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令和8年5月25日(第4472号)
「自己肯定感」を高めるには、「自分の大切な価値観」を書き出せばよい
ー香港大学らの研究ー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3215字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤 康行です。
「セルフ・アファメーション」という言葉があります。
直訳すると「自己肯定」です。
自己啓発の文脈で使われることも多いこの言葉。
平たく言えば”自分という存在に価値があると、自ら認める”ことです。
たとえば、大谷翔平選手が愛読したという中村天風氏の著書にも「鏡に向かって、『お前は自信にあふれている』と語りかけよ…!」みたいな方法(が紹介されていますし、西洋的な意味での「アファメーション」も、力強い言葉を自分に向けるというニュアンスで語られることが多い印象があります。
…ただ、これらは正直な話「かなりゴリゴリの自己啓発チック」な匂いがするのが、多くの人に伝わりづらくしている。そんな印象があるのも事実。
さて、そんな中で、今回ご紹介するのは、そのセルフ・アファメーション(自己肯定)の介入が、ウェルビーイングにどのような影響を与えるのかを検証したメタ分析の論文です。
67本の査読論文を横断的に分析した大規模な研究で、「アファメーションって実際どんな効果があるの?」という問いに、丁寧に答えてくれています。
ということで、早速中身を見てまいりましょう!そ
れでは、どうぞ。
■今回の論文
・タイトル:The Impact of Self-Affirmation Interventions on Well-Being: A Meta-Analysis (自己肯定(セルフ・アファメーション)介入がウェルビーイングに与える影響:メタ分析)
・出版:American Psychologist, 2025年 著者:Yunian Zhang, Boyin Chen, Xinyang Hu, Minhong Wang
・所属:香港大学 教育学部 知識管理・eラーニング研究室 / オックスフォード大学 教育学部
■30秒でわかるこの論文のポイント
・「自己肯定理論」は、心理的脅威に直面した際に、脅威とは無関係な自己の重要な側面(大切な価値観など)を肯定することで、全体のポジティブな自己イメージを維持・回復できると提唱しています。
・教育や健康分野での有効性は多く報告されてきましたが、心理的成果やウェルビーイング全般に焦点を当てた系統的なレビューは不足していました。
・本研究の目的は、自己肯定介入が、ウェルビーイングの4つの次元(自己認識、全般、社会、心理的障壁)に与える全体的な効果を検証することです。また、介入タイプや測定時期、脅威の有無などの諸条件(モデレーター)が効果にどう影響するかを明らかにすることを目指しています。
・結果、以下のことがわかりました。
⑴セルフ・アファメーション(自己肯定)介入は、自己認識・全般的ウェルビーイング・社会的ウェルビーイングを高め、心理的障壁(不安・抑うつなど)を有意に減少させることがわかりました。
⑵効果は一時的なものではなく、特に心理的障壁の軽減においては時間が経つほど効果が大きくなる傾向がありました。
⑶介入の方法(エッセイあり/なし、価値観の肯定か強みの肯定か)や、ストレスの有無に関わらず、一様に効果が認められました。
⑷青少年は成人に比べて自己認識への効果が低く、文化差(アジア圏・米国圏)も確認されました。
■「自己肯定」って、そもそもなんだ?
◯自己肯定とは何か?
まず、そもそもですが「自己肯定」ってなんなのでしょうか?
このことについて、本研究では、「自己肯定」を「個人が脅威をどのように認識し、それに対応するかを変化させるための効果的な介入方法」と述べ、
その核心を「自己の適正に対する認識を維持するという考えにある(Steele, 1988)」と述べています。
ゆえに、これに関連するアウトカムが、「自尊心・自己効力感・自己評価・自己整合性」であり、これらの変数はウェルビーイング研究にも密接に関連していると述べています。
◯自己肯定の介入って何をするのか?
その中で、個人的に気になったのが、「研究の中での自己肯定介入って、具体的に何をするのか?」という点です。
分析対象となった研究の大部分で採用されていたのは、2つです。
・⑴価値観の肯定(Value affirmation)
ー自分にとって大切な価値観を重み付けして並べ、「なぜそれが自分にとって重要なのか」をエッセイ形式で書く、というものです。
・⑵特性の肯定(Attribute affirmation)
ーたとえば、親切にした行為を思い出したり、自分の強みを振り返ったりするアプローチです。
■研究の方法 ー4つのウェルビーイング指標
先ほどお伝えしましたが、自己肯定のウェルビーイングへの影響を以下の4つの次元に分けて分析しています。
・自己認識(自尊心など)
・全般的なウェルビーイング(ポジティブ感情、生活満足度など)
・社会的ウェルビーイング(所属感、人間関係の質など)
・心理的障壁の軽減(不安・抑うつなど)
これらについて、67本の論文、129の独立した研究を統合した結果、すべての次元で統計的に有意な効果が確認されました。
効果量(Hedges' g)の数値としては、自己認識が0.32、全般的なウェルビーイングが0.29、社会的ウェルビーイングが0.26、心理的障壁の軽減が-0.22(マイナスは「減少」を意味する)。
(ちなみに「小さい」という表現が使われることもある効果量ですが、メタ分析の文脈では十分に意味のある数字とされます(ほとんどの研究が小~中程度の効果量である印象です)。
何より興味深かったのが、効果が持続し、むしろ時間とともに強まるという点です。
「心理的障壁の軽減」に関しては、即時効果(0.16)に比べ、遅延効果(0.36)の方が有意に大きつまり、時間が経てば経つほど、不安や抑うつを和らげる効果が高まっていくということです。
そんなことあるんだなあ…というのが発見でした。
■研究の結果、わかったこと
◯わかったこと1:どんな介入方法や文脈でも効果がある
研究の中で特に興味深かったのが、モデレーター分析の結果(条件や属性によってどう変わるか)でした。
価値観の肯定か、特性の肯定か。
1回きりの介入か、複数回の介入か。
ストレスがある状況か、日常的な中立の場面か。
これらの違いによって、効果サイズに有意な差は見られなかったとのこと。つまり、「どんな方法で行っても、どんな文脈で行っても、自己肯定は一様に効果がある」という結論です。
価値観を探求する、強みを見つけるなどなど、こうしたワークショップの小さな介入が、じわりとインパクトを与えている。そういう結果と感じられて、なんだか嬉しくなりました。
◯わかったこと2:若い人には「効果が低め」である
一方で、誰にでも同じように効くわけではないことも示されています。
成人に比べ、青少年(12〜18歳)は「自己認識」の効果が有意に低いという結果でした。思春期特有の自己形成の揺らぎの中では、価値観の言語化や内省が難しい場合もある、ということかもしれません。
◯わかったこと3:アジア圏では「自己認識」の効果が高い
また文化差も興味深いです。
アジア圏では「自己認識」への効果が、米国圏では「全般的なウェルビーイング」への効果がより顕著に現れる傾向が確認されました。
文化や集団主義的な規範によって、「自己肯定」の意味合いが微妙に異なることが、こうした差に反映されているのかもしれません。
■まとめと感想
この論文を読んで、一番印象に残ったのは、「研究上の自己肯定感の大半が、価値観の肯定というアプローチだった」という事実でした。
たとえば、「価値観カード」みたいなワークがあります(自分の大切な価値観を選ぶというもの)。あるいはキャリアの文脈でも、キャリアアンカーが重視されますが、それは単なる「自己理解のワーク」にとどまらず、ウェルビーイングそのものに影響を与える介入だったということになります。
ふと、自分自身のことを思い出しました。
20代のはじめ、最初に入った会社を逃げるように辞めた後、本当に自信を失っていた時期がありました。自分の価値とは何なのか、とうなだれながら考えていたあの頃。
当時は価値観カードなんてありませんでしたが、たままま出会った本から、たまたま自分の価値観を洗い出して、1位が「自尊心」、2位が「健康」、3位が「成長」みたいなことを書き出したことを覚えています。
でも、あれは「自己肯定」という意味で、自分の心の土台を整える上で、重要なプロセスだったんだなと振り返り思います。改めて、価値観、自己認識、そうしたこれまで見てきたキーワードの重要性を改めて認識した論文でございました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:185km
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