配信日時 2025/06/06 08:22

なぜ私たちはストレスを感じるのか? -ストレスの原因と対処法を「資源保存理論」から読み解くー【カレッジサプリ】

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令和7年6月6日(第4120号)


なぜ私たちはストレスを感じるのか?
-ストレスの原因と対処法を「資源保存理論」から読み解くー


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3045字/読了時間4分)

■こんにちは、紀藤です。本日は、論文のご紹介です。

テーマは「ストレスへ対処するための理論」です。

ストレスと聞くと、仕事のプレッシャー、人間関係疲れ等々、私たちの日常に密接に関わるテーマであり、ストレス対処策も、今では日常の一コマになっている感もあります。

今回取り上げる、1989年に発表されたStevan E. Hobfollの論文は、そんな曖昧なストレスの概念に明確な構造を与え、またストレスに対処するための資源として「資源保存理論(Conservation of Resources:COR理論)」なるものを提唱しました。(1989年のこの頃「ストレス」という言葉が注目されていたようです)

ここから「資源保存理論」の研究の歴史の第一歩がはじまったという原点のような論文であり、興味深いものでした。

人は自分にとって価値ある“資源”を守ろうとする存在であり、それを失ったとき、あるいは失いそうなときにストレスを感じるという、シンプルで力強いメッセージを感じます。

では、具体的にどんな内容だったのか。詳しく見ていきましょう!


■今回の論文

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タイトル:Conservation of Resources: A New Attempt at Conceptualizing Stress(資源保存理論:ストレス概念化への新たな試み)
著者:Stevan E. Hobfoll
ジャーナル:American Psychologist、1989年3月発行
所属:ケント州立大学(Kent State University)
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■30秒でわかる要約

従来のストレス研究は理論的明確性に乏しく、主観的・曖昧な枠組みが支配的であったことを批判します。

著者は「資源保存理論(Conservation of Resources, COR)」を新たなモデルとして提示し、本モデルでは、人は価値ある「資源」を保持・保護・構築しようと努め、これらの資源の喪失、喪失の脅威、あるいは資源投資に対する見返りの欠如がストレスを引き起こすとしました。

理論は包括的かつ検証可能であり、今後のストレス研究の指針となることが期待できる、と述べました。

■研究の概要

◎研究目的/背景
1980年代の心理学において、ストレスは精神的健康や身体疾患に密接に関係するとされ、一般社会やマスメディアからも大きな注目を集めていました。
しかしながら、Kaplan (1983), Lazarus & Folkman (1984)らが指摘したように、理論的な枠組みの欠如は重大な問題であり、現行モデルが観察的段階にとどまり、実証的蓄積の礎とはなっていませんでした。
従来の理論ではストレスの定義が曖昧で、構成概念としての堅牢性を欠いていたため、この点を補完する新たな理論体系の構築を目指しました。

◎方法
理論提案型の論文であり、実証データではなく、過去のストレス理論の批判的検討と、資源保存理論の構成要素を体系的に提示する形式で執筆されています。

■結論:研究からわかったこと

◎資源保存理論(CORモデル)の中核

人間は以下の4つの「資源」を大切にし、失うことを強く恐れます。
具体的には以下の内容です。
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<人間が持つ「4つの資源」>
1.物的資源:家、車、服、貴金属など
2.条件的資源:雇用、婚姻関係、役職など
3.個人的特性:自尊心、熟達感、楽観性など
4.エネルギー資源:時間、金銭、知識など(他の資源を得るための手段)
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◎ストレスが生じる原因

次に、ストレスについてですが、以下のいずれかで生じると述べました。

・資源の喪失
・喪失の脅威
・資源投資に対する見返りの欠如

特に「喪失」がストレスの根本原因であるという点が重要で、これにより、ポジティブな出来事ですら“何かを失った”と感じることでストレスになり得るという新たな視点が示されました。

Holmes & Rahe(1967)らのストレスイベント調査でも、強いストレスを引き起こす出来事は多くが資源の喪失(例:配偶者の死、離婚、失業など)に関係していました。逆にポジティブイベントや中立的変化(卒業など)がストレスとなるのは、それが「何かを失った」と感じられたとのこと。


◎ストレス下での行動

また、COR理論は、環境刺激と主観的評価の両方を橋渡しする「資源」という概念を通じて、「ストレス」を包括的に説明できるようにしました。

人はストレス下で、以下のような行動傾向があると述べます。

・ストレス時:資源の純損失を最小限に抑えようとする。
・非ストレス時:将来の喪失に備えた資源の蓄積を目指す。


◎リソースの交換と代替

資源は直接的・間接的に代替されるうるものです。
(例:離婚後に再婚する、流産後に再妊娠する、自尊心が傷ついたら他の領域での成功で補償する)

リソースの使用自体もストレス要因となり得ます。特に限られた資源しか持たない個人は、ストレス下で効果的でない資源投資(例:依存的支援の要求)を行い、逆に損失を拡大させる可能性があるとしました。

◎資源を増やしたいという期待

人は単に損失を防ぐだけでなく、リソースの増大を目指して行動します
(e.g., 結婚における愛情の投資と回収、経済的投資)。

しかし、資源投資が見返りを生まないと、それ自体が損失体験となるとのこと。
(Schönpflug(1985)は、投資に費やした時間・労力が結果に影響することを示した)

◎資源の再評価と認知的再構成

人はストレス回避のために、喪失された資源の価値を意図的に下げることがあります
(例:失恋後に相手の価値を貶める)。

しかし、根源的な価値観に反する場合、こうした再評価はかえって不安や無力感を引き起こすとされ、Kaplan (1983), May (1980) らもこの問題を指摘しました。


■実践に活かすヒント

職場:業務量の負荷よりも、「努力に見合った報酬や評価」が得られないことがストレスになる。

教育現場:学習成果や努力が認められない経験が、意欲の喪失(リソース損失)につながる。

家庭:夫婦関係や家族構造の変化(退職、離婚、喪失)は、条件的資源の変化として大きな影響を及ぼす。


■まとめと感想:人は”失う”ことがストレス

この論文を読んで印象的だったのは、「ストレスは我慢の限界ではなく、“失ってしまった感覚”から始まる」という視点です。

私たちは日々、お金、時間、人間関係など、多くの資源をやりくりしながら生きていますが、それらがうまく循環せず、減っていく感覚こそが、ストレスを生んでいるようです。

保険営業をやっている知人が、「お客さんで、資産が10億ある人が、株価が下がって資産5億になったことを嘆いていた。自分はなんて不幸なんだといっていた」なんて話をしてくれましたが、まさに”減ること”によるストレスだな、と思うのでした。

逆に言えば、「減ったこと」ではなく「自分にはまだこれだけの資源がある」と視点を移すことで、ストレスを軽減させることにつながるのかもしれません。

そして「自分が大切にしている資源」「失ってつらかった資源」「これから育てたい資源」を可視化してみるのも、ストレスの対処策として有効かもしれません。ストレスを語るとき、「資源」という切り口はとても現実的で、実用性があると感じた論文でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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 【編集後記】
◯強み文献おかわり100本ノック:90本目
◯今月の健康&運動習慣:6月のランニング距離20km

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