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令和8年5月23日(第4470号)
7時間眠ると、自尊心が高まる ー1800名への調査からわかったことー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 2614字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
本日は「睡眠」に関するある論文を紹介したいと思います。
さて、睡眠の大切さは、だいぶ多くの人に知られるようになってきました。睡眠に関連するビジネス書も一時期ブームになりました。
(『スタンフォード式最高の睡眠』『睡眠こそ最強の解決策である』等)。
体感としても、睡眠不足のときに感じるあのなんともいえない感覚、イライラしたり、気分が落ちたり、何をしても元気が出なかったり…は、誰もが一度は経験したことがあるのではないかと思います。
そんな中で今日ご紹介したいのは、一見シンプルに見えるけれど、なかなか示唆深い論文です。
テーマは「睡眠と自尊心の関係」です。それでは、どうぞ。
■今回の論文
・タイトル:Optimism and Self-Esteem Are Related to Sleep. Results from a Large Community-Based Sample (楽観主義および自尊心は睡眠に関連している:大規模な地域住民サンプルの結果)
・出版:International Journal of Behavioral Medicine, 2013年
・著者:Sakari Lemola, Katri Räikkönen, Veronica Gomez, Mathias Allemand
・所属:バーゼル大学(スイス)心理学部 / ヘルシンキ大学(フィンランド)行動科学部 / チューリッヒ大学(スイス)心理学部
■30秒でわかる本論文のポイント
・7〜8時間の睡眠をとっている人ほど、楽観主義・自尊心のスコアが高い
・不眠症状がある人は、うつ病の影響を除いても、自尊心が低い傾向がある
・6時間未満の短時間睡眠・9時間超の長時間睡眠は、どちらも自尊心にマイナスの影響を与える
・睡眠と自尊心の関係は、うつ病とは独立した別の関係として存在している
・短時間睡眠による悪影響は、特に女性においてより強く現れる
■なぜ「睡眠と自尊心」を結びつけて考えるのか
まず、「本研究の背景と目的」です。
睡眠が心身の健康に影響を与えることは、もはや多くの研究で明らかになっています。睡眠が足りないと心疾患や高血圧、うつ病のリスクが高まることは広く知られています。
しかし、これまでの研究のほとんどは「睡眠不足がどんな病気や不調を引き起こすか」というネガティブな視点からのものでした。
裏を返せば、「良い睡眠が人のポジティブな側面、すなわち「楽観主義や自尊心をどのように支えているか」については、ほとんど検証されてこなかったのです。
この論文が目を向けたのは、「睡眠がもたらすポジティブな面」です。
健康を守るだけでなく、人の内側にある前向きな力と(自尊心=自分には価値があると思う心、楽観性=未来はきっとうまくいくと思える心)と睡眠はどう結びついているのか。
そこに光を当てた点が、この研究の面白いところです。
■誰を、どうやって調べたのか
次に、「研究の方法」です。対象となったのは、アメリカの大規模縦断研究「MIDUS(Midlife in the US)」の第2波データ(2005年)から抽出された、30〜84歳の成人1,805名(男性818名・女性987名、平均年齢56.9歳)です。
調べた内容は主に以下の4つです。
・不眠症状:入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒の3項目を5段階評価
・睡眠時間:平日と週末の平均を加重平均で算出。7〜8時間を基準とし、それ以外(6時間未満/6〜7時間/8〜9時間/9時間超)を比較
・楽観主義:LOT-R(ライフ・オリエンテーション・テスト改訂版)で測定
・自尊心:ローゼンバーグの自尊感情尺度で測定
そしてポイントは、うつ病の影響を統計的に取り除いた上で分析したことです。
「睡眠不足な人はうつ気味だから自尊心も低いのでは?」という疑問に、きちんと答えようとした設計になっています。
■わかったこと:やっぱり「7〜8時間睡眠」が鍵だった
分析の結果、以下のことが明らかになりました
◯結果1:不眠症状がある人は、楽観主義・自尊心ともに低い
しかも、うつ病の影響や睡眠時間を差し引いても、その関係は独立して存在していました。つまり、「眠れないこと」それ自体が、自尊心を下げる要因になっているということです。
◯結果2:6時間未満の短時間睡眠も、低い楽観主義・自尊心と関連していた
特に女性において、その悪影響はより顕著でした。女性は睡眠不足による健康リスクへの感受性が高いとする先行研究とも一致する結果です。
◯結果3:9時間以上の長時間睡眠もまた、低い楽観主義・自尊心と関連していた
「たくさん寝ればいい」というわけではなく、過剰な睡眠もまたポジティブな心理特性に悪影響を与えることが示されました。
■なぜ睡眠が自尊心に影響するのか
ちなみに、なぜこのような睡眠の乱れが自尊心に関連するのか、について、いくつかの示唆があります。
1つが、睡眠の乱れが「HPA軸(視床下部-下垂体-副腎皮質軸)」と呼ばれるストレス応答系を乱し、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌に影響を与えることで、ポジティブな心理特性を損なうというルートです。
2つ目が、逆方向の因果関係です。つまり、「もともと楽観的で自尊心が高い人のほうが、良質な睡眠をとりやすい」という可能性も捨てきれないという話です。因果の向きがどちらであるかは、この研究単独では断言できませんが、いずれにせよ「睡眠」と「内なる肯定感」が密接に結びついていることは確かなようです。
■まとめと感想
睡眠が大事、とはよく言われます。でもそれが自尊心と直接つながっているという視点は、興味深いものでした。
ちなみに「強みを活かす」ことと「自尊心」も相関していることがわかっており、「強み」を活かす上でも「まずよく眠ること」が土台になるのだろうなと感じました。
少し話を加えると、書籍『睡眠文化論』にも書かれていることなのですが、日本人や中国人・韓国人など、儒教的な価値観の影響を受けている文化圏では「長く眠ることはサボること」というイメージを持ちやすく、他国に比べて睡眠時間が短い傾向があるそうです。
日本人の場合はそもそも(理想の睡眠時間より)1時間〜1時間半ほど少なくなってしまう傾向がありそうです(周りの友人のビジネスパーソンも6時間寝ればいいほう…と言っている人も少なくない)。
ゆえに「科学的には7~8時間は寝たほうがいい」という事実は、日本人にとって特に意識して受け取りたいメッセージではないかと思います。
もちろんこの研究はアメリカ人を対象にしたものであり、日本人にそのまま当てはめることには限界があります。
それでも、文化的な思い込みで睡眠を削ってしまいがちな私たちにとって、「しっかり寝ることは怠けではなく、自分を整える行為だ」という視点は、やはり大切にしたいと感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
※ 本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
https://gemini.google.com/u/0/gem/7442dea69edd/6e2404480cbfbc97
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【編集後記】
◯今月のランニング:171km
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