配信日時 2024/09/28 19:47

ジョブ・クラフティングの「メタ理論」とは? ~読書レビュー『ジョブ・クラフティング』#3~【カレッジサプリ】

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令和6年9月28日(第3869号)


ジョブ・クラフティングの「メタ理論」とは? 
~読書レビュー『ジョブ・クラフティング』#3~


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 4056文字/読了時間6分)


■こんにちは。紀藤です。

昨日金曜日は、久しぶりにアポイントや研修などがない1日でした。
事務作業などをまとめたりなど、溜まっていたことが終わらせられて、大変スッキリしました。
ここから少しの期間は落ち着きそうなので、「強み」のプログラムの開発も、もっと深ぼっていきたいと思います。



さて、本日のお話です。

ジョブ・クラフティングの初の研究書『ジョブ・クラフティング』について、本日も読書レビューをお届けいたします。

本日は「第3章 ジョブ・クラフティングの認知次元と構成主義」からの学びです。読み進める中で、「存在論と認識論のほにゃららが・・・」という哲学用語が登場してきて、若干ビビりつつも読み進めたところ、超面白い章でした・・・! それでは早速まいりましょう。

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<目次>
2つのジョブ・クラフティング
ジョブ・クラフティングの「メタ理論」とは
研究におけるパラダイム論争の話
「構成主義」には2つある
役割クラフティングの「メタ理論」についての結論
「仕事の意味づけ」の3つの観点
まとめと個人的感想
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■2つのジョブ・クラフティング

まず、これまでのおさらい的な話になりますが、ジョブ・クラフティングには、2つの代表的なモデルがあるとお伝えしました。

それが、Wrzensniewski&Dutton(2001)の3次元モデルと、JD-Rモデルを軸にしたTimes&Bakker(2010)らの4次元モデルでした。(この内容については、#1の記事をご参照ください)

そして、この2つのジョブ・クラフティングは、前者が「役割クラフティング」、後者が「資源クラフティング」というアプローチになります。
まとめると、以下のようになります。

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<Wrzensniewski&Dutton(2001)のモデル>
●アプローチ:役割クラフティング(role crafting)
●特徴:タスク・関係性・認知の3次元
●内容:職務における個人の動機に注目している。具体的には、職務において個人が何を行い(タスクJC)、何を重視し(認知JC)、誰と関わるか(関係JC)、という”役割の改善”によってやりがいを高めるという観点である。

<Times&Bakker(2010)のモデル>
●アプローチ:資源クラフティング(resource crafting)
●特徴:仕事の要求度と資源の管理に注目した4次元
●内容:仕事の資源と仕事の要求度を整合させることで、健康的に働くインセンティブを持つこと。具体的には、個人が仕事の資源を獲得し活用することで、”仕事の要求度を低減させ、人との仕事の適合度(person-job fit)を増加させる”ことである。
P52-53
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さて、ポイントはW&D(2001)の「役割クラフティング」が、他者からみて分かりづらいという難点があったことです。主に関係性JC、認知JCは、やっているかどうか本人しかわからないものでした。

そこで、Times&Bakker(2010)の「資源クラフティング」は、”タスクJC”について特に注目し、これらを”客観的に測定可能な尺度として、4次元を開発しました。そこからジョブ・クラフティング研究が発展していきました。

後ほど出てきますが、資源クラフティングは「実証主義」となります。これは説明力が高いため、研究の発展に寄与できたと考えられます。



■ジョブ・クラフティングの「メタ理論」とは

さて、ここからいよいよ第3章の本題です。

この章では、「役割クラフティング」と「資源クラフティング」はそもそも、依って立つ「メタ理論(存在論と認識論)」が違っている、ということを論じていきます。

結論は「役割クラフティング=構成主義」「資源クラフティング=実証主義」です。

さて、この背景には,より深い世界があるのですが、そんな哲学的な前提を解き明かしていくのが本章です。
 前提の考えから丁寧に紐解いた上で、ジョブ・クラフティングが影響を与えるという「仕事の有意味性」を考えてみようじゃないか、という試みの章となります。


◯研究におけるパラダイム論争の話

まず、研究におけるパラダイム(ものの見方)には、依って立つ哲学的前提が異なることが、度々議論されてきたと述べられています。

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研究パラダイムにおける「実証主義」とは、存在論としては研究者とは独立した客観的な現実(以下、リアリティ)が存在し、認識論としては研究者とは独立した研究対象を客観的に認識することを意味する。

他方、「構成主義」とは、存在論としてはリアリティとは独立して存在するものではなく社会において構成されるものと考え、認識論としては研究者と研究対象は総合に影響を与え合うものとみなす(抱井, 2015)
P56-57
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

私なりに平たく解釈すると、「実証主義」は「客観的に現実があり、それを観察可能できる」という立場。なので、わかりやすく尺度なども作りやすい。ある意味数学的で、化学・物理学など自然科学に近いことなのかな、と思います。
 一方「構成主義」は、「現実は社会で構成され(客観的な現実はない)、観察も観察する側・される側で影響を与え合う」という立場。よって、意味は文脈に依存し、主観も多分に含むため、ややわかりづらい。

どんなときも、客観的な現実が存在するという立場は、ある事象を説明する上で説明力を有し、再現性もあると考えられます。ゆえに「研究対象として発展しやすい」というのはわかる気がします。


◯「構成主義」には2つある

さて、ここで複雑なのが、「構成主義」にも2つの種類があるというお話です。端的にいうと、こういうことだそうです。

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・リアリティは「個人の心」によって構成される→ 「心理的構成主義」
・リアリティは「社会」によって構成される→ 「社会構成主義」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「心理的構成主義」は、観念論(外的なリアリティは完全に実証することができないという考え方)の流れを組み、結局、個人の心がリアリティを構成するのだ、とします。(Piaget, 1954ら)

一方、「社会構成主義」は、社会における意味は、人々が創造していくものであり、心による意味の構成ではなく、人間行為の関係性による意味の構成にあるとする立場です(Gergen, 1994)。

めちゃくちゃ卑近な例えですが、我が息子(3歳)は、電車に茶色っぽいラインが入っていると、「有楽町線(東京メトロ)」とみなします。副都心線とか、他のローカル線も全部、彼にとっては「有楽町線」なのです。これは個人が自身の経験成果より構成を行う「心理的構成主義」である”とも言えるようにも思えます(のか?)。

一方、実際は「有楽町線」は、東京都民始め、皆から「有楽町線」と社会的に認知されています。車両番号や、走っているエリアなどを、人々が意味を構成し認識した結果「有楽町線」となります。
たとえば、もし、「副都心線も色が似てるから来年から有楽町線の一部にします!」とエラい人が言い始めて、そして実際に人々がそう呼ぶようになったら、副都心線は「有楽町線」になってしまうのでしょう。人々が意味を構成する「社会構成主義」とはそんなイメージかと。(たぶん・・・)

そして、”W&D(2001)では「役割クラフティングは、社会構成主義に依拠している」と明言しているそうです。しかし、よくよく見てみると、この社会構成主義と心理的構成主義がごっちゃになっていないか??というのが著者らが疑問を投げかけている部分となります。


◯役割クラフティングの「メタ理論」についての結論

さて、色々とツッコミがある話にはなっていますが、ここまでの話の整理と、結論としては以下のように述べられています。

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・「役割クラフティング」は、その着想において、心理的構成主義と社会構成主義の差は明確に意識されていなかったと思われる。
・それぞれの特性を持つ個人の単位を重視する「役割クラフティング」の場合は基本的に、「心理的構成主義に依拠していると考えられる。
・しかし、実際の役割クラフティングには、社会構成主義の立場によるものも存在している。
・結論、その心理的構成主義・社会構成主義の両方が、そのメタ理論として生成されていたと考えられる
P62
――――――――――――――――――――――――――

とのこと。

つまり、「タスク・関係性・認知」において、「仕事の有意味性」を生み出すプロセスは、個人が自分の動機・強み・情熱などのアイデンティティを自分でどのように思っているのか(=「心理的構成主義」)が基本となります。

しかし、会社が「清掃係はお客様をおもてなしすることキャストだ」という組織の働きかけによって、個人の認知に変化が生まれることもあります。、これは「社会構成主義」に依拠した仕事の有意味性の生成となります。

つまり、どっちも駆動しているよね、ということですね。



■「仕事の意味づけ」の3つの観点

さて、このように「メタ理論」を遡る理由の一つに、「認知的ジョブ・クラフティング」などが、客観的に観察できるものではなく、「個人の心」の中で起こっているとしているところです。

認知的ジョブ・クラフティングが起こるメカニズムを考察するには、土台となる哲学的前提を見つめることは、確かに重要だと感じます。

さて、その上で「仕事の意味づけ」がどのような観点で生まれるのかについて、Berg et al(2013)らが3つの観点を示していると紹介がありました。なるほど、と思いましたので、以下紹介をいたします。

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<仕事を意味づける3つの観点 ー認知の変化ー>
(1)視点の拡大
・仕事の位置づけをより大きく、有機的に捉えて意味付けをする(例:清掃係は、お客様に感動を与えるキャストである)
(2)視点の焦点化
・仕事の中でも興味ある領域に絞り込む
(3)視点の関連付け
・仕事の中のタスク、人間関係、興味やアイデンティティを有意味性により関連付ける(例:個人の動機・強み・情熱を見つけ、それらと紐づける)
P60
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■まとめと個人的感想

大学院の授業で、いくつかの哲学的な基盤に関連する思想を学びました。
そのときは、フッサール、デューイなどでしたが、こうして研究を掘り下げる中で、今回出てきたガーゲン(社会構成主義)なども、強く関わっていることを認識する章でした。

一つのことを知るためには、その源流に遡る必要がある。
その入口の少し一歩入ったところを触れただけですが、いかに自分が知らないのかということを改めて感じた次第です。

学ぶことが、いっぱいあるなあ、、、と遠い目になった次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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https://note.com/courage_sapuri/n/n571e37acf772

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 【編集後記】
◯強み関連文献おかわり100本ノック:38本目
◯今月の健康&運動習慣:9月のランニング距離:163km

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