配信日時 2026/06/05 09:21

「教えることで学ぶ」は、なぜ効果的なのか? ー3つの有効成分を解き明かす【カレッジサプリ】

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令和8年6月5日(第4483号)


「教えることで学ぶ」は、なぜ効果的なのか? ー3つの有効成分を解き明かす


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3920字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は2件のアポイント。
午後からは子ども関連の面談などでした。

区の教育支援についても、色々サポートいただき、
実にありがたい限りです。



さて、本日のお話です。

今日もある論文のご紹介をいたします。

テーマは「効果的な学び方」について。

さて、余談ですが、以前私が勤めていた「7つの習慣」の研修会社では、コヴィー博士の教えをもとに、ワークの最後に必ず「学ぶために教える」というパートが組み込まれていました。

「7つの習慣」について、一人が学んだことをもう一人に伝え、役割を交代して、またお互いに教え合う。
たった数分のことでしたが、「7つの習慣」を「7つの瞬間」にしないために(笑)、その時間の効果は、やはり注目すべきものがあったと感じています。


「人に教えることが、最も深い学びになる」。


このことは、学習理論の中でも語られ、また学校でも教える人こそ学んでいると言われるように、知識からも経験からも実感がある方も多いのではないかと思います。

一方、「教えることで学ぶ」というのは、一体どういうメカニズムで成り立っているのでしょうか?

結論から言えば、「教えること」は、3つの有効成分で成り立っています。
それが「準備」「説明」「相互作用」のステップです。

ここで何が起きているのか、割愛せず、どのパートが「教えることによる学び」を、どのように増幅させているのか。

本論文から丁寧に見ていきたいと思います。

それでは、どうぞ!



■今回の論文
・タイトル:Learning by Teaching(教えることによる学習)
・出版:In Their Own Words: What Scholars and Teachers Want You to Know About Why and How to Apply the Science of Learning in Your Academic Setting(2023年)
・著者:Logan Fiorella
・所属:University of Georgia(ジョージア大学)



■30秒でわかるこの論文のポイント

・「教えることで学ぶ」には、⑴準備・⑵説明・⑶相互作用という3つの独立したステージがある

・それぞれのステージが、認知・メタ認知・動機づけの面で異なる恩恵をもたらす

・「教えるつもりで学ぶ」だけでも効果はあるが、実際に声で説明し、質問に答えることで学習効果は一段と高まる

・ただし、過度な不安や知識不足があると効果は限定される。よって足場かけ(サポート)が重要である

・授業・宿題・リモート学習など、さまざまな文脈で実践的に応用できる



■なぜ「教えること」は学びを深めるのか

「教えながら、私たちは学ぶ」。

1世紀の哲学者セネカが残したこの言葉は、2000年以上が経った今も、学習科学の世界で繰り返し参照されます。

現代の教育現場では、ピア・チュータリング(仲間同士での相互指導)や協調学習、小グループでの議論など、「人に教える」要素を含む活動が広く取り入れられています。

ただし、これまでの研究の多くは「教える」という行為をひとかたまりとして評価しており、「そのプロセスのどの部分が実際に学びを生んでいるのか」という問いには、十分に答えてきませんでした。

そこで、本論文の著者は、この問いに向き合い、教えるプロセスを3つの有効成分(active ingredients)として分解しました。

それが、「準備・説明・相互作用」という3つのステージです。


理論的には、「教えることで学ぶ」は『生成的学習(Generative Learning)』に分類されます。受動的に情報を受け取るのではなく、自ら意味を構築しようとする活動、それが深い理解へとつながります。
(Chi&WylieのICAPフレームワーク(2014)の観点では、「教えること」は最も高次な認知エンゲージメントである「構築的(Constructive)」「相互作用的(Interactive)」モードに相当するとされます)



■ステージ1:教えるための「準備」

最初のステージは、教えることへの期待(Expectancy)を持って学習に臨む段階です。

「後でテストを受ける」と思って学ぶのと、「後で誰かに教える」と思って学ぶのでは、何が違うのでしょうか。

Benware & Deci(1984)の研究では、「他者に教えることを期待して学習した学生」は、「テストを受けるために学習した学生」よりも内発的動機づけが高く、概念的理解においても優れた成績を示しました。
Nestojko ら(2014)の研究でも、教える期待を持って学んだ学生は、テキストの主要なアイデアをより整理された形で再生できたことが報告されています。

つまり、「教えるつもりで読む」という姿勢だけで、情報の構造化やメタ認知的な処理が促されるのです。
28の研究を対象とするメタ分析(Kobayashi, 2019)では、この効果量はd = .30〜.40と推定されています。

中程度ではありますが、何も意識せずに学ぶよりは確実に深い理解が生まれます。

ただし、注意点もあります。
「教えなければならない」というプレッシャーが強くなりすぎると、不安が学習を妨げる場合があります(Renkl, 1995)。
また、学習者に十分な背景知識や、良質な説明をつくるための方略的知識がないと、「教えるつもり」がうまく機能しません。
まず低リスクな形で、教えることへの期待を設計することが大切です。



■ステージ2:他者への「説明の生成」

「教えること」とは、準備だけではありません。
まさに、実際に「教える行為」そのものが、さらに深い学びをもたらします。

Fiorella & Mayer(2013, 2014)の研究では、「後で架空の学習者に向けたビデオ講義を録画する」という形で一方向の説明を行った学生が、「教える準備だけをした学生」よりも、遅延テスト(後日に実施する定着度テスト)において高い成績を示しました。実際に説明することが、長期的な記憶の定着を支えるのです。

この効果の鍵は2つあります。

ひとつは、「記憶からの想起(Retrieval)」。
説明を生成する際、テキストを見ながらではなく、記憶から引き出しながら語ることが最も効果的でした(Koh et al., 2018)。

もうひとつは、「口頭での説明の優位性」です。
書くよりも話す方が、「聞き手の存在」を意識しやすく(社会的プレゼンスの向上)、より豊かで詳細な説明が生まれやすいことが示されています(Hoogerheide et al., 2016; Lachner et al., 2018)。

さらに、説明しながら図を描く(explain-and-draw)条件では、口頭説明だけの条件よりも理解が深まることも報告されています(Fiorella & Kuhlmann, 2020)。
説明とビジュアル化を同時に行うことが、知識を構造化し、より精緻な理解を生む——そのことが実験によって支持されています。

重要なのは、ここで「知識伝達(Knowledge-telling)から知識構築(Knowledge-building)へ」の転換が起きているかどうかです。
ただ知っていることを要約して伝えるだけでは、深い学びにはなりません。既存の知識と新しい知識をつなぎ合わせ、自ら推論を生み出す、そのプロセスが本質的な理解を生むとされます。



■ステージ3:他者との「相互作用」

3つ目のステージは、説明した後の対話と質疑応答です。

ICAPフレームワークでは、「相互作用的(Interactive)」モードが最も高次なエンゲージメントとされています。
準備・説明・そして対話、この3つが揃ったとき、学習効果は最大化されます。

Roscoe & Chi(2008)の研究では、ビデオ録画による一方向の説明よりも、相手からの質問に答えるインタラクティブな指導の方が、学習者の理解が深まることが示されました。
Kobayashi(2021)も、「質疑応答のある教授条件」が「質疑応答のない条件」を有意に上回ることを報告しています。

では、なぜ質疑応答が有効なのでしょうか…?

それは、「答えられない問いに直面すること」が、自分の理解の隙間を発見させ、知識を再構築しようとする動機を生むからです。

ただし、ここにも境界条件があります。
実際の場面では、深い思考を引き出すような質問が自然に生まれることは少なく、ただ「対話の機会を与えるだけ」では効果的な相互作用が起きないこともあります(Roscoe, 2014)。
「どんな質問を投げかけるか」という設計が、学習の深さを左右します。



■まとめと感想

私事ですが、この数年間で、「最も学びになったと感じた時期」も、振り返れば、まさにこの「教えることで学ぶ」の3つのプロセスが、高サイクルで回っていた時期でした。

具体的には、2021年に大学院受験を前にして「大学院受験プロジェクト」という3か月の勉強会を主催したときです。
十数冊の課題本を読み、毎週まとめて、オンラインで友人・知人に30人くらいに解説していたあの3ヶ月は、今でもめちゃくちゃ濃厚だった…と感じています。
(その際にお世話になった皆さん、本当にありがとうございました)

それは、教えるために準備し、実際に声に出して説明する中で「うーん、これなんだっけ…?」と答えに窮するプロセスの中で、自分の学習が深まった時間だったんだな、と今回の論文を読んで改めて腑に落ちました。

ちなみに、こうしたnoteやメルマガで学んだことを書いていくのも学びになりますが、これはいわゆる「1.教える準備」のようなもの。ここに実際に「2.他者に説明する」そして「3.質問され、対話する」ということが組み合わさると、より学びが深まるんだろうな、そんなことをふと思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

※ 本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
https://note.com/courage_sapuri/n/n8984b550ee2e?app_launch=false

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【編集後記】
◯今月のランニング:28km

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