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令和8年6月22日(第4501号)
「走ることで、心が整う」と感じていたら、科学もそう言っていた話 ー1万4000人のメタ分析が示した答え
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 4102字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日日曜日は、書籍の執筆を午前に行いました。
出版が決まってから1年たちますが、相当苦戦しております。
市場が変わっていく中で、商業出版として出版をするときに、
「自分が書きたこと」とと「求められていること」を一致させるのは、本当に大変なことなんだな・・・と痛感します。
さて、そんな中で、午後から同じく出版関連へ、家族で参加。
友人であり、立教大学の講師仲間でもあった谷口恵子さんの出版記念イベントに伺ってきました。
(『最小のインプットで最大の結果を出す ずるい勉強法』。おすすめです↓)
https://note.com/courage_sapuri/n/n2721ad338344
個性的な方々が集まっており、大変面白い場でした。
また夜は、7kmのランニングでした。
*
さて、本日のお話です。
私ごとですが、いつからか欠かせなくなった習慣が「ランニング」になりました。
その理由の大きなものの一つが「心が安定するから」です。
正直、生きていると、色んな気持ちになります。
元気な日もあれば、モヤモヤする日もある。
自信に溢れているときもあれば、自分にガッカリするときもあります。
そんなときに、ランニングをすると、気分がスッキリする。
「体」以上に「心」へ働きかけてくれる。そのことを日々体感しています。
さて、今日はそんな「走ること(ウォーキング・ジョギング)」に関する効果について、218研究、1万4000人を統合したメタ分析の結果をお伝えします。
結論「30分の運動」が、場合によっては「心理療法」以上に、心の健康に実によい影響を与えることが科学的に示されていました。
今日は、そのエビデンスを示す論文をご紹介したいと思います。
それでは、どうぞ!
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<今回の論文>
・タイトル: Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials(うつ病に対する運動の効果:ランダム化比較試験の系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス)
・掲載誌: The BMJ (British Medical Journal), 2024;384:e075847(2024年2月14日オンライン公開)
・著者: Michael Noetel, Taren Sanders, Daniel Gallardo-Gómez 他15名
・所属: オーストラリア・カトリック大学(Institute for Positive Psychology and Education)、クイーンズランド大学、サザンクロス大学、セビリア大学(スペイン)、南デンマーク大学(デンマーク)他
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■30秒でわかるこの論文のポイント
・218の研究・14,170人を統合した、運動とうつ病に関する史上最大規模のメタアナリシス
・ウォーキング/ジョギング・ヨガ・筋力トレーニングの効果が特に高く、抗うつ薬や心理療法と同等かそれ以上の効果量を示した
・運動の強度が高いほど効果も高い(用量反応関係)が、低〜中等度の運動でも臨床的に意味のある改善が得られる
・筋力トレーニングとヨガは脱落率が低く「続けやすい」という点でも優秀
・運動はうつ病の「補助的選択肢」ではなく、第一選択肢(ファーストライン)として位置づけられるべきだと著者らは主張している
■なぜ、運動とうつ病を研究するのか
「うつ病」の障害は、世界中で多くの人の生活の質(QOL)を深刻に損なう疾患です。
現在の主な治療法である抗うつ薬や認知行動療法などの心理療法は有効ですが、副作用・費用・アクセスの制限・偏見など、さまざまな壁があります。
また、約3分の1の患者はこれらの治療に十分に反応しない「治療抵抗性」を示すことも知られています。
そこで注目されてきたのが「運動」です。
メンタルヘルスと身体的健康の両方に働きかけられるアプローチとして、以前から多くのガイドラインで推奨されてきました。
しかし課題がありました。
「どの種類の運動を、どの強度で、どのくらいの期間やればいいのか?」
この具体的な「運動処方」に関するエビデンスは、これまで断片的にしか示されていなかったのです。
■どのように研究したのか
本研究は、ベイズ統計学に基づく「ネットワークメタアナリシス(NMA)」という手法を採用しています。
通常のメタアナリシスが「AとBを比べた研究をまとめる」のに対し、NMAは「A vs B」「B vs C」「A vs C」という複数の比較を同一のネットワークに統合し、直接比較されていない組み合わせも間接的に評価できる、より精度の高い方法、とされています。
内容は、2023年3月までに発表された218の研究・495の治療アーム・計14,170人のデータを統合。
アクティブコントロール(通常ケア・プラセボ等)、心理療法(認知行動療法など)、抗うつ薬(SSRI等)との比較が行われました。
主な評価指標は「介入後のうつ症状の改善度(Hedges' g)」と「治療の受容性(脱落率)」の2つです。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと⑴:どの運動が、どれだけ効いたか
アクティブコントロールと比較したとき、すべての運動様式でうつ症状の有意な改善が確認されました。
その効果量(Hedges' g)の順に並べると、以下のとおりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
<運動の種類と効果量(g)の評価>
・ウォーキング・ジョギング −0.62
・ヨガ −0.55
・筋力トレーニング −0.49
・有酸素運動 −0.43
・太極拳・気功 −0.42
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここで「g = −0.62」というのはどういう意味か、少し補足します。
心理学では一般的に、gの絶対値が0.2程度で「小さな効果」、0.5で「中程度」、0.8以上で「大きな効果」とされます。
ウォーキングやジョギングの−0.62は、その基準でいえば「中〜大」のカテゴリーに入る、かなり力強い結果であることは注目です。
◯わかったこと⑵:強度が高いほど、効果も高い
この研究のもうひとつの重要な発見が「用量反応関係」、つまり運動の強度と効果が比例するという事実です。
たとえば筋力トレーニングで比較すると:
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
・高強度の筋トレ:g = −0.66(大きな効果)
・低強度の筋トレ:g = −0.22(小さな効果)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
3倍近い差があります。
強くやればやるほど、効くということ。
ただし著者らは「だから低強度は無意味だ」とは言っていません。
低〜中等度の運動(軽いウォーキングや緩やかなヨガ)でも、g = −0.20〜−0.40という臨床的に意味のある改善が確認されています。
うつ状態のとき、人はなかなか「よし、今日は高強度でやろう」とはなりません。
だからこそ、まずは「受容性が高く、続けやすい運動」から始めることが大切だとこの研究は示唆しています。
◯わかったこと⑶:抗うつ薬・心理療法と比べてどうか
これが、個人的にも最も驚くべきものでした。
運動(特にウォーキング/ジョギング、ヨガ、筋トレ)の効果量は、単独の心理療法(g = −0.53)や抗うつ薬(g = −0.26)と同等か、それ以上であった、ということ。
さらに、「抗うつ薬 + 運動」の併用(g = −0.41)は、抗うつ薬単独よりも有意に効果的でした。ポイントは、運動が既存の主要な治療選択肢に「劣らないポテンシャルを持っている」という事実そのものにあります。
■なぜ運動がうつに効くのか?そのメカニズム
運動がうつ病に効く理由は、生物学的・心理的の両面から説明されています。
・神経生物学的な側面から見ると・・・
運動は脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌を促し、神経可塑性(脳の柔軟性)を高めます。
また慢性炎症の原因となる炎症性サイトカインを減少させ、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスを整えます。
いわば「身体を動かすことで、脳そのものが変わっていく」のです。
・心理・社会的な側面では・・・
運動を継続することで自己効力感(「自分はできる」という感覚)が高まり、ネガティブな考えの反芻が抑制されます。
グループで行う運動には、社会的つながりを生む効果もあります。
■【実践編】どの運動を、どれくらいやればいい?
この研究と関連する複数のメタアナリシスを横断すると、以下のような実践の目安が見えてきます。
「心を健康に保つ運動方法」です。
◯どんな運動がよい? ーおすすめの運動の種類
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
⑴ ウォーキング・ジョギング(最も効果量が高い)
開始しやすく、場所も選ばない。特別な道具も不要。毎日の通勤や帰宅に組み込むだけでも効果があります。
⑵ ヨガ(続けやすさNo.1)
脱落率が低く、自律神経の調整(迷走神経の活性化)にも寄与する可能性が示されています。女性や若年層に特に高い効果が見られました。
⑶ 筋力トレーニング(高齢者・長期維持に特に有効)
高齢者において特に優れた効果が確認されており、ヨガと並んで「やめにくい」運動として評価されています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◯どれくらいやればいいのか? ー運動の頻度・強度
複数のメタアナリシスが示す推奨ラインは以下のとおりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・最低ライン:週20分以上の身体活動でも精神的健康への効果あり
・推奨ライン:週150分(1日30分 × 週5日)の中等度有酸素運動
・強度の目安:最大心拍数の60〜80%(「ちょっとしんどいな」と感じる程度)
・継続期間:8週間以上で精神的効果が定着しやすい
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まずは週20分以上からがスタート。そして推奨は、30分✕5日です。
ちょっと大変…と思われるかもしれませんが、これも、心身をヘルシーに保つワークとしては、悪くない投資ではないでしょうか。
■まとめと感想
改めてこうしたメタアナリシスを眺めてみると、「運動って、本当にすごいんだな」という感慨が深まります。
ふと思い出すと、以前『自尊心を高めるワークブック』というものを読んだのですが、
その序章のページに、「このワークに入る前に、2週間、毎日30分の有酸素運動をしてください。それが準備です」と書かれていたのを思い出しました。
「……え、運動?ワークの前に?なんで?」と当時は思いましたが、この論文を見て実に納得しました。
運動は「心の健康のための『第一選択肢(ファーストライン)』として考えるべき、というまさにこの論文の示唆と同じだからです。
私自身、どちらかというと「繊浅さん」だと思っておりますが、ランニングを習慣にしてから、その波を実にうまくコントロールできるようになったと感じています。
運動は心理療法ではないですが、それと同じ、あるいはそれ以上に、私たちの心を整えてくれる力を持っている。
心が揺れているとき、まず身体を動かすべし。
今日の論文は、そのことをデータで証明してくれた一本でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:142km
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