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令和7年4月28日(第4080号)
「強み介入」の体系的レビュー論文を、徹底解説します
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3665字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
先日、2002年から2012年までの過去10年間に行われた「強み介入」に関するレビュー論文をご紹介しました。
この論文では、介入前後の測定と比較群を用いた研究を対象に、選ばれた8本の論文が取り上げられていました。その中では、「自分の強みを新しい方法で活かす」「伸ばしたい強みトップ10の中から3つを選ぶ」「強みと弱みを同時に伸ばす」といった、いくつかの介入方法がまとめられました。
さて、今回ご紹介する論文は、その2012年のレビュー論文で不足していた点を補うべく、改めて「強み介入を体系的に再レビューしたもの」です。
全体を通して改めて感じたのは、ポジティブ心理学がどのような系譜を辿ってきたのか、また強み介入がどのような全体像を持つのかが非常に誠実に整理されており、大変学びが深まりました。先行レビューの限界や介入の特徴についても、より丁寧にまとめられていました。
ややマニアックな内容かもしれませんが、全体像を把握する上で、非常に学びになるものでしたので、詳しく解説したいと思います。
それではまいりましょう!
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<今回の論文>
タイトル:Promoting Positive Outcomes through Strengths Interventions: A Literature Review(強みに基づく介入によるポジティブな成果の促進:文献レビュー)
著者:First Author:Sanne Theodora Sophia Ghielen、Last Author:Maria Christina Meyers
ジャーナル名:The Journal of Positive Psychology(2017年)
所属:Research Centre for Work and Organisation Studies, KU Leuven, Leuven, Belgium
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■研究目的と背景
・ポジティブ心理学では、個人の弱みを修正するよりも、強みを特定し育むほうが、成長や幸福感に有効だと考えられています。特に「強み介入(Strengths Intervention)」は、教育、職場、臨床といった様々な現場で注目を集めてきました。
・しかしながら、これまでの研究では「なぜ効果が出るのか」「どんな条件で効果が高まるのか」といったメカニズムや調整要因については、十分に解明されていませんでした。
・本研究では、これらの課題に応えるために、次の5つの視点からアプローチしています。
1. ポジティブ心理学と「強み」研究の系譜
2000年前後、セリグマン博士らの提唱によって心理学の中心が「ダメージ修復」から「強み構築」へとシフトしました。強みとは、「自然に発現し、価値ある成果を生む行動・思考・感情の能力」と定義され(Linley & Harrington, 2006)、ウェルビーイングや自己肯定感の向上に貢献することが知られています。
2. 「強み介入」とは何か
強み介入は、個人や組織が自らの強みを**特定(Identify)→活用(Use)→育成(Develop)**できるよう支援するアプローチです。代表例には、Seligmanらの「Signature Strengths in a New Way」、Robertsらの「Reflected Best Self」などがあり、介入方法は「識別のみ」「識別+使用」「識別+使用+開発」の3タイプに分類されます。
3. 先行レビューの限界
2012年のQuinlanらによるレビューでは、対象研究数が8件と少なく、またアウトカムもウェルビーイングに偏っていました。効果は認められたものの、なぜ効果が出るのか、誰に効果が出やすいのかというメカニズムや条件までは十分に明らかになっていませんでした。
4. 本レビューのミッション
Ghielenらは、2011〜2016年に発表された新しい強み介入研究を収集し、個人だけでなく職場、チーム、臨床など多様な文脈に広げながら、媒介因子・調整因子も整理し、Positive-Activity Modelに沿って体系的な統合を目指しました。
5. 理論フレーム:Positive-Activity Model
本レビューでは、Lyubomirsky & Layous(2013)のPositive-Activity Modelを軸に、介入→成果のメカニズムを整理しました。
具体的には、「ポジティブ感情」「ポジティブ思考」「ポジティブ行動」「ニーズ充足」といった媒介プロセス、そして個人要因や活動要因といった調整条件が重視されています。
■方法
そして、今回は以下の研究方法で内容をまとめていきました。
デザイン:文献レビュー
文献検索:Web of Science、Google Scholar
検索期間:2011年1月〜2016年12月
キーワード例:strengths intervention, strengths-based, strengths use など
選定基準:強みに関連する介入を扱う、英語論文、実験・準実験デザイン、プレポストテスト+対照群あり
対象文献数:18件
■本レビューの具体的リサーチクエスチョン
また本レビューにおけるリサーチクエスチョンは以下の通りです。
RQ1:2011–2016 年の強み介入は、どの領域・指標にポジティブ成果をもたらしたか?
RQ2:その効果は どの媒介因子を通じて発現しているか?
RQ3:どの調整因子が効果の大きさを左右するか?
RQ4:Positive-Activity Model の枠組みは、ウェルビーイング以外の成果にも適用可能か?
■主な結果
さて、この文献レビューの結果、以下のことがわかりました。
少し長いですが詳細をまとめます。
(1)介入の特徴
介入内容:自己の強み認識、他者からのフィードバック、強み活用の練習
実施形態:対面ワークショップ、オンライン学習、ハイブリッド型
期間:1日〜6週間程度とさまざま
(2) 成果(Outcomes)
◯研究分布(全体の俯瞰)
レビューに含まれた18件の研究は、一般成人対象が5件、教育領域が5件、職場領域が6件、臨床領域が2件でした。オンラインと対面の実施比率はほぼ半々であり、介入期間は1週間〜4週間程度の短期プロトコルが中心でした。
◯ウェルビーイング系(13研究)
・幸福感・人生満足度の向上(効果量 d ≈ 0.20〜0.40)
・抑うつ症状の軽減(6研究で有意効果。ただし軽度抑うつ対象では効果小)
◯仕事関連アウトカム(6研究)
・ワーク・エンゲージメント、仕事満足度の向上
・顧客満足の上昇、創造的問題解決能力の向上
・離職意思の低下
◯個人発達系アウトカム(2研究)
・自己成長への主体的取り組み(Personal Growth Initiative)の向上
・心理的資本(Hope、Resilience)の増加
◯グループ/チーム成果(2研究)
・クラス結束の向上・摩擦の低下(小学生対象)
・チーム内情報共有の促進(Unique Cuesの共有が増加)
(3) 媒介因子(Mechanisms)
◯全体の俯瞰
強み介入がポジティブな成果をもたらす背景には、ポジティブ感情や希望感の向上、自己表現の促進といった心理的なプロセスが関与していることが確認されました。
◯主要な媒介プロセス
・ポジティブ感情の増加(幸福感・エンゲージメントを媒介)
・希望感(Positive Thoughts)の向上(自己成長意欲を促進)
・自己表現(Authentic Self-Expression)の促進
・社会的価値感(Social Worth)の高まり
・雇用関係へのポジティブ認知(Perceived Employment Relationship)
※特に「ポジティブ感情経路」が、効果発現の主要メカニズムとして一貫して見られました。
(4) 調整因子(Moderators)
◯全体の俯瞰
誰に、どんな条件で強み介入がより効果を発揮するかを探るため、個人特性と活動特性の両面から調整因子が整理されました。
◯主要な調整因子
*個人特性(Person Features)
・Persistence(粘り強さ)が高いと効果大
・自己制御力が低いと効果が小
・外向性が高い人は抑うつ軽減効果が大きい
*強みプロファイル
・強み保有数が少ない/平均傾向と異なる人ほど効果が出やすい
*活動特性(Activity Features)
・他者フィードバック型(Social RBS)の方が効果的
・オンラインと対面で効果差はほぼなし(オンラインは離脱リスク高)
・目的を明示した介入は短期効果を高める
■結論:研究からわかったこと
強み介入は、ポジティブ感情や自己表現を促進し、人間の基本的な心理的ニーズ(自律性・有能感・関係性)を満たすことで、長期的なウェルビーイング向上に貢献することが明らかになりました。
特に、単なる自己内省ではなく、他者フィードバックや成長マインドセットを取り入れる工夫が効果をより高める鍵であると示されました。
■実践に活かすヒント
・教育・職場でのプログラムに:オンラインでも可能な強みフィードバック設計を活用する
・介入デザインで:個人ワーク+他者フィードバックを組み合わせる
・指導・支援現場で:「強みは伸ばせる」というメッセージを意識して届ける
■応用イメージ・リミテーション・今後の課題
◯応用可能性
・教育・ビジネス・福祉領域に幅広く展開でき、オンライン展開にも向いている。
◯リミテーション
・興味層の偏り(選択バイアス)
・ポジティブな結果のみが公表されがち(出版バイアス)
・長期的効果を測る研究が不足している
■まとめと感想
改めて、ポジティブ感情が増加することによって、さまざまなポジティブな効果が生まれるという「ポジティブ感情の拡大・構築理論」が、大きく影響していることを理解しました。
そのほかにも、調整要因として、個人特性である「粘り強さ(Persistence)」や「自己制御力(Self-Regulation)」、「外向性(Extraversion)」などが、どのように関わっているかが詳しく示されており、また、他者フィードバックや、オンラインと対面での効果差といった細かい部分にまで踏み込まれていたのが興味深い点でした。
さらに、「自分自身はあまり強みを持っていない」と感じている人ほど介入効果が高い、という傾向も、他の研究結果と重なる部分があり、改めて知識が整理された感覚があります。
一方で、こうした研究にはやはりバイアスの影響があること、長期的な効果を見出すことが難しいこと、そして効果量も小規模〜中規模程度にとどまるケースが多いことなど、まだまだ探究の余地が多く残されているとも感じました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◎「ラ・カンパネラ」ピアノ発表会まで・・・あと1日
◎「野辺山ウルトラマラソン100km」まで・・・あと19日
◯強み文献おかわり100本ノック:84本目
◯今月の健康&運動習慣:4月のランニング距離145km
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