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令和5年9月25日(第3501号)
『サビカスのキャリア構成理論』を読む ー「守る人」ウィリアムの物語
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3888字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
ずっと暑い日でしたが、
ようやく最高気温が30度を下回り、
少し秋らしくなってきましたね。
家族と公園へ行き、
子供にラジコンを追いかけさせて
楽しんでおりました。
季節が巡るのはあっという間です。
*
さて、本日のお話です。
先日より読み進めている
『サビカス キャリア構成理論
四つの〈物語〉で学ぶキャリアの形成と発達』
マーク・L・サビカス (著), 水野 修次郎 (翻訳), 長谷川 能扶子 (翻訳)
https://amzn.asia/d/dqHDgH8
の書籍より、今日はまたある人物のキャリアからの学びについて
共有させていただければと思います。
それではまいりましょう!
タイトルは
【『サビカスのキャリア構成理論』を読む ー「守る人」ウィリアムの物語】
それでは、どうぞ。
■本書の第四章
『守る人の義務―ウィリアムの軌跡』
では、ウィリアムという
幼少期にからずっと両親から期待されたことに応え続け、
その結果、「アイデンティティの早期完成」をした人が、
どのような軌跡を歩んでいくのかが描かれています。
■一般的に、青少年は、
”自己覚醒の危機を経験した後に
アイデンティティを形成する”
とされています。
自分が何者か、という
自らのアイデンティティにゆらぎが生じ、
その中で、自分の中で努力し、探求し、
そして自分という自己を確立していきます。
しかし、一部の青少年は、
”自己の可能性を探求することなく
両親から与えられたアイデンティティを受け入れる”
という選択をする場合がある、とのこと。
つまり、
幼少期において、親から期待されたこと
そうして作られたアイデンティティについて
思春期において探求したり、
考え直すことがなくそのまま受け入れ続ける、
ということです。
■そして、ウィリアムはまさに
そのケースでした。
今回の
『守る人の義務―ウィリアムの軌跡』
の話は、
そんな彼を長期間(25歳、35歳、59歳)と、
数十年に渡って取材、研究して見つけた
キャリアの実例のお話になります。
*
ウィリアムのライフポートレートは
以下のようなものでした。
(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯家族(出自)
・家族は、製粉業を営む父と母。
家業として曽祖父の時代から行っていた。
・父からは自分が「工場の仕事をすることを期待」されていた
・母は「子供に仕え、夫に仕えることが趣味」であり、
ウィリアムとその弟に、教育によって善良な人生を実現するよう
大きく期待をかけていた。
◯キャリア発達(幼少期)
・母は、息子ウィリアムの優しさを認めていたが、完全に満足していなかった。
怠け者のところがある、といっていた。
また、期待をしているとさり気なく声をかけるような関わりだが
何かをした時に褒めるよりも「彼の背景から当たり前のことをしただけである」
という接し方であり、ウィリアムもそのように思っていた。
・父は、学校の勉強がうまく行かないと怒った。
ベストを尽くさないと認められなかった。
また、父はウィリアムが会社の仕事を手伝うのが好きであり、
仕事ぶりを褒めてくれた。
・ウィリアムの子供の頃の希望は、
「父と母の望む通りにすること、望む通りの人間になること」だった。
◯キャリア探索(思春期)
・高校では、ウィリアムは小学生のときのような成績を収められなくなった。
・父親は、ウィリアムに、自分の仕事(製粉業)の仕事を
継いでもらいたいと思っていた。
そのことをウィリアム本人も理解していた。
・両親は、2人の息子の内、1人を医者にしたかったようだった。
・高校になると、勉強がうまくいかなくなるかわりに、
数々の課外活動に夢中になっていた。
学生新聞の取材、宝石収集、バンド活動など。
常に燃え尽きの状態だった。
・「人生は楽しむものという考えはない」と思っていた。
「やれることを最大限やること」が彼のスタイルになっていた。
・その後、会計の学位を取得。MBAを取得する。
25歳のときに、父の助けを借りて経験したインターンシップを通じて
食品メーカ―営業助手として働くことになった。
◯キャリア確立(成人期~中年期)
・4年働き、故郷に戻り父親の仕事を手伝うようになる。
彼の野心と、工夫により会社の利益は2倍になった。
・35歳になり、ウィリアムが経営を任された後も、
父親が職場にいることで、落ち着かなくなってきた。
・ウィリアムは「自由が大事なはずなのに、
自分のことを自分で決められない」と苦しんでいた。
「息苦しい時に、ただ耐えるだけだ」と思っていた。
・中年としての発達課題に直面していた。
彼の人生には「遊び」というものがなかった。
◯キャリア・マネジメント(シニア期)
・59歳になって、ウィリアムは
「周囲が望むこと、期待することをやってきた」
「自分の好きなことを楽しむ機会がなかった」
「しかしなぜなのか分からず自分を消耗してきた」と語った。
・母親の面倒を見ることに疲れ、
ウィリアムの息子は問題児で、放浪時のようだった。
娘とは対立をしていた。
・また多くのことを引き受けすぎており、
常に対処することで忙しくしている、と言い
その状況に自分でも嫌気が指している、とした。
・「自分が何をしたいかなんて考えたことがない」と言い、
「自分の夢に向かって行動することは、怠慢であり、
愚かであり、明らかに間違っているという信条」があるように見られる。
・この生活パターンは、母親が
「義務を果たせと言っていた戒め」にまで遡る。
母親の「あなたには義務がある」と言っていた言葉、
ウィリアムはこれを”一番嫌な言葉”であると語った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)
■読んでいて、
胸がぎゅっとなるような
そんな痛みや葛藤を感じさせられるエピソードでした。。。
ウィリアムは
「両親からの期待を果たす」ことで
両親から注目されることを望み、
そして、
・両親の期待したやるべきことをやる
・自分がやりたいことではなく、
自分に期待された義務を果たす
・その中で、自分の深い感情を抑圧し続けて
自分でも気づかないようになっていく
というパターンを獲得していきました。
ウィリアムは
「追い込まれた人間」
日常の仕事に全精力を注ぎ、
多くの義務匂われ、義務感によって衝動を押さえられ、
ますます喜びのない人生になってしまった人間、
と著書では印象が書かれています。
そして彼のバイタリティによって
さまざまな活動を休むことなく行い続けるのですが、
その背景には
”忙しくしているうちは、
自分自身に向き合わなくてもよい”
ということもあったようです。
■こうしたことを、
「キャリア構成理論」の視点から紐解くと、
以下のようなものになるそうです。
**
<キャリアの自己構成プロセス>
◯アクター(自己体系をつくる)
→「不安・アンビバレント愛着スキーマ」を持つ
(※高い不安と低い回避傾向により、
両親からの期待に惹かれると同時に反発する。
親から見放されることを恐れ、親との関係にとらわれる。
こうあるべきという感情が最優先となり、それに反する
衝動・空想・感情を無視した)
◯エージェント(自己調整をする)
→「彼自身の理想・希望・願望ではなく、
彼が果たすべき義務・責任を目的とした」
(※ウィリアムの両親は、彼が職業目標を決める際に、
責任、家族の調和、彼がすべきことを絶えず強調していた)
◯オーサー(自己概念化)
→「自伝著者としてアイデンティティを作り上げる作業を避けた。
代わりに親の期待を尊重し、自分に対する願望に従うことを選択した」
(彼の職業アイデンティティは、自分自身の意思決定ではなく、
家族が彼に与えた役割で形成されていった)
**
とのこと。
そして、それらを実現するコンテンツとして
「タイプAパーソナリティ」
(=長期にわたる絶え間ない闘争に積極的に関与し、
より少ない時間で多くを達成しようとし、
そうする必要があれば、反対する物事や人に対抗する)
を持ち、自分を追い込み続けました。
(そして本人にはその自覚がない)
■読みながら、
「三つ子の魂百まで」ではないですが、
幼い頃に培われたものの重たさを
感じずにはいられませんでした。
ウィリアムのキャリアは、
両親の影響も多分にありつつ
そして彼の性格特性の影響が
相互依存的に作られたものだと思います。
3歳までとは限らないとはしても、
幼少期の世界の全てとも言っても過言ではない
両親の影響は、実に大きいものであると感じます。
「自分自身はどうだったんだろうか」と考えるとともに、
(だいぶ自由にやらせてもらっていた気もします)
の自分の子供に対する子育てなどにも
思いを馳せた章でございました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<本日の名言>
来た道を振り返るという点で、人は河とは違う。
セルバンテス
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【編集後記】
それぞれのキャリアストーリーを見ると、
否応なくそうなってきたという宿命というか、運命じみたものも
感じてしまいます。
誰かのキャリアを、いいとか悪いとか
それらを他者が判断したりするのは、
非常におこがましいことだな、、、と読むほどに思わされます。
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