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令和8年3月26日(第4414号)
「何かを知りたい!」という認知欲求は学業成績を高める
ー30年間の5万人への研究でわかったことー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3645字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は3件のアポイント。
出版の打ち合わせなどでしたが、
現状、ほぼすべて書き直しとなりそうで(涙)、
改めて第2ステージということで、ネジを巻き直して行く必要がありそうです。
わかってはいましたが、
「理論をまとめた本=売れる本」
ではないことに改めて向き合いつつ、
「面白く、感情が動く本」としてまとめていく必要があることに向き合っている今日この頃です。
本を作るって、なんとも深い⋯。
その他、朝5:30から25kmのランニング。
早朝からランニング8:00から仕事のルーチンが定まりつつあります。
*
本日は「認知欲求(Need for Cognition)」と学業成績の関係を大規模なメタ分析で検証した論文をご紹介します。
ものすごく平たく言えば「何かを知りたい!」という知的な欲求のことを「認知欲求(Need for Cognition)」と呼び、1980年代から研究が積み重ねられてきた概念です。この欲求は学業成績にも関連しており、教育にとっても重要な要素であるとのことで、改めてこうした切り口の研究があったのか…!と大変興味深く思いました。
30年以上にわたる認知欲求研究の歴史を踏まえ、学業成績とどのような関係があったのかを5万人以上のデータで比較・検証したのが今回の論文です。個人的に「認知欲求」の研究の歴史や背景部分が特に面白かったのですが、それらも含めてポイントをまとめてまいりたいと思います。それでは、どうぞ。
■目次
・今回の論文
・30秒でわかる論文のポイント
・研究の背景と目的
・認知欲求とは何か
・研究の方法
・主な結果(わかったこと)
ーわかったこと1:認知欲求と学業成績には小さいながらも信頼性の高い正の相関がある
ーわかったこと2:学年が上がるほど、認知欲求と学業成績の関連は強くなる
ーわかったこと3:地域差があり、アジアでの研究では相関がほぼ見られない
ーわかったこと4:研究に介入が含まれる場合、認知欲求の効果は弱まる
■今回の論文
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『Need for Cognition and Academic Achievement: A Meta-Analysis(認知欲求と学業成績の関係:メタ分析)』
著者:Qing Liu / John C. Nesbit
ジャーナル:Review of Educational Research、2024年
所属:サイモン・フレイザー大学(Simon Fraser University)
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■30秒でわかる論文のポイント
・「認知欲求」とは、努力を要する認知的活動に自ら取り組み、それを楽しむという個人の内発的動機のこと。(知的「能力」ではなく、知的「動機」である点が重要)
・136の独立した効果量(N=53,258)を統合したメタ分析で、認知欲求と学業成績の間に小さいながらも信頼性の高い正の相関(r=.20)が確認された。
・この関連性は「学年」「地理的地域」「介入への曝露」「成果測定ツール」の4つの変数によって調整されることが判明した。
・年齢が上がるほど認知欲求と学業成績の相関は強まる傾向があり、小学生段階から認知欲求を育てることの重要性が示唆された。
・研究の大半は北米・ヨーロッパの高等教育機関の学生を対象としており、アジアや初等・中等教育への一般化には慎重な姿勢が必要とされている。
■研究の背景と目的
教育研究において、学習成績に影響を与える個人差要因を理解することは長年の課題です。そのなかでも近年、大きな注目を集めてきた要因が「認知欲求(Need for Cognition)」です。
◯認知欲求とは何か
認知欲求とは、Cacioppo & Petty(1982)によって再定義された概念です。
「認知的に負荷の高い課題——抽象的思考、精緻化処理、批判的評価、複雑な問題解決など——に取り組むことへの個人の内発的な選好・動機」
を指します。重要なのは、これが「知的能力」ではなく「認知的動機」だという点です。前者が「何ができるか」を示すのに対し、後者は「どれだけ主体的に認知的リソースを投入しようとするか」を示します。認知能力との相関は中程度に留まり、認知能力を統制した後でも認知欲求は学業成績を独自に予測することが示されています。
認知欲求の高い学生は、情報処理においてより大きな努力を払い、問題解決のために関連情報を積極的に検索・活用し、議論の質に注意を払う傾向があります。一方、認知欲求の低い学生は、新しい情報を無視・歪曲したり、周辺的な手がかり(メッセージ発信者の魅力や信頼性など)に基づいて結論を下したりする傾向があることも指摘されています。
しかし、こうした認知欲求と学業成績の関連性を体系的に検証し、異なる教育的文脈でどのように変化するかを検討した研究は乏しく、結果の一貫性にも課題がありました。本論文はその空白を埋めるために実施されたメタ分析です。
■研究の方法
・デザイン:メタ分析(既存研究の系統的統合・定量的統合)
・対象文献:Academic Search Premier、ERIC、PsycINFO、Web of Scienceなど複数のデータベースを検索。一次検索で6,802件を抽出し、最終的に122本の論文
・136の効果量(N=53,258)をメタ分析に採用
・参加者:幼稚園から高校(K-12)および高等教育機関の学生。研究の約79%は高等教育機関の学生が対象
・使用した尺度:Cacioppo et al.(1984)による18項目の認知欲求尺度を中心に複数の測定ツールを使用
・分析手法:逆分散で重み付けを行うランダム効果モデル。効果量指標には相関係数 r を使用
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:認知欲求と学業成績には小さいながらも信頼性の高い正の相関がある
全体的な効果サイズは r=.20(95%信頼区間:.18〜.22)であり、認知欲求の高い学生は低い学生より学業成績が優れている傾向が確認された。この値は先行のメタ分析(Richardson et al., 2012; von Stumm & Ackerman, 2013)と同水準であり、知見の頑健性が確認された。ただし効果量としては「小さい」水準であり、認知欲求が学業成績のすべてを規定するわけではない。
◯わかったこと2:学年が上がるほど、認知欲求と学業成績の関連は強くなる
学年は有意なモデレーターであることが判明した。小学1〜6年生(G1-G6)では r=.12 と最も弱く、中学・高校生(G7-G12)では r=.18、高等教育機関の学生では r=.20 と、年齢とともに関連が強まる傾向が見られた。小学生段階では高度な認知的・メタ認知的スキルがまだ発達途上にあるためと解釈されており、認知欲求が学習に関与できる機会が相対的に少ない可能性が指摘されている。
◯わかったこと3:地域差があり、アジアでの研究では相関がほぼ見られない
地理的地域も有意なモデレーターであった。北米では r=.22、ヨーロッパでは r=.18 に対し、アジアでは r=-.02 とほぼゼロに近い値が示された。ただしアジアからの採用研究が4件と少なく、文化差と断言するのは難しい。アジアの研究がすべて小〜中学生対象であったことから、学年の効果が交絡している可能性が高いとも指摘されている。
◯わかったこと4:研究に介入が含まれる場合、認知欲求の効果は弱まる
成果測定の前に特別設計の学習活動(介入)が含まれた研究では効果サイズが r=.17 と低く、介入なしの研究(r=.22)より有意に小さかった。これは、指導者による介入がある場面では認知欲求の有無にかかわらず多くの学生が最大限のパフォーマンスを発揮しようとするためと解釈されており、認知欲求の効果は「指示の少ない自律的な学習場面」でより顕著に現れる可能性が示唆されている。
■応用可能性(実践に活かすヒント)
この研究が示す最大の実践的含意は、「認知欲求は育てることができる」という点です。認知欲求には可塑性があるという証拠があり(Castle, 2014; Preckel, 2014)、知的刺激のある環境において認知欲求を促進・訓練できるとされています。
ビジネス・組織開発の文脈では、単に知識を「与える」研修よりも、複雑な問いや未解決の課題に自律的に向き合う場を設計することが、参加者の知的動機を引き出す鍵になります。ファシリテーターが正解を提供しすぎる研修では、認知欲求の介入効果を薄めてしまう可能性があるとこの論文は示唆しています。
教育の文脈では、小学校段階から「知ることの楽しさ」を感じる体験を積み重ねることが重要です。プレッシャーの少ない環境で複雑で興味深い問題に取り組む活動、協同学習や議論といった認知欲求と関連する学習活動を、学生がすでに関心を持つトピックから導入することで、認知欲求の底上げにつながる可能性があります。
また個人の視点では、自分が「知ることを楽しめているか」「面倒な問題にあえて向き合う習慣があるか」を問い直すことが、長期的な学習成果に影響するという視点を、この研究は提供しています。
■まとめと感想
「認知欲求」という一つの概念が、これだけ多くの角度から研究されていることに、改めて驚かされました。自尊心、自制心、アイデアへの開放性、認識的探究心、目標志向、忍耐力…そうした個人的特性が組み合わさって「認知欲求」という形で表出していくような、個人特性の複雑さと奥深さを感じたのが、この論文を読んでいてとても興味深かった点です。
また、30年間の研究の蓄積の中で、効果量が少しずつ低下している傾向があるというのも、個人的にはとても示唆的でした。研究が増えていくにつれて反証も増え、当初センセーショナルに発表された知見が批判的な視点にさらされながら、より厳密にその効果の輪郭が見えてくる。それ自体が科学の営みの誠実さを示しているように思います。
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【編集後記】
◯今月のランニング:285km
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