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令和7年10月14日(第4230号)
「直感を信じてよいとき」を見極める2つの条件 ー論文レビュー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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※このメールは、メールマガジンにご登録頂いた方、名刺交換をさせていただいた方、研修にご参加頂いた方に配信をしております。
ご不要の場合は大変お手数ですが、メール下部の「配信停止はこちら」より解除くださいますようお願い申し上げます。
(本日のお話 2954字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、部屋の片付け&模様替えと、また書籍の執筆でした。
不要になったもの(使い方がよくわからないコード類とか⋯)を処分したり、
使わないものを整理して棚をなくすだけでも、気分がスッキリするなあと感じた次第。
結局、棚を増やすと、その分煩雑になるだけなので、収納場所はある程度絞ったほうが良いなと感じたのでした。
その他、夜は3kmのランニングでした。
*
さて、本日のお話です。
本日は「直感」に関する論文のご紹介です。
今回取り上げるのは、ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマン博士と、自然主義的意思決定(NDM)の第一人者ゲイリー・クライン博士が共同執筆した論文です。テーマは「専門家の直感が信頼できるのは、どのような条件の下か?」というもの。3600を超える引用数で、注目されている論文の一つと言えそうです。
直感は時に驚くほど正確ですが、時に致命的な誤りをもたらすことがあります。本論文では、そうした“直感の二面性”を整理し、どのような環境で直感が機能し、どのような状況で誤りや過信を生むのかを明らかにしました。
カーネマン博士の「ヒューリスティクスとバイアス(HB)」アプローチと、クライン博士の「自然主義的意思決定(NDM)」アプローチという、これまで対立していた2つの立場が、最終的に驚くほど多くの点で一致したという点も、本研究のポイントです。(言葉はあまり聞き慣れませんが)
ということで、内容を詳しく見ていきたいと思います。それでは、どうぞ!
■今回の論文
タイトル:Conditions for Intuitive Expertise: A Failure to Disagree
(直感的専門知識の条件:意見の不一致の失敗)
著者:Daniel Kahneman / Gary Klein
ジャーナル:American Psychologist, Vol. 64, No. 6, 515–526 (2009)
所属:Princeton University / Applied Research Associates
■30秒でわかる要約
・直感的判断の質を左右するのは、「判断が行われる環境の予測可能性」と「その規則性を学ぶ機会」の2つです。
・著者らは、直感を“誤りやバイアスの源”とみなす立場(HB)=カーネマンと、“熟練の知の集積”とみなす立場(NDM)=クライン博士の立場を統合し、直感が信頼できるのは「高い環境妥当性」と「十分な学習機会」がある場合に限られると結論づけました。
・また、人は自分の直感の正確さを過大評価しやすく、「主観的な自信は判断の信頼性を示す指標にならない」ことも強調されています。
■研究の概要
◎研究目的と背景
本研究の目的は、
⑴.直感と専門知識に関する2つの立場の証拠を比較すること
⑵.直感的スキルと過信・錯覚を分ける境界条件を明確化すること
にありました。
その中でこの論文は、直感的な判断や意思決定に関する、それまで対立していると見なされていた2つの主要なアプローチを比較し、共通点を見出そうとしたものです。
以下の2つの立場はこのようなものでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・カーネマン: 「ヒューリスティックスとバイアス(Heuristics and Biases, H&B)」研究の代表者として、人間が持つ認知バイアスや、直感が失敗する状況を重視。
・クライン: 「自然主義的意志決定(Naturalistic Decision Making, NDM)」研究の代表者として、消防士などの熟練者が行う専門的な直感の力を重視。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■方法
形式としては、実験ではなく「理論的レビュー」です。
二人は当初、対立的な立場から議論を始めましたが、最終的には「どのような条件で直感が信頼に足るか」という共通点を見出していきます。
NDMとHBという2つの知的伝統の起源・対比を整理し、熟練した直感がどのように発展するか、またその判断の質を高める方法を2人の研究者の観点から論じています。
■主な結果
(1)両者の一致点
共通認識は「直感的判断の精度は環境条件に依存する」という点です。
これは、予想に反して、多くの点で合意が得られる内容でした。
(2)直感的スキル発達の2条件(★重要)
・条件1:環境の妥当性:状況に対し有効な手掛かりが高頻度で得られること。
・条件2: 学習機会:その手掛かりを十分に学習できる機会があること(明確なフィードバックが重要)。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(3)主観的自信の信頼性は低い
人は自分の直感がどのように形成されたかを理解していないことが多く、自信の強さは正確さの指標にはならない。
(4)専門知識の細分化(Fractionated Expertise)
専門家は、一部のタスクでは優れた直感を示すが、他のタスクでは誤る。
これは、正確なフィードバックが得られる領域と、そうでない領域が混在するためでした。
■結論:研究からわかったこと
・信頼できる直感は「予測可能性が高く、規則性を学習できる環境」で育つ。
・反対に、「予測不能で不規則な環境では、直感は誤りや過信のもと」となる。
■まとめ:直感を信じてよいとき、だめなとき
さて、ダニエル・カーネマンの代表作に『ファスト&スロー:あなたの意思決定はどのように決まるか?』があり、人の思考はシステム1(速い思考:Fast Thinking)とシステム2(遅い思考:Slow Thinking)の2つがあると述べます。そして、今回の「直感」は「システム1」にあたります。
そう考えた時に、システム1とシステム2の使い分けを、次のようにまとめることができそうです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<直感を信じてよいとき>(システム1を使う)
・環境の予測可能性(Predictability of the environment): 環境に規則性があり、予測が可能であるとき(例:チェス、消防)。
・学習の機会(Opportunity to learn): 規則性を学習するための十分な経験と迅速かつ明確なフィードバックがあるとき。
<直感を信じてはいけないとき>(システム2を使う)
・上記の条件が満たされない、つまり環境が複雑で予測不可能であったり、フィードバックが不十分であったりする状況のとき。
・批判的思考力による意図的な分析と検証が必要になる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■個人的な感想
全然関係ない話ですが、大学時代に麻雀にハマっていました。
そのときに、「これはきっといける!」と直感を頼って勝負しまくっていましたが、案の定、毎回ボロ負けでした(汗)。
それは、私が「麻雀」というゲームに対して不勉強であり、まさに「環境の予測可能性」や「学習の機会」(ある程度、捨牌などで規則性はあるはず)を無視して行っていたからではないかとふと思いました。
一方、研修講師やファシリテーターとして経験を重ねる中で「なんとなく良い流れだな」「この問いを今投げよう」という“直感”が働く瞬間がありますが、そのときはうまくハマるときが以前より増えている気がします。
おそらくそれは「勘」というよりも、「観察やフィードバックの経験」を経て形成されたものなのだと、この論文を読んで実感した次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。よろしければぜひご覧ください。
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さて、本日のお話です。
本日は「直感」に関する論文のご紹介です。
今回取り上げるのは、ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマン博士と、自然主義的意思決定(NDM)の第一人者ゲイリー・クライン博士が共同執筆した論文です。テーマは「専門家の直感が信頼できるのは、どのような条件の下か?」というもの。3600を超える引用数で、注目されている論文の一つと言えそうです。
直感は時に驚くほど正確ですが、時に致命的な誤りをもたらすことがあります。本論文では、そうした“直感の二面性”を整理し、どのような環境で直感が機能し、どのような状況で誤りや過信を生むのかを明らかにしました。
カーネマン博士の「ヒューリスティクスとバイアス(HB)」アプローチと、クライン博士の「自然主義的意思決定(NDM)」アプローチという、これまで対立していた2つの立場が、最終的に驚くほど多くの点で一致したという点も、本研究のポイントです。(言葉はあまり聞き慣れませんが)
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■今回の論文
タイトル:Conditions for Intuitive Expertise: A Failure to Disagree
(直感的専門知識の条件:意見の不一致の失敗)
著者:Daniel Kahneman / Gary Klein
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所属:Princeton University / Applied Research Associates
■30秒でわかる要約
・直感的判断の質を左右するのは、「判断が行われる環境の予測可能性」と「その規則性を学ぶ機会」の2つです。
・著者らは、直感を“誤りやバイアスの源”とみなす立場(HB)=カーネマンと、“熟練の知の集積”とみなす立場(NDM)=クライン博士の立場を統合し、直感が信頼できるのは「高い環境妥当性」と「十分な学習機会」がある場合に限られると結論づけました。
・また、人は自分の直感の正確さを過大評価しやすく、「主観的な自信は判断の信頼性を示す指標にならない」ことも強調されています。
■研究の概要
◎研究目的と背景
本研究の目的は、
⑴.直感と専門知識に関する2つの立場の証拠を比較すること
⑵.直感的スキルと過信・錯覚を分ける境界条件を明確化すること
にありました。
その中でこの論文は、直感的な判断や意思決定に関する、それまで対立していると見なされていた2つの主要なアプローチを比較し、共通点を見出そうとしたものです。
以下の2つの立場はこのようなものでした。
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・カーネマン: 「ヒューリスティックスとバイアス(Heuristics and Biases, H&B)」研究の代表者として、人間が持つ認知バイアスや、直感が失敗する状況を重視。
・クライン: 「自然主義的意志決定(Naturalistic Decision Making, NDM)」研究の代表者として、消防士などの熟練者が行う専門的な直感の力を重視。
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■方法
形式としては、実験ではなく「理論的レビュー」です。
二人は当初、対立的な立場から議論を始めましたが、最終的には「どのような条件で直感が信頼に足るか」という共通点を見出していきます。
NDMとHBという2つの知的伝統の起源・対比を整理し、熟練した直感がどのように発展するか、またその判断の質を高める方法を2人の研究者の観点から論じています。
■主な結果
(1)両者の一致点
共通認識は「直感的判断の精度は環境条件に依存する」という点です。
これは、予想に反して、多くの点で合意が得られる内容でした。
(2)直感的スキル発達の2条件(★重要)
・条件1:環境の妥当性:状況に対し有効な手掛かりが高頻度で得られること。
・条件2: 学習機会:その手掛かりを十分に学習できる機会があること(明確なフィードバックが重要)。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(3)主観的自信の信頼性は低い
人は自分の直感がどのように形成されたかを理解していないことが多く、自信の強さは正確さの指標にはならない。
(4)専門知識の細分化(Fractionated Expertise)
専門家は、一部のタスクでは優れた直感を示すが、他のタスクでは誤る。
これは、正確なフィードバックが得られる領域と、そうでない領域が混在するためでした。
■結論:研究からわかったこと
・信頼できる直感は「予測可能性が高く、規則性を学習できる環境」で育つ。
・反対に、「予測不能で不規則な環境では、直感は誤りや過信のもと」となる。
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