻は「仕事の充実」が感謝のスイッチになる
妻においては、以下のプロセスが確認されました。
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「仕事から家庭へのPSP(仕事での充実感)」
→ 「夫への感謝(する感謝)」
→ 「家庭から仕事への補償の高さ(家庭のストレスを仕事が埋め合わせする)」
→ 「主観的幸福感・精神的健康の向上」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
妻は家事・育児の負担が大きい分、心に余裕が生まれにくい状況にあります。
そこに「仕事がうまくいって気分よく帰宅できた」という経験が加わることで、
夫が家事や育児をしてくれていることへの感謝がすんなり湧いてくる。
そして、おそらく家庭から仕事の切り替えがうまくいき、
「家庭のストレスを仕事が埋め合わせてくれる場所(補償)」として機能するようになる。
このプロセスが、妻の精神的健康を支えていたことがわかりました。
また注目すべき点として、「夫から感謝される」ことよりも
「自分から夫に感謝する」ことのほうが、
家庭を癒やしの場に変える上でより強い関連を持っていました。
◯わかったこと2:夫は「家庭での癒やし」が感謝のスイッチになる
夫においては、まったく異なるプロセスが確認されました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「仕事から家庭への補償(仕事のストレスを家庭が埋め合わせする)」
→ 「妻への感謝(する感謝)」
→ 「家庭から仕事へのNSPの低減(家庭から仕事へのモヤモヤの持ち込みが少ない)」
→ 「主観的幸福感・精神的健康の向上」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夫の場合、仕事の調子が良いからといって、
それが直接、妻への感謝にはつながらない。
むしろ、「仕事が大変でストレスがあっても、家に帰ってくるとリラックスできた(補償)」
という体験があってはじめて、妻の存在への感謝が生まれます。
そしてその感謝が夫婦間の空気をよくすることで
、「家庭のモヤモヤをそのまま職場に持ち込んでしまう(NSP)」という悪循環が断ち切られ、
仕事に集中できるようになる。
その結果として、精神的健康が高まるというプロセスです。
◯わかったこと3:男女共通の発見と「感謝のズレ」
夫婦ともに共通して、
家庭から仕事へのNSPが低く、補償が高いこと——
つまり「家庭が仕事に悪影響を与えない」かつ「家庭が仕事の疲れを癒やしてくれる」という状態が、
精神的健康と強く結びついていました。
もう一つ、興味深い発見があります。
「自分がパートナーに感謝している」という認識と、
「パートナーから感謝されている」という実感の間に、
夫婦ともに有意なズレがあることがわかりました。
つまり、どちらも「しているつもり」になっているのです。
感謝の恩恵を最大化するには、
「伝えているつもり」で終わらず、言葉や態度として相手にしっかり届けること、
またパートナーが伝えようとしている感謝をきちんと受け取ることが求められる、
と著者らは述べています。
■まとめと感想
めっちゃ面白い研究でした…!
「仕事から家庭への補償(仕事での疲れを、家庭が吸収してくれる)」ということが感謝につながり、
ヘルシーな気持ちで仕事に臨める…というのは、私の体感覚にぴったりあっていました。
ちなみに、今回の研究で新鮮だったのは、
「スピルオーバー」と「補償」という概念でした。
仕事と家庭が別々の世界ではなく、お互いに波及し合っている、
そのことは感覚的にわかっていましたが、
こうして言語化されると、改めてはっとするものがあります。
また育児期の男女の場合、
妻は「家庭のストレスを仕事で解消」であり、
夫は「仕事のストレスを家庭で解消」というプロセスの違いがあるのも、興味深いことでした。
そして、感謝は「しているつもり」では届かない、というメッセージも刺さりました。
先日も、メルマガに書いた話と、奇しくも同じことを言われましたので…(汗)
感謝というのは、相手の心に着地してはじめて意味を持つ。
それはパートナーとの関係だけでなく、
職場でも、日常のあらゆる関係においても言えることではないかと思います。
そして、家庭という場が、
仕事と人生の両方を支える「充電器」のような役割を果たしている、
そのことを、改めて大切にしたいと感じた研究でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
※ 本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
https://note.com/courage_sapuri/n/nd7ee1f13d167?app_launch=false
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【編集後記】
◯今月のランニング:23km
【メルマガのご感想について】
メルマガのご感想は、このメールに直接ご返信いただければ紀藤にのみ届きます。
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