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令和8年6月17日(第4496号)
世界初のレビュー論文!「強みに基づくリーダーシップ」の現在地とこれからのお話
ーエラスムス大学の研究
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 4134字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
先日は、午前中に立教大学のリーダーシップの授業。
午後からは、立教高校のリーダーシップの授業でした。
風邪の影響で声が出しづらく(飲み込むと痛い…涙)、
学生スタッフに授業を運営してもらいました。
なんとも安定感のあるファシリテーションで、
なんとも頼もしく、純粋にすごいなあ…と思います。
また夜は、ストレングス・ファインダー研修でご一緒させていただいた方との
お食事会でございました、(Iさん、Tさん、ありがとうございました!)。
*
さて、本日のお話です。
本日も、ある論文をご紹介したいと思います。
先日より「強みに基づくリーダーシップ」なるものをいくつかご紹介してきました。
今日はそれらの研究を概観した、「世界初のレビュー論文」をご紹介いたします。
ちなみに、「強みに基づくリーダーシップ(Strengths-Based Leadership)」とは、「部下が自分自身の強みを見つけ、活かし、さらに伸ばしていけるよう支援するリーダーシップ」のことです。
そして、このリーダーシップが発揮されると、以下のようなメリットがあることが研究で示されています。
・職務・職務外を問わずパフォーマンスが上がる
・目標達成度が高まる、欠勤率が下がる
・個人の成長感や仕事へのエンゲージメントが上がる
・自己効力感のレベルが高まり、ストレスの主観的な評価も下がる
などなどです。
そして、今回ご紹介する論文では1998~2024年までに発表された合計39編の査読付き論文をもとに、
「強みに基づくリーダーシップ」という概念がいまどんな課題を抱えているのか?、
そしてこれからこの分野を深めていくために何が必要なのか?
を整理した、いわば「世界初の系統的レビュー」です。
読みながら、強みに基づくリーダーシップとは一体どういうものなのか、現在どこまで研究が進んでいて、これから何が求められているのかが、整理できる論文でした。
ということで、早速みてまいりましょう!
■今回の論文
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・タイトル:Strengths-Based Leadership: A Critical Review to Guide Future Research(ストレングスベース・リーダーシップ:今後の研究を導くための批判的レビュー)
・出版:Journal of Leadership & Organizational Studies, 2025年, Vol. 32, No. 4, pp. 429–448
・著者:Kimberley Breevaart(准教授)、Marianne van Woerkom(教授)、Jixin Wang(博士課程)、Nadine Planken(博士課程)
・所属:エラスムス大学ロッテルダム 心理・教育・児童学部門/ティルブルフ大学 人事労務学部門(オランダ)
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■30秒でわかるこの論文のポイント
・強みに基づくリーダーシップ(SBL)とは、上司が部下の強みを「特定・活用・開発」できるよう支援するリーダーシップスタイルのこと
・1998年〜2024年11月に発表された査読付きの実証論文39編を対象とした、この分野で初めての系統的レビュー
・概念の「定義」には研究者間で共通理解があるものの、実際の「測定方法(尺度)」には大きなばらつきや欠陥が見つかった
・既存の「謙虚なリーダーシップ」との相関が r = .79 と非常に高く、独自の概念として切り離せているのか、まだ検証が不十分
・SBLは部下の強みの活用を通じて、ワークエンゲージメントやパフォーマンスの向上、離職意向の低下などと関連することが示されている
■研究の背景
まず研究の背景について、ポジティブ心理学の研究が盛んになったことから、以下のような研究成果が明らかになっていることを述べます。
◯⑴「強みに基づくリーダーシップ」が注目されている理由
そもそも「個人の強み」とは、その人が最高の状態でパフォーマンスを発揮できるようになる、独自の特性のことを指します。
強みは一部,遺伝的な要素にも支えられていますが、本人や周囲がそれに気づき、練習や知識・スキルの習得を重ねることで、伸ばし、活かしていけるようになるもの。
ところが、人にはどうしても自分の弱点ばかりに目が向いてしまう「ネガティビティ・バイアス」があり、自力で自分の強みを毎日しっかり活用できていると感じている労働者は、なんとわずか17%にすぎないのだそう。
だからこそ、リーダーの関わりがとても重要になってきます。
実際、2020年から2024年にかけて、このテーマに関する研究は急増しており、今回のレビューに含まれる39編の論文のうち、約90%がこの4年間に発表されたものででした。
一方で、研究が急速に広がったぶん、定義の不一致や測定尺度の乱立、他のリーダーシップ概念との「違い」の検証不足、理論的な裏付けの薄さなど、見過ごせない課題も同時に積み重なっていた、というのがこの論文の出発点になっています。
◯⑵強みを活かすと良いことが起こる―4つの理論
強みの活用が良い結果につながる理由として、論文では4つの理論的なメカニズムが紹介されています。
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・⑴自分らしさ(オーセンティシティ)・自己一致の理論
ー強みを使うことで「自分らしくいられる」という感覚が生まれ、それがストレスを減らし、ウェルビーイングを高めるという考え方です。
・⑵自己効力感理論
ー強みを発揮することは、いわば小さな成功体験(マスタリー経験)の積み重ねであり、それが自信となってパフォーマンスを後押しします。
・⑶幸福で生産的な労働者説(ハッピー・プロダクティブ・ワーカー説)
ー強みを使うことで生まれるポジティブな感情が、より高い目標を設定し、そこに努力を投じようという意欲につながるというものです。
・⑷拡張形成(broaden-and-build)理論
ーポジティブな感情は思考や行動の幅を広げ、同僚を助けたり、新しいことに挑戦したりといった、役割を超えた行動を引き出してくれるという考え方。
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■研究の目的
こうした研究の高まりの一方、さらなる研究を進める上で、未来に向けた「課題(アジェンダ)」を用意しようというのが、本論文の目的です。これまでの背景を踏まえ、本レビューは次の3つの問いに答えようとします。
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・問い1:強みに基づくリーダーシップはどのように操作化(測定)されており、その概念定義とどの程度整合しているのか?
・問い2:強みに基づくリーダーシップは、他のリーダーシップ(変革型、謙虚なリーダーシップなど)と比較して、判別妥当性を示しているか?
・問い3:リーダーシップは、従業員の強みの活用にどのような影響を与えるか?
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■研究の方法 ーどうやって調べるかー
Web of ScienceとScopusという2つのデータベースを使い、1998年から2024年11月までに発表された論文を検索しました。
最終的に、査読付きの実証論文39編が選び出されました。サンプルは中国の従業員を対象にしたものが最も多く、研究デザインも時間差を置いた調査が中心です。
これらを「SBL・上司の支援に関する研究」「既存のリーダーシップと強みの関連を見た研究」「強みに基づく業績評価の研究」という3つに分類し、整理しています。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:「測り方」が、いろいろ混ざってない?問題
SBLという概念そのものには、研究者の間でおおむね共通の理解があります。ただ、それを実際にどう「測る」かという段になると、尺度ごとにかなりばらつきがあることがわかりました。
たとえば最初期に作られた尺度には、「部下の強み」と「上司自身の強み」という、本来別物のはずの内容が一緒になってしまっているといった問題がありました。
一方で、後発の研究(J. Wangらによるもの)が作った尺度は、「強みの特定」「活用」「開発」という3つの要素がきれいに整理されており、本来の概念に最もよく合っていると評価されています。
◯わかったこと2:既存のリーダーシップと何が違うの?問題
また、他のリーダーシップと区別がされていない、という問題も上げられていました。検証してみると、SBLと謙虚なリーダーシップの相関は r = .79 と非常に高く、「実はほとんど同じものを別の名前で呼んでいるだけではないか」という疑問が残る結果になりました。
SBLが、他の似たリーダーシップ(謙虚なリーダーシップなど)と本当に違うものなのかを検証した研究は、39編中わずか2編しかありませんでした。
(論文では、これを「古いワインを新しいラベルの瓶に詰め替えただけではないか」という、なかなか手厳しい言葉で問いかけていました…汗)
◯わかったこと3:強みの活用の研究少なくない?問題
SBLは、部下が「自分の強みを使ってみよう」という気持ちや自信を高めることを通じて、実際の強みの活用を後押ししていました。
また、仕事のプレッシャーや役割の負担が少ないときほど強く出る傾向、引き出された強みの活用は、キャリア満足度やワークエンゲージメント、ウェルビーイングの向上、離職意向の低下など、様々な良い結果とつながっていました。
…しかし「強みの支援がされているか?」という問いだけで、実際にどのように部下の強みを見つけて、活用していくかという介入に対してはまだ道半ばということも課題に上げられていました。
■今後の探究テーマ
レビューの後半では、この分野をさらに前に進めるための課題が4つ提示されています。
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1.理論的な一貫性の解明(COR理論の矛盾): 職務要求(仕事のプレッシャーなど)がSBLの効果を強めるのか弱めるのかについて、既存研究のロジックが矛盾しており(資源を失うため効果が弱まるという説と、資源を求めて効果が強まるという説)、理論的統合と追試が必要である。
2.効果的な対象の探求: 年齢(若年層と高年齢層のどちらに響くか)や、従業員の性格特性(促進焦点か予防焦点か)によって、誰が最もSBLを必要としているかを検証すべき。
3.時間的変動とチームレベルへの拡張: SBLの知覚は日々の接触で変動するため日誌研究が必要であること、また「チーム全員の強みを補完的に組み合わせてタスクを再配分する」といったチームレベル(マルチレベル)の研究を開拓すべき・。
4.リーダーシップの先行要因(Antecedents)の探求: どうすればそのようなリーダーが育つのかという原因の研究が完全に欠落しており、リーダー個人の「謙虚さ」や「共感性」、組織全体の「強みを尊重する気候」などの予測因子を調べる必要がある。
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■まとめと感想
読んでみてまず率率に思ったのは、強みに基づくリーダーシップに関する査読付き論文39編の中には、まだ自分が読んでいないものがたくさんあるな…ということでした。
また、様々な研究者が色んな手法で研究史ていても、「古いワインを新しい瓶に詰め替えただけ」という厳しいツッコミもあることにも小さく震えました(汗)
とはいえ、研究というのは、それくらい厳密に積み上げていくことが求められるし、そうしてこそ堅牢なものになっていくのだろう、と思います。
それくらい研究の世界というのは奥が深く厳しいのだと、改めて知らされました。
私も勢いで「強みコア36」という診断を作ってみたものの、こうして厳密な研究の作法を覗いてみると、構成概念妥当性や判別妥当性といった観点から、これから自分が向き合っていくべき課題がたくさんあるのだろうな、と実感した次第。世界はまだまだ広いな、と思いました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:102km
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