配信日時 2025/10/12 17:05

今週の一冊『正欲』【カレッジサプリ】

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令和7年10月12日(第4248号)


今週の一冊『正欲』


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話  2565字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

毎週日曜日は、私が最近読んだ本の中から、
おすすめの一冊をご紹介させていただく「今週の一冊」のコーナーです。

今週の一冊はこちらです。

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『正欲』(新潮文庫)

朝井リョウ(著)
https://amzn.asia/d/gK1r5U6
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朝井リョウさんのエッセイを以前拝読したことがありますが、その面白さに、一気に惹き込まれてしまいました(『そして誰もゆとらなくなった』という本です)

朝井さんといえば、『桐島、部活やめるってよ』や『何者』など、映画化された作品でも、目には見えづらいけれど確かにそこに存在しているヒエラルキーや、それに対する葛藤を秀逸に描く作家さんという印象です。その視点の鋭さに一度触れただけで、ずっと記憶に残る強烈さがあります。
…ということで、なんだか小説を読みたい気分になった日に、この一冊を手に取ってみたのですが、この本もまた期待を裏切らない、まるで舌に残るような、深く考えさせられる小説でした。
ネタバレにならない程度に、その魅力をお伝えしていきたいと思います。

それでは、どうぞ!



■本書のあらすじ:"普通"と"欲望"のはざまで揺れるもの

まず、簡単に本書のあらすじを、ネタバレがない程度にお伝えしたいと思います。
(それでも、若干どんな話か類推できてしまうかもしれないので、読む予定の方はこの章をお読み飛ばしください)

『正欲』は、現代社会を舞台に、「性」「欲望」「他者との関係」「多様性」といったテーマを深く掘り下げた群像小説です。
物語には複数の視点を持つ登場人物が登場し、それぞれが抱える秘密や葛藤を通じて、”普通とされる価値観とズレる「性への欲望」”を題材に、それを理解してもらえない葛藤、正しさの押し付け合いなど、社会的なテーマに至るまで浮かび上がらせるストーリーです。

小説の概要について、Amazonサイトより引用させていただきます。

(ここから)
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生き延びるために
本当に大切なものとは、何なのだろう。
小説家としても一人の人間と しても、
明らかに大きな ターニングポイントとなる作品です。
――朝井リョウ

「自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、 そりゃ気持ちいいよな。」

息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。

だがその繋がりは、”多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。

「この世界で生きていくために、手を組みませんか。」

読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。(解説・東畑開人)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)



■読むと「立ち止まらせられる」本である


「性欲」という、もっともあからさまにしづらいテーマにした本。
特に、マイノリティな性欲を持つことに対して、後ろめたさと、社会や他者から認定されているであろう「正欲」を持つべきだという願う気持ちを、社会的な人は思います。

しかし、「性欲」は衝動であり、それを完全にコントロールするのは難しい。それで他者を傷つけてはならないけれど、傷つけないけれどマイノリティを持つ人が、その希少性を伝えてもわかってもらえないという「この世界への諦め」がある。
「性欲」という根源的なものを否定されるということは、「この世界」をいきづらいものにしてしまう。それでもなお、わかってもらいたいとか、繋がりたいという欲求を持って、人は葛藤する…。

▽▽▽

あるいは「人のことを理解した気になる」ことの浅はかさ。
たとえば、あるニュースを見て「これは良い」「これは悪い」と勝手に解釈する場面が多く見受けられます。(特にSNSはよくある気がします)

しかし、本人の真意はどこまでいってもわかりません。ゆえに、誰かのフィルターや、社会的な正しさのフィルターで一方的に判断を下されてしまいます。そこに残るモヤットした感じ。
しかし、本当のことはわからないから、他者を巻き込んだ事象の場合、状況証拠や法で判断するしかない…。
それが混ざり合った、この社会という構造の難しさも考えさせられます。

さらには、多く人が「自分は正常なほうの人で、正常じゃない人たちがいる」と思ってはいまいか、という問いも、私たちに投げかけられているように思いました。
まさに、本編にある「自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、 そりゃ気持ちいいよな。」という言葉が残ります。

▽▽▽

率直にいえば、「何が一番残ったかというと、言葉にしづらい」のです。
ただ、一つ言えるのは「前提としての世界の見方や考え方を揺さぶれた」ということ。

「社会」「正しさ」「つながり」「葛藤」などのキーワードが頭の中で行ったり来たりした作品で、哲学的な観点から捉えると、非常に多様な見方ができるのだろう思います。



■東畑さんの「解説」の切れ味に震える

ちなみに、個人的にふるえたのが、臨床心理士である心理学者の東畑開人さんのあとがき(解説)でした。

東畑さんは『居るのはつらいよ――ケアとセラピーについての覚書』など、人のこころを専門性だけでなく、親しみやすいユーモアな語り口で届けてくれる方です。
その方が、この作品について巻末で解説をしているパートがあるのですが、読者が読んで感じているものの、言葉にできない感覚を、秀逸に説明してくれています。
本書を読まないと、なんのことやらと思いますが、一部紹介させていただきます。(ネタバレにも触れてしまうので、気になる方はお読み飛ばしください)

(ここから)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

性欲と正欲は仲の悪い双子である。性欲が芽生えると同時に正欲は生じる。精神分析家フロイトはそう考えた。

フロイトにとって、性欲は桐生夏月たちが愛した水みたいなものだ。「リビドー」と呼ばれるこの生物学的な本能は、蛇口から無秩序に噴射し、変幻自在に形を変える。性欲にはどこにだって向かっていけるような根源的自由がある。

(中略)

(ある登場人物について)彼らは自分が正しく生きていることを疑わないし、社会は正しくあるべきだと固く信じている。他者の正しさには見向きもしない。これが正欲だ。私たちは社会の声を内面化し、自分の声にする。社会が命令していたことを、いつの間にか私たち自身が欲望するようになるのである。

性欲あるところに、正欲あり。

フロイトはこれらを「エス」と「超自我」と呼び、この二つの力が押し合いへし合いしながら私たちの心が営まれていると考えた。

私たちは動物でもあるし、人間でもある。この矛盾を抱え込むところに、性欲と正欲の双子が現れるということだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)

切れ味の良い言葉で、その深みを失わずに、この小説の魅力を言葉にできるのか、と震えました。
本編も素晴らしかったですが、かつて読んだどの「解説」よりも素晴らしかったです。

…ということで、ご興味がある方はぜひ読んでみてください。
映画化もされているようですが、「読む前の自分に戻れない」と東畑さんも言われるような、インパクトある一冊です。おすすめです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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 【編集後記】
◯今月のランニング:92km

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