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令和7年11月11日(第4278号)
強みベースのコーチングがスポーツ選手にもたらす変化とは? ー論文レビュー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 2434字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
本日は、久しぶりに「強み」に関する論文をご紹介したいと思います。
今回取り上げるのは、これまで見たことがないテーマで「エリートスポーツ選手に対して強みアプローチを行ったとき、どのような変化が生じるのか?」を定性的に検討したケーススタディです。
対象は一名のエリートクリケット選手。「強みベースのコーチング」がメンタルタフネスにどのような影響を与えたのかを探った興味深い研究です。
それでは、早速見ていきましょう!
■今回の論文
タイトル:A Case Study of Strengths-Based Coaching of Mental Toughness in Cricket(クリケットにおけるメンタルタフネスに対する強みベースのコーチングのケーススタディ)
掲載誌と出版年:International Journal of Sport Psychology 2016年
著者:Sandy Gordon¹, David R. Anthony¹, and Daniel F. Gucciardi
所属機関:¹School of Sport Science, Exercise, & Health, The University of Western Australia,²School of Physiotherapy and Exercise Science, Curtin University
■概要(Abstract)
本ケーススタディの目的は、エリートクリケット選手に対する個別化された強みベースのコーチングの有効性を、2名の対照参加者と比較して検証することにありました。
コーチングは、クリケットシーズン開始時に1か月間・全4回のセッションとして実施しました。メンタルタフネスを自己・コーチ・チームメイトの多角的評価で測定し、ベースライン、介入時、シーズン終了後にデータを取得しました。
結果、実験参加者(ジョン)では全般的なメンタルタフネスの改善が見られ、特に注意制御(attentional control)と自己信念(self-belief)の向上が統計的に有意でした。
■背景と目的
⑴メンタルタフネスの重要性
エリートスポーツでは、多様なストレス要因に直面します。
メンタルタフネスは、こうしたストレスを乗り越え、高い成果を出すために不可欠な心理的資質とされています。
⑵開発可能なスキルとしてのメンタルタフネス
メンタルタフネスは「生まれ持ったもの」ではなく、「開発できる」スキルだとする研究も増えています。しかし、スポーツ心理学者が正式なプログラムを通じてそれを育成できるという経験的証拠はまだ少ないのが現状です。
⑶強みベースのコーチングの意義
ポジティブ心理学の広がりとともに、「弱みを補う」ではなく**「強みを活かす」**アプローチが注目されるようになりました。
強みベースのコーチングは、選手が自らの資質を最大限に発揮し、目標達成を促すための心理的支援方法です。
■方法(Methods)
参加者
実験参加者(ジョン):18歳のトップオーダー打者兼オールラウンダー。
プロ2年目で、自ら希望して参加。
対照参加者(デーン・トリスタン):年齢やポジションでジョンと類似した2名。
研究デザイン
単一対象者(A-B)デザイン。
ベースライン(A)2回測定後、4回の強みベースコーチング(B)を導入。
コーチング内容
全チーム23名にCAPP Realise2モデルを紹介した後、ジョンに対してAppreciative Inquiry Coaching(AIC)を実施。
彼の目標は「自己信念と注意制御の向上」。
1回45〜75分のセッションを4回実施。
測定と分析
使用尺度:Cricket Mental Toughness Inventory(CMTI)
評価者:本人・コーチ・チームメイト
分析方法:**視覚分析+信頼できる変化指数(RCI)を算出
■結果
・対照群
デーンとトリスタンでは、メンタルタフネスに顕著な変化は見られず、全期間を通じて安定していました。
・実験参加者(ジョン)
ジョンでは、自己信念と注意制御のスコアが著しく上昇。
自己・コーチ・チームメイトの評価いずれにおいても改善が確認されました。
コーチ報告では「感情知性」「自己信念」「注意制御」に、ピア報告では「注意制御」と「自己信念」に有意な変化が見られました。
・社会的妥当性データ
ジョンはインタビューで次のように語っています。
「結果は私ではない。スキルを失ったのではなく、スキルに対する自信を失っただけだ。」
彼は「失敗」時に例外(うまくいった点)を探すようになり、自己疑念ではなくタスクに集中できるようになったと述べています。
また、自己会話の質が改善し、自信を保ち続けられるようになったとのことでした。
■考察(Discussion)
強みベースのアプローチは、メンタルタフネスの向上に寄与しうるという予備的な証拠を示しました。特に「注意制御」と「自己信念」という目標領域で顕著な効果が確認されています。
理論的には「社会認知理論(Social-cognitive theory)」に基づき、自己効力感を高める「熟練経験(past mastery)」が主要なメカニズムとして機能していたと考えられます。
ジョンは、自身の強みを意識化することで思考と感情のコントロールを取り戻し、弱点ではなく「例外」に目を向ける再解釈の力を得たと言えます。
■まとめ
一人のケースこの研究は「強みに焦点を当てることで、スポーツ選手の心理的な耐性を高められる」という可能性を示している論文です。スポーツ分野✕強みのアプローチというのも新しいものだと感じました。
もちろん、限界として、単一参加者のケーススタディのため一般化可能性が限定的である、ベースライン測定が2回のみで推奨基準を満たしていない、強み使用の定量的測定がなく、強み活用の増加を確認できないなどはありますが、それでも内容として興味深いものではありました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:112km
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