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令和6年1月11日(第3608号)
チーム結成前の「関係的自己肯定感」がチームパフォーマンスを向上させる?!
~「最高の自己像」を活用した介入手法~
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 5650字/読了時間8分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、外部人事パートナーとして
関わらせていただく皆様への終日のコーチング&コンサルティングでした。
また夜は1件のミーティングと勉強会の参加でした。
*
さて本日のお話です。
本日の論文は「チーム形成前に関係性における自己肯定感を高めると、チームパフォーマンスも高まる」ことを示した研究です。
個人がこれまでの関係を振り返って自己肯定感を高めると、それがチームへの情報共有や関わり方に影響を与え、その結果チームレベルのパフォーマンスにまで影響することを、2つの実験で示した研究です。
自己肯定感の理論をチームに拡張し、また実践的な介入も提案している、定量的で説得力があり、かつ実践的な論文でした。ということで早速みてまいりましょう!
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<今回ご紹介の論文>
『チームに参加するための自己準備 :関係性の肯定はいかにしてチー ムのパフォーマンスを向上させるか』
Lee, Jooa Julia, and Francesca Gino. (2016). “Preparing the Self for Team Entry: How Relational Affirmation Improves Team Performance.” SSRN Electronic Journal.
https://doi.org/10.2139/ssrn.2753160.
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■30秒でわかる論文のポイント
・チームで働くことは、時として生産性を下げることがある。それは「自分が受け入れられていると感じたいという欲求」が、メンバーが持っている独自なな情報や視点を提供することを妨げるからである(自分の意見は価値がないと思って言えない、など)。
・今回の研究では、「自己肯定理論」に基づいて、チーム前の「関係的自己肯定感(=関係性における自己肯定感)」が、他者から評価されている・受け入れられているという感情を高め、結果として情報交換やパフォーマンスに貢献する、という仮説を立てた。
・この仮説に対して2つの実験を行った。1つ目の研究では、チーム結成前にメンバーの最高の自己像を肯定しあった実験群のチームは、対照群のチームに比べて、創造的な問題解決が優れていることがわかった。
2つ目の研究では、オンラインのバーチャルチームでの実験でチーム形成前の関係的自己肯定感が、「社会的価値感(自分の行動が他者において重要であると感じること)」を高めることがわかった。
***
■本研究のモデル
まず、本研究における中核に位置する概念についてお伝えします。その上で、今回の研究における仮説モデルをお伝えし、実験の流れをご説明したいと思います。
***
■「関係的自己肯定感」と「社会的価値感」とは
本論文の中核概念となるキーワードが「関係的自己肯定感(Relational self-affirmation)」そして、「社会的価値感(Feeling of Social Worth)」の2つです。
まず1つ目の「関係的自己肯定感(Relational self-affirmation)」について説明します。この言葉も、若干ややこしいのですが、Self Affirmationは直訳すると「自己肯定感」です。
しかし、この自己肯定感というのも、Self-esteemとかSelf-confidenceなど様々な翻訳前の英語があります。かつ日本語の「自己肯定感」は「ありのままの自分を認めること」とされることも多く多様な意味が混在する言葉と言えそうです。
その中で、本論文でいう「自己肯定感」の定義は、”自分が適切であることを示すために、自分の心理的・社会的資源 (社会的ネットワーク、中核的価値観、価値ある特性など)を思い出させるアプローチ(Cohen and Sherman, 2014)”と定義しています。つまり、「自分の持っている価値を確認する」というニュアンスです。
それを踏まえて「関係的自己肯定感」という概念を、今回の論文では導入しています。関係的自己肯定感とは「自己肯定感の関係的側面に焦点を当てたもの。チームメンバーとの関係(友人・家族・同僚など)から自分の価値を確認するもの」としています。
そして、実際の実験では、「最高の自己像(リフレクテッド・ベスト・セルフ)」のワークから、個人の関係性の中から自己肯定感を高めるポジティブなアプローチで関係的自己肯定感を高める操作をしています。
次に2つ目の概念、「社会的価値感(Feeling of Social Worth)」ついてです。私達は、他者から評価されたい、必要とされたいという欲求(=社会的価値の欲求)を持っています。こうした欲求に繋がる「自分の行動が他者の人生において重要である、価値があると感じること」が社会的価値感です(Elliotto,Colangeloら, 2005)。
そして、これらの概念は、以下のような関連を持つのではないか、と本論文では仮説を立てました。
***
■本研究のモデルと仮説
仮説1:「関係的自己肯定感」は「社会的価値感」を高める
仮説2:「チーム前の関係的自己肯定感」は、「チームの情報交換」や「創造的パフォーマンス」といったチームレベルの成果を高める。
仮説3:チームレベルの成果に対する「チーム前の関係的自己肯定感」の効果は、「社会的価値感」によって媒介される。
研究者たちは、2つの研究を行いました。どちらも知らない人同士でランダムにチームを組んで、実験群と対照群で結果を比較した「ランダム化比較研究」なるものです。
そして、研究モデルの、チーム前の「関係的自己肯定感」が「チームのプロセス(情報交換)」と「チームの成果(創造的パフォーマンス)」にどのような影響を与えるのかを調べました。
まず1つ目の研究からみていきましょう。
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■研究1:危機シミュレーションにおける「チームパフォーマンス」の実験
◯研究の進め方
●参加者:米国の政府系トップスクールのリーダーシップ開発に参加した上級管理職(元軍人、政府期間勤務など)246名
平均年齢48歳。男性73%
●研究の手順:1,参加者への事前課題「最高の自己像」
実験群のみ「最高の自己像(リフレクテッド・ベスト・セルフ)」についてのインタビューである。友人・家族・同僚・顧客など参加をよく知る人から、その人が最高の状態であったときの物語を3つまで書いてもらいました。
2,チーム前の「関係的自己肯定感」を高める
チーム5~6名、合計42グループ編成し、実験群と対照群を半数ずつにわけました。そして、実験群のみ、チーム前の「関係的自己肯定感」を高める操作をおこないました。
具体的には、本プロジェクトのワーク全体の中で1時間で、事前学習の「最高の自己像」をそれぞれ振り返るワークを行いました(※ちなみに、同じ時間にそれぞれ個人で振り返りを行い、その内容を他者とシェアはしないようなワークの設計のようです)
3,チーム課題「危機シミュレーション」を行う「地元で危険なコロナウイルスが検出された」という報告を受け、それに対する緊急監視チームの役割を演じました。
7日間の発表まで、それに対する対策を立て、意思決定をする必要がありました。そして、専門家16名に、20分間のプレゼンテーションを行いました。
●測定尺度
専門家らにより、以下のパフォーマンス尺度にも基いて評価をされました。
*『チームの創造的パフォーマンス』
・以下の関連する項目について、1~7段階で判定しました。・「効果的なコミュニケーション」「創造性」「明確性」「実現可能性」「チームの団結力」「意思決定の内容に対する総合的な評価」の観点から専門家に評価してもらう。
◯研究の結果
結果、「対照群に対して、実験群(チーム前の関係的自己肯定感を高めた群)のほうがチームパフォーマンスが高かった」ことがわかりました。これは、仮説2を支持します。
***
■研究2:バーチャルチームの「チームの情報交換」と「社会的価値感」の実験
さて、研究1の結果では、チーム前の関係的自己肯定感が、チームの創造的パフォーマンスを高めることが示唆されました。
続いて研究者らは、「どのようなプロセスにより、チーム前の関係的自己肯定感の向上が、チームパフォーマンスを高めているのか?」を調査することにしました。
仮説としては「チーム参加前の関係的自己肯定感が、情報収集や情報共有など、チームの情報交換能力を高め、チームパフォーマンスが高まるのでは?」と想定しました。具体的に、以下のようなプロセスで進めました。
研究の進め方
●参加者:123名(平均年齢32.78歳)
(インターネットに広告を掲載し、参加者を募集。そして研究1と同じように「最高の自分像」にまつわるインタビューを友人・同僚・家族などから集めるように依頼をし、適合する結果になった人を選出しました)
●研究の手順:参加者を実験群と対照群に分けました。そして3人1組のチームに無作為に割り当てました。
1,チーム前の「関係的自己肯定感」を高める
実験群にのみ、セッションの前日の夜に、「最高の自分像」を振り返る『インパクト・ナラティブ(※)』の振り返りシートを配布し、実施を促しました。
※「インパクト・ナラティブ」の振り返りの例
マイクに初めて会ったのは80年代の初めだった。彼は車椅子に乗っていて、微 笑んでいたのを覚えている。
学校に来れるようになったとき、彼は痛みに苦し んでいたが、気概にあふれていた。ティーンエイジャーだった私たちは、マイクを特別な存在とは見ていなかった。
彼はクラスメートのひとりになりたがっていたし、部屋を明るく照らすような笑顔の持ち主だった。今日、私は彼の笑顔からどれだけの決意が伝わってきたかを実感している。
2,チーム課題「隠された情報から意思決定をする」
バーチャルルームでのチャット・セッションを行いました。(チャットなのでテキストベースでのチーム課題です)。
チーム課題として、参加者それぞれに部分的に渡された情報を提供し、それらの内容から適切な意思決定を行うワークを行いました(指示確認 10分間+チーム演習 15分間)。正しい情報が共有された場合のみ、答えにたどり着けるようになっている。よって、チームメンバーが協力して情報を組み合わせる必要がありました。
3,測定尺度チーム演習の後、2つの観点で測定を行いました。
*『社会的価値感』(Grant&Gino, 2010)
・参加者に対して「社会的価値感」について調査を行いました。
(例「人として評価されていると思う」「個人として評価されていると感じる」「他人の人生にプラスになったと感じる」など)
*『チームの情報交換』
・研究者が、チャットの記録を分析し、どのような情報がやり取りされたのかを分析しました。1)「独自の情報提供」がどれくらい行われていたのか、2)「直接的な情報要求」を行った回数、3)「間接的な情報要求」を行った回数を数えました。
上記実験から、チーム前の「関係的自己肯定感」が「チームの情報交換」の質を高めることを検証しました。
◯研究の結果
●「関係的自己肯定感」と「チームの情報交換」の関係
結論からすると、チーム前に「関係的自己肯定感」を高めているチームは、「独自の情報共有」の割合が高く、「直接的に情報要求を行う」傾向が強いことがわかりました。
具体的には、実験群は対照群に比べて1,「独自の情報共有」の割合が高かった。2,「直接的な情報要求」の割合が高かった3、「間接的な情報要求」の割合は低かったことがわかりました。全体の情報要求の総数は、実験群と対照群の間で差はありませんでした。
●「関係的自己肯定感」と「社会的価値感」の関係
次に、関係的自己肯定感と社会的価値感の関係ですが、実験群(チーム前の関係的自己肯定感を高めた群)は対照群に対して、「社会的価値感」が高くなっていました。よって、仮説1「関係的自己肯定感」は「社会的価値感」を高める、は裏付けられたと考えられます。
***
■まとめ(個人的感想)
◯論文の理論的貢献
最後に本論文ではこの研究の価値として、3つを挙げています。第一が、「より優れた成果を上げるチームの理由を検討したこと」。多くの研究が、チームの生産性はチームプロセスというチームレベルの観点で説明してきたところに対して、チーム結成前の「関係的自己肯定感」に焦点を当て、それがチームの情報共有・要求に影響を与えるという視点が新しいものでした。
第ニに、「チーム結成前に関係的自己肯定感を高める介入方法を示したこと」です。チームのタスクに取り掛かる前に、自分自身の個人的な関係を通じて個人の自己観を肯定することが(=「関係的自己肯定感」を高めることが)、グループレベルの現象に引き継がれることが明らかになったことが発見でした。
第三が、「自己肯定理論を拡張、前進させたこと」です。自己肯定の介入の関係的要素に焦点を当てたこと、そしてそれをチーム設定に適用することは、最近の研究を拡張するものでした。
◯個人的感想
最初に「関係的自己肯定感」と聞いたときは、チームのメンバー間による関係性の質、みたいなものかと思っていました。なので、チームビルディングなどでチームの関係の質を高めることがチームパフォーマンスにつながるという研究なのかな、思っていましたが、そういうわけではありませんでした。
あくまでも個人内での「(これまでの)関係性の中から育まれる自己肯定感」に焦点を当て、個人個人で「最高の自己像(リフレクテッド・ベスト・セルフ)エクササイズ」などでこれまで関係性を振り返ると、関係的自己肯定感を高めることで、社会的な価値があると感じられます。その関係的自己肯定感の向上が、新しく初めて同士のチームでも積極的に関わることに繋がりチームのパフォーマンスを高める、新鮮なアプローチだと感じました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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<本日の名言>
体の坐りが悪いと、顔の据わりも悪い。
それは、自信と集中に欠けている証拠だ。
大山倍達
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【編集後記】
強み論文、100本ノックプロジェクト。
現在、42本目です。
あと58本。
<今月の健康&運動習慣>
・1月のランニング距離:52km
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