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令和8年5月30日(第4477号)
強みを伸ばす or 弱みを直す、組織としてどちらを支援すべきなのか?
ーティルブルフ大学の研究からの示唆ー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3956字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は3件のアポイント。
また夕方から10kmのランニングでした。
もっと走りたいのですが、ウェアラブルデバイスが
「疲れています、もっと休んでください」というので、
今週はトレーニングを控え目にしています。
ふと思えば、100kmマラソンは先週だったので、
まだダメージが残っているのかな・・・と思います。
もう既にだいぶ過去の話のような感覚がしております(苦笑)
*
さて、本日のお話です。
本日も「強み」に関する論文の紹介です。
強みに関する論文を読んでいると「強みを活かす組織というテーマ」は、実はなかなか出会えない希少なものであると感じます。
そして、疑問に思う問いがあります。
それが、
「組織は、本当に個人の強みを活かそうとしているのだろうか」
というもの。
ポジティブ心理学の知見が広まり、「強みを使うことが幸福感やエンゲージメントを高める」という話は、ビジネスの現場でも耳にする機会が増えてきました。(ストレングス・ファインダーもその一つですね)
でも実際のところ、多くの組織における人事評価や育成の仕組みは、依然として「できていないことをどう補うか」という欠陥モデル(deficit model)に根ざしていることが少なくありません。
そして論文でも実際にそのように語られています。
それはそれで一定の意味があることはわかっています。
でも、強みを「伸ばす」ことへの組織的な支援は、いったいどのくらい整っているのか。
そしてそれは、実際にパフォーマンスや幸福感に影響しているのか。
今回ご紹介するのは、まさにその問いに正面から向き合った、ティルブルフ大学(オランダ)を中心とする研究チームによる論文です。
「強みの活用」と「弱みの修正」、それぞれに関する組織的支援と従業員自身の行動を測る尺度を初めて開発・検証したという、この分野における独自性の高い研究です。
それでは、どうぞ!
■今回の論文
・タイトル:Strengths use and deficit correction in organizations: development and validation of a questionnaire (組織における強みの活用と弱みの修正:質問紙の開発と妥当性の検証)
・出版:European Journal of Work and Organizational Psychology, 2016年
・著者:Marianne van Woerkom, Karina Mostert, Crizelle Els, Arnold B. Bakker, Leon de Beer, Sebastiaan Rothmann Jr.
・所属:ティルブルフ大学(オランダ)/ ノースウェスト大学(南アフリカ)WorkWell / エラスムス・ロッテルダム大学(オランダ)
■30秒でわかるこの論文のポイント
・「強みの活用」と「弱みの修正」に関する組織的支援と個人行動を測る、4次元の尺度(SUDCO)を初めて開発・検証した
・強みの活用に関する組織的支援と本人の行動は、自己評価・上司評価ともに職務パフォーマンスと有意に正の相関があった
・一方、弱みの修正に関する組織的支援と行動は、パフォーマンス評価との有意な相関が見られなかった
・弱みの修正行動も活力や熱意(エンゲージメント)の向上には寄与するが、疲弊感(消耗)の低減には効果がなかった
・この研究は、強みと弱みへのアプローチを組織レベルで体系的に診断できる基盤を、初めてつくったという点で先駆的な意義を持つ
■なぜ今、「強みの活用」を測る必要があるのか
ポジティブ心理学の台頭とともに、「強みを活かすことでエンゲージメントや幸福感が高まる」という知見は広く知られるようになってきました。
ギャラップのQ12という有名なエンゲージメント調査の中にも、「職場に,自分の最も得意な(強みとする)ことを毎日行う機会がありますか?("At work, do you have the opportunity to do what you do best every day?)」という問いが含まれているほどです。
しかし、ひとつの問題がありました。
組織における「強みの活用」と「弱みの修正」を同時に、かつ体系的に測定できる尺度が、これまで存在していなかったのです。
そこでこの研究は、この2つを明確に区別することから始まります。
■4つの次元で構成される「SUDCO」尺度
研究チームが開発したのは、以下の4つの次元からなる質問紙です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・強み活用の組織的支援(POS):組織が従業員の強みを発揮できるよう積極的に支援しているという認識
・弱み修正の組織的支援(POS):組織が従業員の弱点を補うよう支援しているという認識
・強み活用行動:従業員が自ら主体的に強みを使おうとする行動
・弱み修正行動:従業員が自ら弱みを克服しようとする行動
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これを「SUDCO(Strengths Use and Deficit Correction in Organizations)」(組織における強みの活用と欠陥の是正の尺度)と呼びます。
南アフリカとオランダの従業員を対象とした3つの研究を通じて、24項目からなる尺度の信頼性と妥当性が確認されました。
統計的な検証(確証的因子分析)により、4つの次元が明確に区別されること、また性別や年齢を問わず同様に解釈されることが示されています。
■研究の仮説と結果:8つの問いへの答え
この研究では、事前に設定された8つの仮説が、研究の中で丁寧に検証されています。
少し専門的な表現ですが、順を追って見ていきましょう。
◯尺度の構造に関する仮説
仮説1: 組織における強みの活用と欠点の是正は、4つの次元(強み活用のPOS・弱み修正のPOS・強み活用行動・弱み修正行動)から構成される。
→ 【支持】 因子分析により、従業員がこれら4つの要素を明確に区別して認識していることが統計的に証明されました。
仮説2: この4因子モデルは、他の代替モデル(2因子モデルなど)よりもデータに適合する。
→ 【支持】 他の組み合わせモデルと比較した結果、4次元モデルが最もデータを正確に表すことが確認されました。
◯収束妥当性に関する仮説
仮説3: 強み活用のPOSと弱み修正のPOSは、既存の「上司からの支援」と正の相関がある。
→ 【支持】 どちらの組織的支援も、上司からの支援と有意なプラスの相関を示しました。
仮説4: 強み活用行動と弱み修正行動は、活力・熱意(ワーク・エンゲイジメント)と正の相関があり、冷笑・消耗(バーンアウト)と負の相関がある。
→ 【部分的支持】 強み活用行動はすべての要素で予想通りの結果でした。
弱み修正行動も活力・熱意の向上と冷笑の低減には寄与しましたが、「消耗(Exhaustion)の低減」については効果が見られませんでした。
苦手なことへの向き合いにはエネルギーコストが伴うためと考察されています。
仮説5: 強み活用のPOSと弱み修正のPOSは、全般的な知覚された組織支援(General POS)と正の相関がある。
→ 【支持】 どちらも全般的なPOSとプラスの相関を示しつつ、それとは統計的に独立した概念であることも確認されました。
仮説6: 強み活用行動と弱み修正行動は、「個人的イニシアチブ」や「プロアクティブ・パーソナリティ」と正の相関がある。
→ 【支持】 どちらの行動も、既存の主体性指標と強いプラスの相関(r = .39〜.51)を示しました。
◯基準関連妥当性(パフォーマンス)に関する仮説
仮説7: 強み活用のPOSは、自己評価および上司評価による職務パフォーマンスと正の相関がある。
→ 【支持】 組織から強みを活かすサポートを受けていると感じている人ほど、自己評価だけでなく上司からの業績・行動評価も有意に高いことが確認されました。
仮説8: 強み活用行動は、自己評価および上司評価による職務パフォーマンスと正の相関がある。
→ 【支持】 自発的に強みを使おうと行動している人ほど、自己評価・上司評価(業績・行動)ともに有意に高い評価を得ていることが実証されました。
▽▽▽
なお、「弱み修正のPOS」および「弱み修正行動」については、いずれのパフォーマンス指標とも有意な相関は認められませんでした。
これは弱みの修正が無意味であることを示すのではなく、研究者たちは「弱みの修正は特定業務における不調を防ぐ衛生要因として機能しうるが、全体的なパフォーマンスを大きく引き上げる動機付け要因となるのは強みの活用である」と解釈しています。
■まとめと感想
今回の研究の核心は、何より「尺度の開発」にあると思います。
「強みの活用」と「弱みの修正」を、「知覚された組織支援(POS)」という組織レベルの視点と、従業員個人の主体的行動という2軸で同時に測定できる質問紙(SUDCO)を初めて構築した意義は大きいと感じています。
8つの仮説の検証を通じて改めて明確になったのは、強み活用に関するPOSと強み活用行動が、自己評価・上司評価の双方において職務パフォーマンスと有意なプラスの関連を持つということ。
一方で「弱みの修正」はパフォーマンスを直接押し上げる要因ではないものの、活力や熱意といったエンゲージメントには寄与するという、両者の役割の違いも鮮明になりました。
そしてこの研究に続く同じ研究者たちによる2018年の論文では、「強みを伸ばすこと」と「弱みを修正すること」の両面からのアプローチを組み合わせることが、最もプラスの効果をもたらすことも示されています。
今回の研究は、そうした次の問いへの橋渡しともなっているわけです。
また個人的に強く感じるのは、知覚された組織支援(POS)の枠組みで強みの活用を問う、こうした研究は日本ではまだほとんど見当たらないということです。
こうした研究の蓄積を深めていくことは、学術的にも、実践的なHR施策の設計においても、非常に意義あることではないかと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
※ 本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
https://gemini.google.com/u/0/gem/7442dea69edd/919ebe41194ccc75
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【編集後記】
◯今月のランニング:216km
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