配信日時 2024/02/10 15:21

ロサダ比率 ~高業績チームの対話は、ポジティブ:ネガティブ比=3:1である!? 論文からの示唆~【カレッジサプリ】

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令和6年2月10日(第3638号)


ロサダ比率 ~高業績チームの対話は、ポジティブ:ネガティブ比=3:1である!?  論文からの示唆~


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 4766字/読了時間8分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、製薬会社の皆さまへの、
ストレングス・ファインダー研修の第3回目でした。

強みを活かすチームビルディングとして
「アプリシエイティブ・インクワイアリ(AI)」という
組織開発のアプローチを皆様と共に実施をいたしました。

チームの可能性や、皆様の強みが見えて、
実に素晴らしい時間で、感動しておりました。
改めて、ご参加頂きました皆様、ありがとうございました!



さて本日のお話です。

本日ご紹介する論文は「高業績チームの対話におけるポジティブな割合」についての研究です。
引用数も1000件を超えている、たいへん有名な論文です。

結論からすれば「高業績チームの対話におけるポジティブ:ネガティブの比率は5:1である」というお話。
…ただし、話はそこで終わらず、続く研究で探求・批判がされている論文でもあります。

そんな注目を集める本論文。早速内容を見ていきたいと思います。それでは参りましょう!


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<今回ご紹介の論文>
『ビジネスチームのパフォーマンスにおけるポジティブさとコネクティビティの役割:非線形力学モデル』
Losada, Marcial, and Emily Heaphy. 2004. “The Role of Positivity and Connectivity in the Performance of Business Teams: A Nonlinear Dynamics Model.” The American Behavioral Scientist 47 (6): 740–65.
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■30秒でわかる論文のポイント

・業績チームのポジティブ比率に関する実験が、大手情報処理企業の上級60ビジネスユニットに対して行われた。

・チームは、「収益性」「顧客評価」「360°データ」などの客観的な成果指標に基づいて、高業績15チーム・中業績26チーム・低業績19チームに分けられた。

・そして、「チーム内の会話の質」について評価され、3人のコーダーにより会話の質が、「ポジティブか/ネガティブか」、「自分中心か/他者中心か」「質問か/主張か」という3つの観点で調査された。

・結果、高業績チームは、1)自分と他者どちらもバランスよく中心にしている、2)質問と主張のバランスが取れている、3)ポジティブな内容の発言が多い、ことがわかった。

という内容です。

強みに関する書籍やポジティブ心理学の論文でも引用されており、「ポジティブな会話の重要性」を支持する、有用な論文の一つになっているようです。


■線形モデルと非線形モデル

本論文は「対話データをとって、ポジティブの会話比率が高かったね」というシンプルな話には収まりません。

その背景には、数学や物理学で使われる(と思われる)「線形モデルと非線形モデル」の話をベースに考えられています(これが後に物議を醸し出すのですが)。

「線形モデル」というのは、いわゆる正比例の直線で示されるモデルです。「非線形モデル」は、反比例のような曲線で示されるモデルになります。

例えば、パフォーマンスに対するポジティブ:ネガティブの比率について、「ポジティブな会話の比率が増えれば増えるほどよい」という正比例の形で表せるのだとしたら「線形モデル」で説明ができる、となります。

しかし、人間はそんなにシンプルではありません。ポジティブな話ばかりだと状況の深刻さが受け止められない、など望ましくない結果になることもあります。または、組織レベルで人が集まると、ダイナミズムにより複雑な反応が起こることも想像に難くありません。ということで、「ポジティブさは重要でも一定以上はネガティブに働く事もありえる」という説明になるならば、それは「非線形モデル」で説明できる、となるわけです。

そして今回の実験では、「組織レベルのダイナミクスを理解するには、非線形モデルが適切である」と述べており、また研究方法も、この非線形モデルを導く方程式を利用していました。よって副題でも「非線形モデル」という文言が含まれています。(方程式の内容は、難しすぎてさっぱりわかりませんでした)


■研究の全体像
では、どのようなプロセスで研究を進めたのでしょうか。まず、本研究の目的について、見ていきたいと思います。

◯研究の目的

本研究の目的について、論文で相当する部分を、以下引用します。

”「チームにとって可能なダイナミクスのタイプの「メタ学習モデル」を実行することで、異なるレベルの連結性が異なる非線形ダイナミクスを生み出し 、それがビジネスチームにおける異なるレベルのパフォーマンスと関連することを観察することができる。
 したがって、P/N(ポジティブ/ネガティブ比率)と連結性の関係を明確にすることで、P/Nがチームのパフォーマンスにも関連することを示す。この発見は、ポジティブ組織研究の新たな分野にとって重要な意味を持つ。”

だそうです。む、難しすぎる・・・。

平たく解釈をすると「ポジティブネガティブ比率とパフォーマンスの関係性を明確にすることで、ポジティブ組織研究の今後につなげていく」

ことが本論文の目的と言ってよいかと思います(平たくしすぎ?)。そこに「メタ学習モデル」などの背景理論で読み解こう、という話のようです。

◯参加者と調査方法

本研究では大きく、「チーム対話の調査段階」と、「数学的方法で計算する分析段階」がありました。まず、調査段階についてみていきましょう。

<参加者>
・大手情報処理企業の「60」の戦略ビジネスユニット(1チームあたり8人)

<調査ステップ>
ミシガン大学の学生がコーダー(記録者)となり、チームミーティングの発話を時系列に分析しました。各会議は3人によってコード化されました。

<対話の3つの次元>
より具体的には、チームミーティングにおけるメンバー間の言語コミュニケーションを、以下の3つの次元で調査をしました。

「ポジティブ/ネガティブ」(Positive/Negative)
「質問/主張」(inquiry/adovocacy)
「他者/自己」(other/self)

たとえば、「ポジティブ/ネガティブ」でいえば、発言者が激励や感謝(例:「それはいい考えですね」)など示した場合は「ポジティブ」、不支持や皮肉・冷笑(例:「そんなバカな話は聞いたことがない」)を示した場合は「ネガティブ」とカウントしました。

また、「質問/主張」でいえば、発言者が、ある立場の探求や検証を目的とした質問を含む場合は「質問(iuquiry)」とし、発話者の見解を支持する主張を含む場合は「主張(adovocacy)」としました。

そして、「他者/自己」については、発話者が、発話者本人・その場にいたグループ、会社を指している場合は「自己」とし、発話者が所属していた会社以外の人やグループを指している場合は「他者」としてコード化しました。

<パフォーマンスレベルの測定法>
60のビジネス・チームのサンプルは、ビジネス・パフォーマ ンス・データに基づいて、3つのパフォーマンス・レベルに細分化されました。

1)収益性の測定(ビジネスユニットの損益計算書)
2)顧客満足度(調査とインタビュー)
3)360度評価(上司、同僚、部下による チームメンバーの評価)

上記から、高業績チーム、中業績チーム、低業績チームに分けられ、上記の対話の3つの次元について、その傾向を調査したのでした。


■調査の結果

今回の研究では、非線形ダイナミクスモデルのメタ学習モデル(Meta Learning:MLモデル)なるものを活用して分析をしています。結論について、以下主要なものをまとめてみたいと思います。

◯わかったこと1:高業績チームは相互影響が高い

非線形ダイナミクスモデルでは、「コネクティビティ(接続性)」という指標があります。いわく、”メンバー間の連動した行動の持続的パターン(メンバー間の相互影響)”のことです。会議中の様子を観察したところ、高業績チームであるほど、コネクティビティが高いことがわかりました。つまり、高業績チームほど、相互に影響をし合う度合いが高いということです。

低業績チームは、硬直的で秩序化されている(しかし全体としてのダイナミクスが小さい傾向)ことに比べて、高業績チームはカオス的な構造(メンバーの対話が入り交じる傾向)があるようです。

これを定性的な観察結果では「高業績チームは、会議中ずっとウキウキ舌雰囲気が続く特徴がある」「チームの他のメンバーに感謝と励ましを示すことで、行動と創造性の可能性を開く、広がりある感情的空間を示していた」と評していました。


◯わかったこと2:高業績チームはポジティブ:ネガティブ比が「5:1」だった

ポジティブ:ネガティブ比は、高業績・中業績・低業績チームごとに異なるる結果を示していました。高業績チームの比率は5.614、中業績チームの比率は 1.855、低業績チームの比率は0.363でした。

つまり、「高業績チームのポジティブの比率は、中・低業績に比べて高い」という結果になったと述べています。

また、高業績チームは「質問/主張」のバランスが1:1程度、「他者/自己」についても同じように1:1で、中・低業績チームに比べてバランスが取れていることがわかりました。


◯背景理論「メタ学習モデル」について

さて、チームのコミュニケーションにおける対話の内容は、上記の通りです。しかし、なぜ「コネクティビティ」と「対話の3つの次元(ポジティブ/ネガティブ、質問/主張、他者/自己)がパフォーマンスに影響を与えるのか? について、どのように説明するのかがポイントになりました。

ここで、研究者らは、このメカニズムを説明する上での「メタ学習モデル(MLモデル)」なるものを用いています。「メタ学習」の定義はこのように説明されています。

”メタ学習とは「効果的な行動の可能性を閉ざすアトラクターを解消し、効果的な行動の可能性を開くアトラクターを進化させるチームの能力」(Losada, 1999, p.190)”

これまたちょっと言い方が難しいですが、シンプルに整理すると

1、「コネクティビティ」(相互の影響度)が高まると
2,効果的な行動の可能性を開くチームの能力が開発されて(「メタ学習」が起こって)
3,チームのパフォーマンスが向上する

ということです。


■まとめ(個人的感想)

この論文の内容については、これまでも何度も文献で登場しており、聞いたことがあるものでした。しかし原本に当たるのは今回が初めてでした。

そこには予想外にも「メタ学習」とか「非線形ダイナミクスモデル」とか、数学的な話も出てくるとはよもや思わず、なかなか読むのに苦労をし、ちょっと後悔しました(汗)しかし、同時に新鮮さも覚えました。やはり元論文を読むことで得られる気付きは多いものです。

ちなみに本論文は、続く研究で「さらなる探求」、そして「批判」がありました。

「さらなる探求」については、「高業績チームのポジティブ:ネガティブ比率は、約3:1(2.9:1)」とされたというお話です。成果が上昇に転じる転換点がここであり、これが「ロサダ比率」として知られるようになっています。

次に、「研究に対する批判」です。それは、本論文で用いられている数学的根拠がないと疑義が投げかけられ、最終的にこの論文の正当性は否定される結果となりました(残念)。
ポジティブ心理学を推進したい人にとって、望ましい結果であったものですが、数学的根拠を誰から見ても証明できなければ、アカデミックな分野での持続する影響は難しいのだと感じました。

しかしながら、研究のプロセスを読めば、「ポジティブな比率が高いほうがパフォーマンスが高い」ことを示す定性的観察の証拠、対話データからの定量的な証拠は見受けられるので、厳密な数字はともかくとして、「ポジティブが高いほうがよい」という事実は十分に参考にしてよいのでは、思います。

我々の多くは研究者ではなく、現場の人でしょう。なので、ここまでの研究者の知見が、部分的でも役に立つのであれば、大いに活かせるところは活かせばいいと思った次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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<本日の名言>

何が本当に自分の利益であるかを知ることは容易ではない。

ウィストン・チャーチル
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【編集後記】
強み論文、100本ノックプロジェクト。
現在、63本目です。
あと37本。

<今月の健康&運動習慣>
・2月のランニング距離:25km

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