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令和8年7月3日(第4512号)
妻に「最近ありがとうって言わなくなったね」と言われた日のこと
ー感謝を言葉にする科学ー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3342字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、午前中に外部支援として
関わらせていただいているクライアント様の
「企業内大学」の立ち上げキックオフでした。
一つのアイデアを形にすることは、
たくさんの人の協力が必要です。
そして多くの人を巻き込むために、
理想だけでなく、現実的な勝ち筋も見せていく必要がある。
そうした一つ一つのプロセスの大切さを噛みしめる時間でした。
これからいよいよ具体化していくステップが、とても楽しみです。
また、午後からも外部人事パートナーとして関わっている企業様への
コーチング&コンサルティングでした。
そして、夕方は15kmのランニング。
*
さて、本日のお話です。
私事で、かつお恥ずかしい話なのですが、
妻と付き合い始めた頃、
「こんなにありがとうって言わなくても、初めて見た」
と言われていました。
それが十数年経ち、子供も生まれ、
以前よりずっと妻にはお世話になっているはずなのに、先日こんなことを言われたのです。
「やすさん(私のこと)、最近ありがとうって言わなくなったよね…」
・・・と。
いや、感謝はしているんです。
でも、身近な存在になると、
なんだか照れくさくなって「ありがとう」という言葉が言えなくなってしまう気もする…。
もしかすると、このことは、
私だけではなく他の人もそうかもしれません。
両親、パートナー、親友。
「ありがとう」と思っていても伝えられない。
「ありがたいと思っている」と心の中で念じたとしても、
思っているだけでは伝わらない。
さて、そんな「感謝」について、
「感謝していると『思うこと(回想)』」と
「感謝していることを『伝えること(共有)』」は、
本人にも相手にも、どのような違いをもたらすのか?
今日は、私の疑問に答えるかのような、そんな論文を紹介します。
感謝という行為について、
「行為者・対象者・目撃者」という3つの役割と、
「回想・共有・享受・目撃」という4つのプロセスに分解して検証した、
非常に興味深い研究です。
結論からいえば、
「日々の感謝は、やっぱり声に出して伝えるべきである」、
そう確信できる内容でした。
それでは、どうぞ!
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■今回の論文
・タイトル: The role of actors, targets, and witnesses: Examining gratitude exchanges in a social context
(行為者、対象者、目撃者の役割:社会的文脈における感謝の交換の検討)
・出版: The Journal of Positive Psychology, 2022年(Vol. 17, No. 2, pp. 233–249)
・著者: Lisa C. Walsh, Annie Regan, Sonja Lyubomirsky
・所属: カリフォルニア大学リバーサイド校 心理学部
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■30秒でわかるこの論文のポイント
・感謝を「心で思う(回想)」と「相手に伝える(共有)」は、もたらす効果が異なる
・伝える側は自分の気分・状態感謝が高まり、
さらに伝えることで関係の親密さも増す
・伝えられた側は感動と感謝が高まり、
同時に「お返しをしたい」という良い意味での負債感も生まれる
・第三者として感謝のやり取りを目撃した場合は、
感動は高まるが自身の状態感謝は一時的に低下することがある
・感謝の効果は、
誰の立場か・どのプロセスを経るかによって、まったく異なる姿を見せる
■なぜこの研究が必要だったのか ー研究の背景
Martin Seligmanらが「感謝訪問(Gratitude Visit)」という手法を開発して以来、
感謝に関する研究は数多く積み重ねられてきました。
しかしそのほとんどが「感謝を表現した人(行為者)」だけに焦点を当てており、
「感謝を受け取る側(対象者)」や、
「やり取りを傍らで見る側(目撃者)」の心理は
ほとんど調べられてきませんでした。
さらに問題があって、
「感謝を表出する(express)」という言葉のもとに、
心の中で思うことと実際に声に出すことが混同されたまま研究されてきた経緯があります。
本研究はその混同を丁寧に解きほぐし、
<「3つの役割」(行為者・対象者・目撃者)
× 「4つのプロセス」(回想・共有・享受・目撃)>
という新しいフレームワークで感謝の全体像を捉え直そうとしたのです。
■どんな実験をしたのか ー研究の方法ー
研究1では、大学生369名(行為者)が親247名(対象者)に向けて手紙を書きました。
テーマは「感謝」または「日常活動」のどちらか。
さらに、その手紙を「親に直接伝えるグループ」と
「自分だけの秘密にするグループ」に分けられました(2×2デザイン)。
1週目に準備し、2週目に手紙を書き、
3週目に効果を測定するという3週間の縦断的な設計です。
*
研究2では、高校生267名(目撃者)が、
他人(仮想のピア)が誰かに宛てて書いた手紙を第三者として読みました。
手紙の種類は「感謝の手紙」「良いニュースを伝える手紙」「日常的な中立な日記」の3条件で比較されました。
測定された項目は、
状態感謝、気分、ポジティブ・ネガティブ感情、
人生満足度、負債感、感動、関係の親密さなど、
多岐にわたります。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:「思う」だけでも効果はある。しかし「伝える」と、更なる成果が生まれる
感謝を心の中で思い出す(回想)だけでも、
日常の活動を思い出すグループと比べて、
その瞬間の状態感謝・気分・満足度が有意に向上しました(部分相関 r = .10〜.15)。
でも、それを親に直接伝えた(共有した)グループはさらに違う変化を見せました。
状態感謝やポジティブ感情・感動が高まるだけでなく、
親との「関係の親密さ」が最も大きく向上しました(r = .13〜.19)。
つまり、感謝を思い出すことは「自分の内側」を豊かにし、
伝えることは「あなたとわたしの間」を豊かにする、ということ。
これが今回の研究が示した、明快な違いです。
◯わかったこと2:感謝をされた親は、感動して「お返し」したくなる
子供から感謝を伝えられた親(対象者)は、
状態感謝・感動(Elevation)が有意に高まりました(r = .14〜.16)。
それだけではありません。
同時に「負債感(Indebtedness)」も有意に上昇した(r = .15)
という点が非常に興味深いところです。
ここでの「負債感」は、重荷でも申し訳なさでもありません。
「子供がこう思ってくれているのだから、何かお返ししてあげたい」という返報性のような感情です
感謝は、される側の中にも次の感謝と親切を育てる——
そういう良い循環の芽を植えるのだと、このデータは教えてくれています。
◯わかったこと3:他人の感謝を「目撃する」のは、諸刃の剣だった
感謝の手紙を第三者として読んだ高校生(目撃者)は、
中立な文章を読んだグループよりポジティブ感情と感動が有意に高まりました(r = .24)。
感謝の場面には、傍らで見ているだけでも人の心を動かす力がある。
ただし、もう一つ、非常に興味深い発見がありました。
他人の感謝のやり取りを目撃した生徒は、
他の2グループと比較して自身の「状態感謝」が一時的に低下したのです(r = −.12)。
それはなぜか?
研究者たちは、他人の仲睦まじい親子・友人関係の感謝を見ることで、
社会的比較(「自分にはこういう関係がない」)や
羨望(envy)が心のどこかで働いてしまった可能性を指摘しています。
ただ一方で、感謝の場面を見て
素直に「感動(Elevation)」を覚えた目撃者に限っては、
その後のポジティブ感情や人生満足度がしっかり高まるという媒介効果も確認されています。
感謝を見て「うらやましい」より「素敵だな」と受け取れるかどうかという姿勢が、分かれ目になるようです。
■まとめと感想
この論文を読んで改めて確認できたのは、
感謝は「思っているだけよりも、伝えた方が良い」という、
シンプルかつ重要な事実でした。
心の中で感謝を思い出すだけでも、
その瞬間の気分や人生への満足感は高まります。
でも、それを相手に伝えると、
自分の状態感謝がさらに高まるだけでなく、
ポジティブ感情・感動、 Mammそして関係の親密さまでが一緒に高まる。
伝えることの効果は、思うことの効果を、質的に超えていくのです。
そして受け取る側の親も、感謝をされることで
感動し、感謝を覚え、「もっとお返しをしたい」という気持ちになる。
感謝は一方通行ではなく、
やり取りの中で互いを動かしていくものなのだと、データは語ります。
関係性のお作法として、感謝は伝えていったほうがよい。
思っているだけでは伝わらないし、伝えることで、自分も相手も、そして関係も良くなる。
ということで、日々の小さな感謝を声に出すことを、
自分も増やしていきたいものだ、そんな風に思った次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:15km
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