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令和8年4月22日(第4440号)
「介護すること」で心はどう発達していくのか? ー『中年からのアイデンティティ心理学』#9
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 2042字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
さて先日、祖母の葬儀を終えましたが、長らく祖母を介護してきた我が母が「少しだけ力が抜けたような気もしている」と言っていたのが、印象的でした。
介護に関わることは、私は見たり聞いたりしたことしか、今のところはありません。
ただ、それに伴う大変さは、やはり身構えるのに十分な重みを持っているとも感じます。
実際に、私自身も義父が80歳を迎え、間近に迫っているテーマとも感じているこの頃。
*
さて、本日のお話ですが、先日に引き続き『中年からのアイデンティティ心理学』の読み解きをいたします。
本章では「世話を通じての関係性による、アイデンティティの発達」が取り上げられています。
前半では「子育て」という若い世代への世話でした。
後半は「介護」という老いた親を世話することによる、心の発達を扱っています。
介護体験は、人をどのように発達させていくのか。
今日はそんなテーマからの学びを共有させていただければと思います。
それでは、どうぞ。
■介護によるストレスと葛藤
この本が書かれた1996年から、今は2026年と30年経ちました。本書では、この高齢者の介護について、こんな出だしで書かれています。
子どもが自立した後の人生は、夫婦2人だけの生活をイメージしがちであるが、この時期はまた、本格的に親の世話をしなくてはならない事態になってくることも多い。
しかし、私の同世代の友人・知人の話を聞くと、出産年齢が遅くなっていることから、子育て真っ最中に介護問題が重なるというのも珍しくない印象があります。そして、男女ともに共働きであると、その負担感は、想像して余りあるものがあります。
日本は、高齢者介護に対して比較的大きな公的支出をしているものの、まだまだ足りない。超少子高齢社会で、要介護高齢者は増える一方で、介護職員・施設の数が足りていないという中、「負担感」は高まっているという現状があります。
■介護は「社会との繋がり」を奪ってしまう?
中心的介護者(多くの場合、女性)は、介護によって「仕事をやめた」「仕事を変えた」「勤務時間を短縮・変更してもらった」など仕事にも影響があります。
そして、興味深い研究としては、介護者が「介護という役割に閉じ込められてしまう」(封じ込み閉止:role engulfment)という現象があるとのこと。
「あなたは、おばあさんの世話があるから、この仕事は私がやっておいてあげる」「あなたの代わりに◯◯を済ませておいてあげた」というように、介護以外の役割を「免除」されていく。この親切心が結果的に、介護という役割に閉じ込められてしまうことに繋がる(これを「社会的機能の文化的剥奪現象」と呼ぶそうです)とのこと。
介護者は、介護することによって、得られなくなっている機会もある。
それも一つの事実といえます。
■介護による「成長感」には何がある
一方、介護に携わることによって体験できる「成長感」もあります。
これは、介護者79名に対する調査により明らかになったものです。
それによると、以下のようなことが介護によって得られることでした。
(ここから)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
A:介護に関する感情
・介護はやりがいのある仕事だ。
・介護をするのは、自分が今まで世話になった分の恩返しである。など
B:要介護者としての接し方・受け止め方
・私は介護している人の、身体的、精神的障害を、そのまま受け入れられる。
・私は介護を受けている人から精神的に支えられていると思う。など
C:要介護者の人生の受け止め方
・私は介護を受けている人の人生を、かけがえのないものだと思う。
・私は介護を受けている人を、人生の先輩と思い、尊敬している。など
D:介護者自身のアイデンティティ意識
・私は自分の果たすべき役割がわかっている。
・私は自分の今までの人生を受け入れ、満足している。など
E:老いに関する感情
・老いることは、自然なことである。
・年をとることは、若い時に考えていたよりもよいことだと思う。など
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)
これらのスコアについて、介護経験をする際に「施設職員」→「一般人」→「在宅介護者」の順に、「成長感」の平均が下がっていくようです。
施設職員がもっとも「成長感」が高いのは、複数名で協力して介護を行えていること、一方、成長感が平均的に低い(実際には、ものすごく高い人もいるので、ばらつきが大きい)「在宅介護者」は、常に1人で24時間体制で行うということで、否定的な感情が強く出ることも考えられそうです。
■「老いと死」を受け入れるプロセス
さて、例えば自分の親が、介護が必要になったとき、人はどのような心理的なプロセスを経るのでしょうか?
以下のようなプロセスを経るとのことでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「衝撃」→「否認」→「怒り」→「抑うつ」→
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まず、ここまでが、介護が必要になって在宅介護の支援(知識の習得など)を受け始める時期です。その上で、寄り添ったり、介護の自信がつくことで、次のプロセスに進んでいきます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(抑うつ)→「受容・希望」→「目標」→「昇華」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これは、キューブラー=ロスの「死の受容モデル」(大病などで死を受け入れるプロセス)と同じです。
最初はその事実を受け入れられない、しかしそこから次第に受容をすることに、そこに意味を見出していく、という内的な変容が起こっていくとされています。
■まとめと感想
いつか話を聞いた「反出生主義」的な思想(=人生は苦痛があるから生まれないほうがよいという考え)に対する反論が、まさにこうした「心理的な発達」なのかもしれません。
苦痛はどうしても生まれてから逃れられないものかもしれません。
でも、その道程で「希望」「昇華」など、老いにも病にも、何重もの意味付けがされていく。
そうした経験を重ねること自体が人生なのだ、と心から思えたとしたら、ある意味一つのゴールに至ったとも言えるのかもしれない…そんなことを感じた次第です。
人生とは、なんとも濃厚な旅路ですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:200km
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