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令和8年6月6日(第4485号)
「美の散歩」を週1回15分すれば、日々の喜びが高まり続ける
ーカリフォルニア大学らの研究ー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3260字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
先日から、法事で宮崎に来ております。
色々と忙しくなった親族が、
一同に介して話をする機会が法事だと感じますが、
なかなか聞けない話も聞けて、実に貴重な機会だな…と思う週末でした。
*
さて、本日のお話です。
本日も強みの論文の紹介です。
強みの概念の中に「審美眼(美しさと卓越性への感謝)」があります。
大自然の壮大さに息をのんだり、人の卓越した技術に心を震わせたり、日常の中にひそむ美しさをふと見つけたりする——そんな力です。
ポジティブ心理学の文脈では、こうした「畏敬の念(Awe)」は、抑うつや不安を和らげ、他者へのつながりを深める感情として、近年注目を集めています。
そして、その畏敬の念を日常の中で育てるための介入として、「Awe Walk(美の散歩)」と呼ばれるウォーキング実践があるのですが(マニアックですね笑)、
この「Awe Walk」を高齢者60名に8週間実践してもらった、非常に興味深い介入研究をご紹介したいと思います。
具体的な実施方法まで補足資料から丁寧に読み解いていますので、ぜひ最後までお付き合いください。
それでは、どうぞ!
■今回の論文
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・タイトル:Big Smile, Small Self: Awe Walks Promote Prosocial Positive Emotions in Older Adults (大きな笑顔と小さな自己:「畏敬の念を抱くウォーキング(Awe Walk)」が高齢者の親社会的ポジティブ感情を促進する)
・出版:Emotion, 2022年8月(第22巻・第5号、1044–1058頁)
・著者:Virginia E. Sturm, Samir Datta, Ashlin R. K. Roy, Isabel J. Sible, Eena L. Kosik, Christina R. Veziris, Tiffany E. Chow, Nathaniel Morris, John Neuhaus, Joel H. Kramer, Bruce L. Miller, Sarah R. Holley, Dacher Keltner
・所属:カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、サンフランシスコ州立大学、カリフォルニア大学バークレー校
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■30秒でわかるこの論文のポイント
・健康な高齢者60名を「美の散歩(Awe Walk)群」と「通常ウォーキング群」にランダムに分け、週1回15分・8週間のウォーキング介入を実施した
・Awe Walk群は歩行中の畏敬・喜び・思いやり・感謝などの親社会的ポジティブ感情が有意に増加した
・自撮り写真の分析から、自己のサイズの縮小(背景を広く映す)と笑顔の強度の増加という客観的変化が確認された
・日常生活においても親社会的ポジティブ感情が増し、悲しみや恐怖といったディストレスが有意に減少した
・費用ゼロ・特別な道具不要で誰でも実践できる、極めて手軽な幸福介入である
■どんな研究だったのか(研究の方法)
対象者は、認知機能・身体機能ともに正常な60〜90歳の高齢者60名(最終分析対象は52名)です。
参加者はランダムに「美の散歩(Awe Walk)群」と「通常ウォーキング群(対照群)」に振り分けられ、8週間・週1回以上・15分以上の屋外ウォーキングを行いました。
自分がどちらのグループかは伏せられており(盲検化)、純粋に介入の違いだけを比較できる設計になっています。
■「美の散歩」の具体的なやり方
ここが今回、ぜひ丁寧にお伝えしたい部分です。
「美の散歩(Awe Walk)って具体的に何をするの?」ですが、以下の方法です。
(対照群も美の散歩群も、「スマホは機内モード」「走るの禁止(ペースはやや楽くらい)」というルールも設けられました)
◯【STEP1】「畏敬の念(Awe)」の定義を伝える
美の散歩群には、まず、Aweの定義が伝えられました。
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「広大なものの前に立ち、驚きを感じ、すぐには理解できないときに抱く感情。
注意を自分自身から外へそらし、周囲の世界の素晴らしさを味わうのを助けるもの」
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◯【STEP2】歩き方のガイドライン
そして、歩くときに意識すべき2つの基本ガイドラインが示されます。
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⑴ 子どものような「わくわく感」のスイッチを入れる
子どもは、すべてが初めてだから常に畏敬の念を抱いています。 大人になると、見慣れたものを「見た」つもりで、実は何も見ていない——そんなことが増えていきます。
美の散歩では、すべてを「初めて見るかのような新鮮な目(fresh eyes)」でアプローチすることを求められます。
歩きながら立ち止まり、パノラマのような広大な景色を見渡したり、葉っぱや花の細かいディテールを間近で観察したりする時間を意識的に設けます。
⑵ 毎週、新しい場所へ行く
見慣れた場所よりも、予測のつかない新しい環境のほうが、畏敬を感じやすい。
だから、できる限り毎週新しい場所を選ぶよう促されます。 (もし同じ場所を再訪する場合は、「その中に新しい特徴を見つける」ことを意識する)
◯補足:具体的な散歩場所の候補リスト
具体的な散歩場所として提案されていたリストも、ご紹介します。
【自然環境】
・パノラマの景色が見える山、高い木々に囲まれた山道
・海・湖・川・滝の岸辺、星が見える澄んだ夜空
・夕日や朝日が見える場所
【都市環境】
・超高層ビルの頂上、または高いビルが密集したエリアで見上げる
・歴史的な記念碑・モニュメント、これまで探索したことのない街のエリア
・植物園・動物園(新しい植物や動物の種を観察できる場所)
・目的地を決めずに歩いて、行き着く場所
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さらに、自撮り3枚に加え、「散歩中に見た、最も美しさや畏敬の念を呼び起こすもの」の風景写真を1枚撮影するよう求められました。
■わかったこと(主な結果)
◯結果1:歩いている最中の感情が変わった
美の散歩群は、対照群と比べて歩行中に体験した畏敬の念が有意に増加しました。
さらに、喜び(Joy)・思いやり(Compassion)・賞賛(Admiration)・感謝(Appreciation)といった、他者に向かう親社会的ポジティブ感情が、週を重ねるごとに有意に高まっていきました。
興味深いことに、対照群のほうが自発的に散歩の回数が多かったにもかかわらず、感情的な恩恵を得たのは美の散歩群だけでした。「どれだけ歩くか」ではなく、「どんな目で歩くか」が鍵だったということです。
◯結果2:写真に「小さな自己」が映し出された
自撮り写真を客観的に分析したところ、美の散歩群は回を重ねるごとに「自分の身体が写真に占める割合が小さくなる」——つまり背景の景色をより広く映すようになる——という変化が確認されました。
さらに、顔の筋肉の動きを捉える「表情分析」を用いた解析では、笑顔の強度の有意な増加も実証されました。"Small Self(小さな自己)"という内面の変化が、写真という客観的な形で可視化されました。
◯結果3:日常生活にも感情の波紋が広がった
毎日の感情追跡においても、美の散歩群は日々の思いやり・賞賛・温かみ・ユーモアといった「親社会的ポジティブ感情」が有意に増加し、悲しみ(Sadness)と恐怖(Fear)が有意に減少しました。
散歩の時間だけでなく、日常全体に感情の変化が波及していったことは、この介入のもっとも注目すべき成果のひとつといえます。
(なお、不安・うつ・人生の満足度といった特性レベルの指標については、両群ともに統計的に有意な変化は見られませんでした。8週間という期間では、特性そのものを動かすには至らなかったようです)
■まとめと感想
今回の研究を読んで、一番インパクトがあったのが「具体的なインストラクション」の細かさでした。
「畏敬の念を感じながら歩いてください」という漠然とした指示ではなく、「子どものような新鮮な目で見る」「毎週新しい場所を選ぶ」「スマートフォンは機内モードに」——こんなふうに、実践の"解像度"を上げてくれると、実際にやってみたくなります。
たしかに、ついスマートフォンに目が行ってしまうところを、意識的に顔を上げて景色を眺めるだけで、自分の気持ちが変わっていくもの⋯、そうした姿勢こそ、デジタルな現代に重要な気もします。
週1回、15分。毎週少し違う場所へ。
もちろん年齢や文化が変わっても同じ効果が得られるかという、研究の限界はあるものの、それだけで日常の感情にも波紋が広がるのだとしたら、とても実現性の高い実践だと感じます。
ぜひ、皆さまもよろしければお試しくださいませ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:28km
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