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令和7年5月15日(第4097号)
「強みの介入研究」の5つの未解決問題とは?
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3715字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、午前中は大学でのリーダーシップの授業、
午後からは3件のアポイントでした。
ウルトラマラソンまであと4日。
体重をなんとかあと1.5kgほど落としたいのですが、
お腹がすいて、色々食べてしまいます(汗)
当日少しでも荷物を減らすため、頑張りたいと思います。
*
さて、本日のお話です。
本日は「強みの論文」のご紹介です。
今回の論文は、2020年に発表されたもので、「性格の強みの介入」に関する未解決の問題を包括的に整理した、いわば今後の研究の“羅針盤”のような論文でした。
たとえば、「シグネチャーストレングス(特徴的な強み)」に基づく介入が効果的であるという考え方は、これまでの研究で定説となってきました。
しかしながら、「本当に“特徴的な強み”に介入することが最も効果的なのか?」「それ以外の強みに介入しても効果があるのでは?」といった問いには、明確な答えが出ていませんでした。
実際、現場にいると「特徴的な強みではなくて、低い強みを伸ばしたい」という声も多いですし、実際にそこにフォーカスをして伸びた(そして幸福感も高まった)という感覚も大いにあるわけです。
そんな“もやっとした疑問”に対して、これまでの論文から丁寧に整理してくれているのが本論文です。読み進めるほどに「たしかに!」と頷ける内容でした。
ということで、中身を詳しく見てまいりましょう!
■今回の論文
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タイトル:Character strengths-based interventions: Open questions and ideas for future research(性格の強みを基盤とした介入:未解決の問題と今後の研究のための提案)
著者:Willibald Ruch / René T. Proyer
ジャーナル:The Journal of Positive Psychology、2020
所属:チューリッヒ大学 心理学部(Department of Psychology, University of Zurich, Zurich, Switzerland)
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■30秒でわかる要約
・本論文は、性格の強みに基づく介入(強み介入)が「どの強みに、どのように介入するべきか?」という未解決の問いを体系的に整理したレビュー研究です。
・これまでの研究では、特徴的な強み(Signature Strengths)への介入が効果的とされてきましたが、必ずしもそれだけではないかもしれないという視点を提示しています。
・結果、5つの視点での未解決の問題が整理されました。今後の研究や実践にとって、参考になる指針が示されました。
■研究の概要
◎研究目的/背景
性格の強み(Character Strengths)とは、思考・感情・行動に現れる肯定的な特性であり、人生の充実や幸福感と深く関係しています。
こうした強みに基づいた介入は、ポジティブ心理学の代表的な実践法として広まってきました。特に「シグネチャーストレングス(特徴的な強み)」を日常で活用する介入が有効だとされてきましたが、
「どの強みに介入すべきか?」「すべての人に同じ介入が有効なのか?」「強みそのものは変わるのか?」といった根本的な問いには、十分な答えが出ていません。
本研究は、こうした理論的・実践的な未解決問題を整理し、今後の研究と応用に向けた方向性を提案することを目的としています。
◎方法
本論文は実証研究ではなく、以下の要素を含むレビュー論文です:
・先行研究のレビュー、既存データ(例:Proyerら2015年のN=238)の再分析、理論的考察、実践枠組みの提案(例:Niemiecによる介入分類)
そして、検討された主なテーマは以下の5つです:
・介入は「汎用的(generic)」か「個別的(personalized)」か
・介入で扱うべき強みは何か
・シグネチャーストレングスの役割は何か
・強みの水準は介入で変化するのか
・科学的にどう正当化されるべきか
■主な結果
1. 汎用型 vs 個別型の介入
強み介入には、すべての人に共通の内容を与える「汎用型」と、個人の特徴的な強みに合わせる「個別型」があります。
Seligmanら(2005)は両者に有意差は見られないと報告しましたが、Proyerら(2015)は「Lesser Strengths(特徴的でない強み)」に取り組んだ方が、基礎スコアが高い場合により効果的であると指摘しました。つまり、自分が普段あまり使っていない強みにも介入の価値があるという新しい視点が提示されました。
2. 扱うべき強みの選定
「どの強みを使うか」は、介入の目的によって変えるべきと言われます。
Proyerらの分析では、介入対象の強みがウェルビーイングと強く関連しているほど効果が大きくなる傾向が見られました。幸福感を高めたいなら「希望」「感謝」「ユーモア」などが適していますし、学業では「向学心」「忍耐力」、対人関係では「愛情」「親切さ」など、目指す結果に応じて最適な”介入すべき強み”を選ぶ視点が重要です。
3. Signature Strengthsの役割と限界
これまでの多くの研究において、Signature Strengthsを使った介入はウェルビーイングの向上や抑うつの軽減に効果があるとされています。
また、Littman-Ovadiaら(2017)は、Signature Strengthsの使用が「職務パフォーマンス」「組織市民行動」「逸脱行動の抑制」に関連していると述べたり、自己の強みを日常業務で活かせている人は、仕事に対するモチベーションや倫理的行動が高まりやすいなどがわかっています。
なので「Signature Strengths信仰」のようなものも、ある意味あると感じられます。
一方で、仕事の意味づけやエンゲージメントに影響するのは、「幸福と相関の強い5つの強み(希望、感謝、愛情、好奇心、熱意)」であるという研究もあり、Signature Strengthsが必ずしもすべての場面で最適とは限らないことが示唆されています。
また、Harzerら(2017)は、個人のSignature Strengthsと職務内容との「一致度(fit)」が、職場における創造性・チームワーク・成果といったアウトカムと密接に関係することを明らかにしました。
つまり、”強み”そのものの有効性よりも、「どこで・どのように使われているか」というマッチングが大事ということです。Signature Strengths信仰は本当にそうなのか?を問う結果はいくつか出てきているようです。
4. 強みの水準は変化するのか?
「強みを使えば、性格そのものが変わるのか?」という問いは、近年注目されているトピックです。過去の研究(Dubreuil et al., 2016/Forest et al., 2012)では、Signature Strengthsの使用頻度が介入後に増加したという結果が示されました。しかし、これは“行動の変化”であり、性格特性そのものが変わったとは限りません。
一方、Ruchら(2018)は、ユーモアに関する介入(7つの習慣を学ぶプログラム)において、ユーモアの特性レベルそのものが有意に上昇したことを示しました。これは非常に珍しい例であり、「特定の強みにおいては、性格的側面の成長が起こる可能性がある」とする重要な証拠といえます。
5. 科学的正当性の担保
Niemiec(2018)は、強み介入を分類する7つの枠組みを提示し、科学的な妥当性を整理しています。対照研究、理論ベースの仮説的介入、既存介入への強みの追加など、エビデンスのレベルに応じた介入設計が重要です。このフレームは、現場実践と研究をつなぐ橋渡しにもなります。
■結論:研究からわかったこと
強み介入の効果は一つではなく、「誰に・どの強みを・どう使うか」が重要であることが改めて確認されました。また、文脈により介入すべき強みの種類も変わってくることもわかりました。
これまでの研究の、「Signature Strengthsへの依存」を見直し、アウトカム(目的)に応じた強みの選定や、文脈に合わせた介入デザインの必要性があること、今後は強みの「変化可能性」や「正当性の根拠」についても、より長期的・包括的に検証していく必要があると言えます。
■まとめと感想
今回の論文で示されたテーマの中には、「強みの介入は性格そのものを変えるのか?」あるいは「人はどんな強みを変えたいと思うのか?」という問いもありました。
この点は、その後につづく2023年、2024年に実際の研究として取り上げられており、まさに“研究のバトン”が確実に次世代に引き継がれていると感じました。
論文を読むと、ただその内容を吸収するだけになりがちですが、率直な疑問を改めて整理し、「どんな問いが未解決なのか」「どんな分析が必要か」「どうすれば正当性が担保できるか」といった点を具体的に提示することにも、重要な意味があると感じさせられる論文でした。
まさに「”問い”こそが重要である」というAI時代に求められることを教えてもらった次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◎「野辺山ウルトラマラソン100km」まで・・・あと4日
◯強み文献おかわり100本ノック:89本目
◯今月の健康&運動習慣:5月のランニング距離102km
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