配信日時 2026/03/10 12:15

私たちはどのように人を「許すこと」ができるのか? ー許すことの科学ー【カレッジサプリ】

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令和8年3月10日(第4397号)


私たちはどのように人を「許すこと」ができるのか? ー許すことの科学ー


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3145字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

先日は2件のアポイント。
また出版の編集者との打ち合わせでした。

研究などの進捗から初稿出しが極めて遅くなってしまい、
出版の予定は、大幅に遅れてしまいそうです。

その分、しっかりと練り上げたものをお届けしたい、
そのように思っている次第です(と言い聞かせている…)。

執筆は、100kmマラソンより、ずっと大変。
気持ちは、ようやく40km地点。自分、どれだけ進むのが遅いんだ、思いつつ、
脚はなんとか動かし続けております。

終わらない旅はない。



さて、本日のお話です、
先日「テレフォン人生相談」というニッポン放送の番組を聴きました。

リスナーの悩みに、小説家、大学教授、弁護士、医師、心理士など著名な方が答えるという60年以上続いている長寿番組です。

初めて聴いたのですが、なかなかに生々しい悩みで思わず釘付けになりました。

たとえば、

「妻に逃げられた6歳の娘を持つ父親(でもその前に箸を投げつけたりして、自業自得感あり)」、
「献身的に尽くしたのに、納得いかない遺言書を突きつけられた相続問題」、
「朝からストロング系のチューハイを煽ってしまうアルコール依存症の主婦」などなど(大変…)。

普段の生活では直接聞くことはないような悩みの吐露を通じて、人間の心の葛藤を覗き見するような感覚を覚えます。
生きることの過酷さと同時に、何気ない日常のありがたみを痛感させられる不思議な番組でした。

さて、そんな番組を聴きながらと思ったこと。

それが、人の悩みの一つは「誰かを許せない」という感情です。

そして、「許せない」感情そのものが、何よりも本人自身の心を、長い年月にわたって傷つけ、蝕んでいきます。

1990年代頃から、こうした「許し」への科学的な介入(カウンセリング手法)の研究が盛んになりました。
その中で、それらの手法が本当に効果的なのかを検証したメタ分析論文があります 。

どうすれば人は「許す」ことができるのか? そして、許すことで心はどう変わるのか? 

科学の視点から掘り下げていきたいと思います。

それでは、どうぞ!



■今回の論文
・タイトル:Intervention studies on forgiveness: A meta-analysis(許しに関する介入研究:メタ分析)
・著者:Thomas W. Baskin(トーマス・W・バスキン) / Robert D. Enright(ロバート・D・エンライト)
・ジャーナル:Journal of Counseling & Development(カウンセリング・発達ジャーナル)、2004年
・所属:ウィスコンシン大学マディソン校 カウンセリング心理学部門(University of Wisconsin-Madison, Department of Counseling Psychology)



■30秒でわかる論文のポイント

・「許しのカウンセリング」の効果を検証:過去の9件の厳選された研究データを統合して分析(メタ分析)しました 。

・3つのアプローチを比較:単なる「許すという決断」を促すものから、じっくり時間をかける「プロセス型」までを分類しました 。

・「じっくり型(プロセス型)」が圧倒的に有効:単発の決断だけでは効果が薄く、段階を踏んで感情を扱うアプローチが、許しと精神健康の両面で大きな効果を示しました 。

・深刻なトラウマにも光:近親相姦の被害者や親から愛情を受けられなかった人など、深い傷を負った人々に対しても有効性が示されています。

大事なのが、「じっくり向き合うこと」こそが「許し」につながるという話です。
また後ほどもまとめますが、許しには時間がかかるのです。



■研究の背景と目的

「許し」という概念は古代から存在しますが、カウンセリングにおける体系的な研究が始まったのは比較的最近のことです。
不当な扱いを受けたとき、私たちは怒りや恨みを抱きますが、それを手放せない状態は抑うつや不安、自尊心の低下につながります。

本研究の目的は、これまでに行われた「許し介入」の研究を統合し、「どのような手法が、どの程度、許しのレベルや精神的健康を改善するのか」を明らかにすることです。

◯「許し」とは何か?
本論文では、許しを「重大な不正行為に直面しても、あえて恨みを捨て、加害者に対して慈愛(思いやり)をもって応答すること」と定義しています。
これは、相手の行為を「仕方なかった」と弁解したり、無理に和解したりすることとは明確に区別されます 。


■研究の方法

本研究では、以下の基準を満たす9件の公表済み論文(合計330名)を分析対象としました。

・デザイン:対照群を持つ実証的研究のメタ分析。
・参加者:高齢女性、大学生(親との関係に悩みを持つなど)、近親相姦の生存者、中絶後の男性など、多様な背景を持つ人々。
・測定ツール:エンライト許し尺度(EFI)、許しの心理的プロファイル尺度(PPFS)などの「許し」指標に加え、自尊心、不安、抑うつなどの「情緒的健康」指標を使用。
・介入の分類:
 ー意思決定ベース:1〜8セッション程度。「許すという決断」そのものに焦点を当てる短期的アプローチ。
 ープロセス・グループ介入:6〜8セッション。集団で「許しのプロセス」を段階的に学ぶ。
 ープロセス・個人介入:12〜60セッション。1対1でじっくりと時間をかけ、深い傷を癒していく。


■主な結果(わかったこと)

分析の結果、驚くほど明確な差が現れました。

◯わかったこと1:単なる「決断」だけでは人は変われない

意思決定ベースの介入(「許すと決めましょう」というアプローチ)では、対照群と比較して、許しのレベルにも精神健康にも有意な改善は見られませんでした。

◯わかったこと2:時間をかけた「プロセス型」の効果は極めて高い

段階を踏んで怒りを見つめ、加害者を再構築(新たな視点で見る)し、共感を育む「プロセス型」の介入は、大きな効果を示しました 。
特に1対1の個人カウンセリングでは、効果サイズが d=1.66(許し)、d=1.42(精神健康)と極めて高く、平均的な参加者が対照群の90%以上の人よりも良好な状態になるほどの成果でした。

◯わかったこと3:許しは「心の万能薬」になり得る

許しのレベルが上がるだけでなく、それに伴って不安や抑うつが軽減し、自尊心や希望が回復することも確認されました 。
許しに焦点を当てることが、結果として総合的なメンタルヘルスの向上につながりました。



■実践に活かすヒント
この研究結果は、日常生活やビジネス、教育の現場に多くのヒントを与えてくれます。

◯「すぐに許せ」というアドバイスは危険である:
「決断だけ」のアプローチが効果を示さなかったように、自分や他人に「もう許してあげなよ」と無理に決断を迫ることは逆効果かもしれません。
許しにはプロセスが必要であることを理解しましょう。

◯教育や家庭での対話が重要:
親との関係で傷ついた若者に対する介入が効果を示したことは、
親子関係の修復において、単なる謝罪だけでなく、お互いの弱さや状況を理解する「視点の転換」が重要であることを示唆しています。

◯リーダーシップにおける葛藤解決:
職場の人間関係で不当な扱いを受けた際、感情的な解放(怒りの発散と受容)を飛ばして形式的な解決だけを目指しても、本質的な心の健康は守られません。



■まとめと感想

まず、思ったことは「許しには長い時間がかかる」という事実です。そして、許しには大きな「エネルギー」も必要とします。
自分の痛みを認識し、相手の立場に立ち、その人の文脈を理解するというのは、頭ではわかっていても、簡単にできることではない。
それらのことが、「プロセスに基づく個人カウンセリング」こそが、もっとも大きな効果サイズを示していたことが証明していると思いました。

また、改めて「幼少期に影響を受けた両親の話」が論文の中でも多かったこと、
そして、介入対象者が36歳になったときでも、やはり心理的な苦痛を抱え続けていることなどから、
子ども時代の親との関わりは、本当に大切なものなのだな、と感じた次第です。

「許し」は決して相手を免罪することを通じて、自分自身の心を取り戻すための旅なのだな、などと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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 【編集後記】
◯今月のランニング:64km

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