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令和8年6月2日(第4480号)
ネガティブな思考を「繰り返す」ことで、心が軽くなる?!
ーネバダ大学の認知行動療法研究からわかったことー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3265字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、午前中に2件のアポイント
。
午後からは、外部人事パートナーとして関わらせていただいている企業様への
コーチング&コンサルティングなどでした。
また、夕方から出版社の編集者の方との打ち合わせ。
本当に、「多くの人に届ける本をつくる」というのは、とてつもなく大変なのだな・・・、と感じるこの頃です。
書きたいように原稿を書くでは、40%くらいしか進捗していないと言えそう。
100kmマラソンを走っている気持ちで、残り60km頑張りたいと思います。
また夜は、大学のリーダーシップの授業の打ち合わせでした。
*
さて、本日のお話です。
本日はある論文の紹介です。
論文のテーマは「心が軽くなるテクニック」についてです。
・・・突然ですが、皆さまは、自分についてネガティブなことを思ってしまうことって、ありませんでしょうか?
たとえば、「自分はできない」「頭が良くない」「コミュ力が低い」「背が低い」「目が悪い」…。
書き連ねていると、なんだか自分が小さく縮んでいくような、そんな気持ちになってきます(汗)。
しかし、そうした「ネガティブな思考」は、多くの人が経験するものです。
大事なのは、そういう思考が頭の中に湧いてきたとき、どう「取り扱う」か。
それが、メンタルヘルスの大きなテーマになってきています。
そんな「心の取り扱い方」の研究の中で、近年注目を集めているのが、『ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)』というアプローチです。
https://note.com/courage_sapuri/n/nf894bb52e34e?magazine_key=m57e176d21fd3
認知行動療法の「第3の波」とも呼ばれるこの療法は、ネガティブな思考を無理に消そうとするのではなく、思考との「関係性」を変えることを重視しています。
そのACTのプロセスの一つに、「脱フュージョン(cognitive defusion)」というものがあります。
今日ご紹介する論文は、この脱フュージョンのなかでも、とても古くてシンプルな技法である「ネガティブな言葉をひたすら速く繰り返す」が、本当に心理的に効果があるのかを検証した研究です。
結論から言ってしまうと、「あります」。
しかも、シンプルさに反して、かなり明確に結果が出ていました。
ということで、詳しく中身をみてまいりましょう。
それでは、どうぞ!
■今回の論文
・タイトル: Cognitive defusion and self-relevant negative thoughts: examining the impact of a ninety year old technique (認知的脱フュージョンと自己関連的なネガティブな思考:90年前の技法の効果の検証)
・出版: Behaviour Research and Therapy, 42巻, 2004年
・著者: Akihiko Masuda(増田秋彦), Steven C. Hayes, Casey F. Sackett, Michael P. Twohig
・所属: ネバダ大学リノ校(USA)
■30秒でわかるこの論文のポイント
・ネガティブな自己関連ワード(例:「太っている」)を30秒間、速く繰り返すだけで、その言葉への「不快感」と「信憑性」が大幅に低下した
・この効果は、「気をそらす」「思考を抑え込む」といった対照条件よりも明確に優れていた
・解説を聞くだけでは効果がなく、「実際に繰り返す行為」そのものに心理的な作用があることが確認された
・サンプルは少人数の予備研究ながら、ACTにおける脱フュージョン技法の有効性を単独で実証した最初の研究である
■研究の背景:思考の「内容」を変えようとしてきた時代
従来の認知行動療法(CBT)は、ネガティブな思考に対して、その頻度を減らすか、論理的に反駁して内容を書き換えるかという方向でアプローチしてきました。
「本当にそう言えるか?」「証拠はあるか?」と問い直す方法です(認知再構成法、と呼ばれます)
ところが、ACTをはじめとする新しい潮流は、少し違う発想を持ち込みました。それが、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「思考の内容を変えなくていい。思考との関係性を変えよう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
というものです。ネガティブな思考が浮かんだとき、私たちはその言葉の意味と自分の感情が「ぴったりくっついてしまう(フュージョンする)」ことで苦しくなる。
ならば、そのフュージョンを「ゆるめる」ことができれば、たとえ言葉は残ったままでも、感情的な苦しさは軽くなるのではないか、という考え方です。
これが「脱フュージョン」の発想の核心です。
ACT全体の臨床的有効性については、すでに多くの研究で支持されていました。
しかし、「個々の脱フュージョン技法そのものに、具体的な効果があるのか」は、まだ十分に検証されていなかった。
この研究は、そのギャップを埋めようとしたものです。
■研究の方法:超シンプルな、90年前の技法
使われた技法は、心理学者エドワード・ティチェナーが約90年前に記述したもの。
方法は極めてシンプルです。
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「自分の一番不快なネガティブな思考を1語に凝縮して、30秒間、できるだけ速く声に出して繰り返す」。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
たったそれだけです。
研究では、18〜19歳の女子大学生8名(心理学導入コースの受講生)が参加。
各自が「特に不快なネガティブな自己関連思考」を2つ挙げ、それを1語に言い換えました(例:「私は太りすぎている」→「太っている」)。
実験は以下の内容です。
実験1では、脱フュージョン技法と「気をそらすタスク(日本に関する記事を読む)」を比較。
実験2では、脱フュージョン技法と「思考統制タスク(ネガティブな思考を抑え込もうとする)」を比較しました。
そして、介入の前後に、その思考に対する「不快感(Discomfort)」と「信憑性(Believability)」を測定しました。
■結果:繰り返すと、言葉が「ただの音」になる
結果は明快でした。
実験1・実験2ともに、すべての参加者において、脱フュージョン条件の後では不快感と信憑性の両方が、対照条件より大きく低下しました。
気をそらしても、抑え込もうとしても、脱フュージョンには及ばなかったのです。
さらに興味深いのは、統制実験の結果です。
「解説(ロジックの説明)を聞くだけ」では効果がなく、「実際に繰り返す行為そのものが必要だった」ことが確認されました。
また、参加者の期待値(「この方法が効きそう」という先入観)も、脱フュージョンと思考統制で同程度だったため、プラセボ的な効果ではないことも示されています。
・・・
ちなみに、なぜこういった結果になるのでしょうか。
その理由は、言葉を急速に繰り返すことで、その言葉が持つ「文字通りの意味」が剥ぎ取られ、単なる「音の連なり」として聞こえてくるからです。
(これを「意味的飽和(semantic satiation)」と呼びます)
1960年代から知られていた現象ですが、この研究はそれを「自己関連的なネガティブ思考」の不快感・信憑性の低下に応用した最初の実証研究となりました。
(ちなみに、この研究の限界としては、参加者はわずか8名の女子大学生であったこと、そのため臨床群への一般化や既存の洗練された介入と比べた際の優劣についてはこのデータだけでは限定的であることです。そのため、あくまでも予備的証拠である、と述べられています)
■まとめ:ネガティブな感情は、あえて連呼する
トマト、トマト、トマト、トマト、トマト……。
ひたすら早口で繰り返していると、やがて「トマト」という言葉が意味を失って、音の塊のように聞こえてくる。
そんな経験、した人もいるのではないでしょうか。
この研究が面白いのは、その現象を逆手に取った発想にあります。
「自分はダメだ」と思ってしまうとき、思わないようにしようとするのではなく、いっそ「ダメだダメだダメだダメだ……」とひたすら大声で早口で30秒間、言いまくる。
そうすることで、その言葉の「刺さり」が薄まっていくようです。
完全に余談ですが、ジョジョの奇妙な冒険の「ムダムダムダムダ!」も、言葉そのものよりリズムや音の連発が前面に出てきます。
エヴァの碇シンジ君の「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……」も、30秒も続けば、そのうち言葉が言葉でなくなってくるかもしれません(わかりませんけど)。
思考を「抑え込もう」とすればするほど、雪道でブレーキをかけるとタイヤがスリップするように、かえって囚われてしまうことがあるもの。
ならば、あえてアクセルを踏んで、言葉をただの音として流してしまう。逆説的だけど、それが案外、心を軽くする近道なのかもしれませんね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
※ 本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
https://note.com/courage_sapuri/n/n2149cc5c43e2?app_launch=false
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【編集後記】
◯今月のランニング:0km
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