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令和8年6月9日(第4488号)
「強みに基づくリーダーシップ」ってなんだ? ー見極めるための8つの質問ー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 4077字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
大学院に入学したときのリーダーシップの授業で、
「ストレングス・リーダーシップという概念も最近はあるんですよ」
と聞いた記憶があります。
当時、気になって調べてみたものの、結局「ストレングス・リーダーシップとは何なのか」は、よくわからずじまいでした(汗)。
しかし、改めて調べてみると、2020年以降、このストレングス・リーダーシップという概念は、少しずつ注目されてきたようです。
つまり、新しすぎて、まだあまり注目されていなかった、ということ。
その中で、一つの分岐点となる象徴的な論文が、今日ご紹介する「強みに基づいたリーダーシップ尺度の開発」に関する研究です。
世界で初めて、尺度を開発した論文、とされています。ややマニアックな話まで突っ込んでいきますが、丁寧に見ていきたいと思います。
それでは、早速まいりましょう!
■今回の論文
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・タイトル:Strengths-based leadership and its impact on task performance: A preliminary study (強みを活かしたリーダーシップとそれがタスクパフォーマンスに与える影響:予備的研究)
・出版:South African Journal of Business Management, 51(1), 2020年
・著者:He Ding(丁賀), Enhai Yu(于恩海), Yanbin Li(李彦斌)
・所属:華北電力大学 経営管理学部 経済管理学科(中国・北京)
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■60秒でわかるこの論文のポイント
・強みを活かしたリーダーシップ(SBL:Strengths-Based Leadership)を測るための尺度を、世界で初めて開発・検証した「予備的研究」である。
・SBLは、従業員のタスクパフォーマンス(業務遂行能力)と正の相関を示した。
・その間には「仕事関連の幸福感(WWB)」が媒介変数として働いており、SBL → WWB → パフォーマンスという経路が確認された。
・さらに「仕事のプレッシャー」が高い従業員ほど、SBLの効果がより強く現れるという、状況によって効き方が変わる境界条件が見出された
とのこと。
一方、横断的デザインのため因果は断定できないこと、また尺度開発も簡略化されているなど、いくつかの限界も率直に記されています。
■「強みに基づくリーダーシップ尺度」の開発がなぜ必要だったのか?
まず、本研究の背景についてです。
ポジティブ心理学に基づく「強みアプローチ」は、人生の満足度や幸福感の向上、欠勤率・うつ病の減少に効果があることが実証されてきました。
組織において従業員の強みを評価・育成する研究も進んでいましたが、最も重要な要素のひとつである「リーダーシップ」との統合は遅れていました。
実務的には、優れたリーダーは自身と部下の強みの双方に着目して複雑なビジネス環境に対応できることが知られていました。
しかし学術領域では、強みを活かしたリーダーシップ(Strengths-Based Leadership: SBL)が従業員や組織のアウトカムに与える影響を実証した文献が、これまで一切ありませんでした。
つまり、SBLを客観的に測定する学術的な尺度が存在しなかったことが問題だったのです。
■本研究の目的
本研究の目的は、以下の4つです。
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⑴SBL尺度の新規開発・検証
⑵SBLが従業員のタスクパフォーマンスに与える影響の実証
⑶仕事関連の幸福感(Work-Related Well-Being: WWB)の媒介効果の検証
⑷仕事のプレッシャーの調整効果の検証
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中国企業の従業員342名を対象に分析した結果、開発された「2次元・8項目のSBL尺度」は優れた妥当性と信頼性を示しました。
また実証分析では、SBLがタスクパフォーマンスと正に相関することが確認され、さらに仕事のプレッシャーが高まるほどSBLの効果が強化されることも明らかになりました。
■強みに基づくリーダーシップ尺度
尺度の検証では、独立した別サンプル(112名)での探索的因子分析(EFA)により、SBL尺度が「部下志向」「上司自身」の2因子構造(累積分散説明率70.05%)となることが示されました。
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◯【因子1】部下の強みに基づくリーダーシップ(5項目)
・上司は、私が得意なことを伝える機会を与えてくれる(.77)
・上司は、私の潜在能力をさらに伸ばすよう励ましてくれる(.76)
・上司は私の強みをうまく活かしてくれる(.76)
・上司は、私が仕事で自分の強みを生かせるよう、より多くの裁量を与えてくれる(.75)
・上司は、私の強みをどう活かせるかについて話し合ってくれる(.75)
◯【因子2】上司自身の強みに基づくリーダーシップ(3項目)
・上司は自分の才能を把握している(.91)
・上司は仕事において自分の長所を最大限に活かしている(.91)
・上司は自身の強みを伸ばすために、より多くの時間とエネルギーを費やしている(.83)
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■「強みの定義」の変遷
論文ではSBLを理解する前提として、先行研究における「強み」の定義の変遷を5つの視点で整理しています。
これが、大変わかりやすかったです。
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<強みの定義の変遷>>
・Buckingham & Clifton(2001) 才能(先天的な思考・感情・行動パターン)、知識(学習された事実と経験)、スキル(タスク遂行の基本能力)の3要素から構成され、持続的な卓越した業績を可能にするもの。
・Peterson & Seligman(2004) 個人の思考・感情・行動に存在する「特性的(Trait-like)な特徴」。安定していると同時に変化可能(malleable)であり、その機能はパーソナリティなどの個人特性に依存する。
・Linley & Harrington(2006) 「行動し、考え、感じるための自然な能力」。強みが使用されるプロセスとアウトカムの観点から定義。
・Wood et al.(2011) 上記3つの「一面的」な限界を克服するため、「個人が優れたパフォーマンスを達成することを可能にする個人的特徴」とシンプルに再定義。外部のリソースは含まない。
・Niemiec(2012) 内的な強み(キャラクターの強みなど)だけでなく、外的な強み(価値ある外部の資源・関係性・機会など)の両方から構成されるべきと指摘。
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そして本論文における統合的定義がこちらです。
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「特定の状況において、従業員がほぼ完璧なパフォーマンス、成長、および発展を達成するのを助ける、個人の内的特徴および外部の資源または条件」
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強みは本質的に文脈依存的(ある状況での強みが、別の状況では強みにならないこともある)と位置づけられています。
■研究の方法
本研究は、中国のさまざまな企業に所属する従業員を対象に、中国語の自己報告式オンラインアンケートを用いた、横断的(クロスセクショナル)研究デザインを採用しています。
便宜的サンプリングにより520部を配布し、342部(有効回収率65.8%)の有効回答を得ました。回答者は女性が54.1%、平均年齢は約30.4歳でした。
アンケートは原則として、1=「全く同意しない」〜5=「非常に同意する」の5件法リッカート尺度で測定されています。
主要な変数と統制変数に加えて、新しい尺度が他のリーダーシップ概念ときちんと区別できているか(識別妥当性)を確かめるために、追加のリーダーシップ尺度も測定されました。
お
もな測定変数と信頼性(α係数)を整理すると、以下のとおりです。
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・強みを活かしたリーダーシップ(SBL):8項目/本研究で新規開発/α=.93
・タスクパフォーマンス(TP):5項目/Williams & Anderson (1991)/α=.97
・仕事関連の幸福感(WWB):6項目/Zheng et al. (2015)/α=.92
・仕事のプレッシャー(WP):3項目/Motowidlo et al. (1986) の主観的ストレス尺度/α=.87
・(識別妥当性検証用)LMX:7項目/α=.90
・(識別妥当性検証用)オーセンティック・リーダーシップ:14項目/α=.97
・(識別妥当性検証用)謙虚なリーダーシップ:14項目/α=.98
・(識別妥当性検証用)変革型リーダーシップ:8項目/α=.94
・統制変数:性別・年齢・教育水準・組織在籍年数
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■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと⑴:SBLは、部下のパフォーマンスを直接高める
強みを活かしたリーダーシップ(SBL)が高いほど、部下のタスクパフォーマンスも高くなることが確認されました(β = 0.30)。他の要因(年齢・性別・勤続年数など)を除いても、この関係は揺るぎませんでした。
◯わかったこと⑵:SBLは、部下の「仕事の幸福感」を高める
SBLは、タスクパフォーマンスへの直接効果(β = 0.30)よりもさらに強く、仕事関連の幸福感(WWB)を高めることがわかりました(β = 0.40)。強みを見てくれる上司は、部下の「働くことへの充実感」に貢献します。
◯わかったこと⑶:SBLがパフォーマンスを高める背景には、幸福感の高まりがある
SBLがパフォーマンスを高めるルートは2つあります。⑴直接的に高めるルートと、⑵幸福感(WWB)を経由して高める間接ルートです。この間接ルートの存在が実証されたことで、「幸福な従業員は生産性が高い(ハッピー・プロダクティブ理論)」がSBLの文脈でも成立することが確認されました。
◯わかったこと⑷:プレッシャーが高い職場ほど、SBLは幸福感をより強く高める
仕事のプレッシャーが高い状況では、SBLが幸福感(WWB)に与える効果がさらに強まることがわかりました。プレッシャーの低い環境でも効果はありますが、ストレスや負荷が大きい職場こそ、強みを見てくれる上司の存在がより一層効いてくるということです。
◯わかったこと⑸:プレッシャーが高い部下ほど、SBLの「幸福感経由」の効果も倍増する
⑷の延長として、幸福感を経由したパフォーマンスへの間接効果も、プレッシャーの高低で大きく異なりました。
プレッシャーが高い部下にとって、SBLの恩恵は2.5倍近くに跳ね上がります。厳しい締め切りや高いノルマを抱えるチームほど、強みを活かしたリーダーシップの導入効果は劇的に大きくなります。
■まとめと感想
今回の論文では、強みに基づくリーダーシップというものが、タスクパフォーマンスや、仕事のプレッシャーが高い状況でより効果を発揮すること、また働くうえでのウェルビーイングにも結びついていること
──つまり、強みに基づくリーダーシップが実際の仕事上の成果と関わっているということを、如実に示していました。
非常にインパクトのある論文だったように思います。
こうした研究が、日本でも示されるようになるとしたら、それはとても意義のあることだと思います。
管理職が「日本の部下の強みを見ていこう」とする観点が高まっていくような、そんな実践につながりうる論文ではないかと感じました。
その一方で、強みに基づくリーダーシップという尺度については、この後に続く論文でも批判的なレビューがなされていたり、また本論文の中でも「厳密な尺度開発のプロセスを経たわけではない」と正直に書かれていたりします。冒件でも触れたように、私自身、この概念に出会ったのは5年前で、当時は何もわからずじまいでした。だからこそ、これから続いていく研究や論文を追いかけながら、より深めていきたいなと思った次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:59km
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