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令和8年5月28日(第4475号)
「性格の強み」の研究の地図を描く(後編) ー強みはこれからどこへ向かうのか?ー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 4956字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は朝5時から11kmのランニング。
また午前は、1件のコンサルティングでした。
午後はアポイントやコーチングなど3件でした。
色々とプロジェクトが始まり、また加速しており、
刺激的な感じになってきております。
気合を入れて、走り続けたいと思います…!
*
さて、本日のお話です。
今日も先日に引き続き、「性格の強み」の研究領域について、その全体像を整理した論文をご紹介したいと思います。
本当は一回で終わらせるつもりだったのですが、それぞれの章があまりにも濃厚で、語りたくなる内容ばかりであり、結果として「前編・中編・後編」の三部作になってしまいました…(汗)
本日は、
・「性格の強み」の研究では、今何がすでに明らかになっているのか
・これから掘り下げるべきテーマはどこなのか、未開拓な領域はどこなのか
が整理されています。
まるで「冒険の地図」のように、「ここまでは既知」「ここから先は未知」という境界線を描いてくれる論文で、惹き込まれてしまいました。
アツくなって長文(そしてマニアック)になりすぎてしまいましたが、よろしければご覧くださいませ。
それでは、どうぞ!
■今回の論文
・タイトル:The Practice of Character Strengths: Unifying Definitions and Principles and Exploring What Is Soaring, Emerging, and Ripe with Potential in Science and in Practice (性格の強みの実践:定義と原則の統合、および科学と実践 of 現場において「飛躍しているもの」「出現しつつあるもの」「可能性に満ちているもの」の探求)
・出版:Frontiers in Psychology, 2021年1月(第11巻)
・著者:Ryan M. Niemiec、Ruth Pearce
・所属:VIA Institute on Character(オハイオ州シンシナティ)
■30秒でわかる本論文のポイント
・「強みベース」という言葉は広く使われているが、その定義は非常に曖昧。この論文はその曖昧さを言語化し、整理することを目的としている
・「性格の強みに基づくアプローチの実践者が備えるべき7つの要素」を提示している
・「性格の強みを深めるための6つの原則」を提示している
・研究領域を「⑴急成長中」「⑵新たな実践」「⑶可能性に満ちている」の3カテゴリーに分類し、今後の探求の地図を描いている(←本日はここ)
■⑴急成長中の実践——すでに確立されつつあるアプローチ
まずは、研究的な根拠があり、現場への普及も進んでいる「急成長中」の実践から見ていきましょう。
◯欠点よりも強みを優先する
人間にはネガティビティバイアスがあります。悪いことは良いことよりも強く印象に残る。だからこそ、強みに意識を向けることはパラダイムシフトになりえます。
試験前に強みへの気づきを促された学生は、弱点に焦点を当てた場合と比べて楽観性が高まり、ネガティブな感情も軽減されました。うつ症状の改善や自己効力感の向上においても、強みに焦点を当てるアプローチの有益な効果が複数の研究で確認されています。これは弱点を無視するということではなく、「まず強みを見る」という姿勢の転換の話です。
◯VIAサーベイを活用する
24の強みを測定するこのツールは、世界で1,500万件以上が実施されており、クライアントとの強みに関する対話の起点として広く使われています。強みへの気づきを育み、盲点を解消し、目標への介入を後押しする。シンプルでありながら、実践の入り口として強力な道具とされています。
◯シグネチャー・ストレングスの探求と促進
・最も自分らしい(Essential)
・表現するとエネルギーが湧く(Energizing)
・自然に出てくる(Effortless)
——この3つの「E」を特徴とする代表的な強みを意識的に活用すること。
「シグネチャー・ストレングスを新しい方法で活用する」介入に関するメタ分析では、幸福感・繁栄感の向上と抑うつの軽減が示されています。セッションの中で自身のシグネチャー・ストレングスを意識している実践者は約63%にのぼるという調査結果もあります。
◯「強みの発見(Strengths Spotting)」に取り組む
これは、ニーミエク(2018)が提唱したSEAモデルとして体系化されています。3つのステップからなる、「実践者が相手の強みを発見・伝達するためのフレームワーク」です。
・ Spot(特定する):相手の行動・言葉・態度の中に性格の強みを見つけ、具体的な名前でラベルを貼ります。「好奇心」「親切心」「勇敢さ」、そうした言葉で強みに輪郭を与えることが出発点です。
・ Explain(説明する):その強みがどのように発揮されたかを、行動的な証拠をもとに伝えます。「あのとき、こういう行動をしていましたよね」という具体的な観察に基づく説明です。単に「すごい」と言うだけでなく、なぜそれが強みといえるのかを言語化することが重要です。
・ Appreciate(称賛する):その強みの価値を、感情(どんな気持ちをもたらしたか)、意味(何のためになっているか)、目標・成果(何を達成することに貢献しているか)の3つの観点から伝えます。
この構造化された手順を踏むことで、相手の自己認識が深まり、強みが内側に定着しやすくなります。コーチング・マネジメント・トレーニングの場面で広く活用されており、調査では実践者の半数以上がクライアントに対して何らかの強みの発見介入を行っているという結果が示されています。
◯性格の強みとウェルビーイングの関係を明らかにする
「熱意・希望・愛情・感謝・好奇心」の5つは、複数の研究・文化・対象集団にわたって幸福との関連が特に強い、いわゆる「幸福の強み」です。これらへの介入は、クライアントへのシンプルかつ根拠ある入り口として機能します。ただし、これ以外の強みでも幸福を高めることはできますし、高得点だからといって幸福が保証されるわけでもない、というニュアンスも忘れないことも大切です。
■⑵新たな実践手法——今まさに広がりつつあるアプローチ
◯逆境とレジリエンスを強みと結びつける
かつての強みの議論は、ウェルビーイングやポジティブな側面に偏りがちでした。しかしこの論文は言います。性格の強みは、困難・苦しみ・逆境においても機能すると述べています。
◯可能な限り、科学を基盤とする
「ポジティブ心理学に基づいている」と謳いながら、実際には根拠の薄い活動をしている実践者を、著者たちは多く目にしてきたと言います。だからこそ、この姿勢は重要です。
◯強みの過剰使用・過少使用・最適使用を考える
どの強みも、使いすぎても使い足りなくても問題が生じます。好奇心が多すぎれば詮索好きに、少なすぎれば無関心に。慎重さをやりすぎれば堅苦しさに、不足すれば無謀になる。「適切な強度で、適切な状況に、適切な組み合わせで」発揮できるよう支援することが求められます。
◯マインドフルネスと強みの統合(MBSP)
マインドフルネスに強みを織り交ぜる「強み✕マインドフルネス」。この両方を8週間で統合的に実践するプログラムがMBSPです。ウェルビーイング・エンゲージメント・職場満足度への効果に加え、最も普及しているマインドフルネスプログラム(MBSR)よりも業務遂行能力やユーモアの強みを高めるという研究結果もあります。
◯気づき・探求・実践のプロセスモデル(AEAモデル)
ニーミエク(2014)が提唱するAEAモデルは、
・強みへの気づき(Aware)→
・質問や内省での探求(Explore)→
・具体的な行動への実践(Apply)
という3段階の流れです。幸福感の向上やネガティブな感情の減少、強みの活用促進において研究的な支持があります。
ここで、先ほどの「SEAモデル」との違いを整理しておきたいと思います。
SEAモデルが「他者の強みを見つけて伝えるための実践ツール」であるのに対し、AEAモデルは「自分の強みを育てていくための成長のロードマップ」というイメージ。SEAは外向きで、ある一場面における他者への働きかけ。AEAは内向きで、自分自身の強みとの継続的な関係を深めていく縦断的なプロセスです。
ふたつの関係を重ねてみると、SEAはAEAの入り口を支援するツールとも位置づけられます。実践者がSEAで強みをラベル化し・説明・称賛することで、相手の中に「気づき(Aware)」が生まれる。その気づきがあってこそ、探求し、実践へと向かうAEAの旅が始まる、というイメージです。
■⑶可能性に満ちた実践領域——これからの地図
◯フェーズ的強み(局面強み)
自分のシグネチャー・ストレングスではないけれど、ある場面では強く発揮される強みです。プレゼンのときだけ情熱が溢れてくる、危機のときに突然リーダーシップが現れるなど、「状況に応じて出てくる強み」を探求するということです。実践の現場では先行しているが、実証研究はまだほとんどない領域です。
◯ホットボタン(感情が刺激される引き金)
他者の強みが過剰または過少に発揮されたとき、なぜか自分がフラストレーションを感じる——その反応の背後には、自分自身の強みへの信念や期待が隠れています。対人葛藤を探求するひとつの鍵になりえます。
◯強みの受容
強みは「表現する」だけでなく、「相手にどう受け取られるか」も重要です。ユーモアを発揮することが関係を深めるか制約するかは、相手の受け取り方次第。あるいは、誰かが許しを表現することは感情的な負担を伴うものですが、その許しが相手にどう受け取られるかは、その人次第ですし、また許す側の癒しにも大きく関わります。
◯強みの衝突・相乗効果・緩和と牽引
二つの強みが互いに相反するとき(衝突)、掛け合わさってより大きな効果を生むとき(相乗)、ある強みが別の強みを和らげたり引き上げたりするとき(緩和・牽引)。たとえば「学ぶことへの愛」というトップの強みを使って、低い強みである「謙虚さ」についての知識を読み深めていく——これが牽引効果の一例です。研究はまだ少ないが、実践者には強く共感されるテーマです。
■研究領域の地図——急成長・新興・可能性
実践だけでなく、研究領域も同じ3分類で整理されています。
◯急成長中:職場・組織、教育
25件以上の研究が蓄積されており、もっとも活発な領域です。職務遂行能力・職場満足度・仕事への没頭感・学業成績・生活満足度との関連が多数確認されています。職場で4つ以上のシグネチャー・ストレングスを発揮した従業員は、そうでない従業員に比べて「天職」として仕事を感じやすいという研究も印象的です。
◯新興:健康・医学、マインドフルネス
関心の急増を示す10本以上の査読付き論文があります。医師のウェルビーイング、患者への強みの統合、急性冠症候群患者への電話介入、MBSPの幅広い応用など、興味深い知見が出始めています。
◯可能性に満ちた領域:スピリチュアリティ、環境・自然、平和・紛争研究
研究数は0〜3件と極めて少なく、それゆえ可能性が広大に開かれている領域です。性格の強みが内なる平和から国際的なレジリエンスの構築まで寄与しうる、という視座はまだほとんど探求されていません。「強みが具体性を提供しスピリチュアリティを深める道」と「スピリチュアリティが強みを高める道」——その往還の可能性だけで、すでに深い問いが宿っています。
■まとめと感想
この論文の最後のまとめであった、以下の言葉が印象的です。
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研究者には、急成長している新興領域の検討において、 次のステップを踏み出すことが求められる。大局的な視点から見れば、 これらすべての分野における取り組みは始まったばかりである。(中略)
性格の強みがウェルビーイングの向上と逆境への対処の両方において重要な役割を果たすことを発見した。これらは、人間の状態を理解し、その利益を図るために、研究者や訓練を受けた実践者が探求を続けるべき広大な領域である。
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この論文が「性格の強みとは何か」「何でないのか」を丁寧に言語化し、今わかっていること、わかっていないことの輪郭を描くことで、これまで歩んできた人、これから歩む人(研究者と実践者の双方)に、「強みの地図」をが提供してくれた、そんな内容だと感じました。
自分自身が実践者と研究者の間にどう立つのか。どの領域を耕すのか。この論文はそういう問いを、手渡してくれるような一本だと感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:196km
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