配信日時 2023/07/21 08:48

闇の中の天使、私設エイドおじさん ~263kmマラソン体験記(4)~【カレッジサプリ】

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令和5年7月21日(第3436号)


闇の中の天使、私設エイドおじさん ~263kmマラソン体験記(4)~


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3404字/読了時間4分)


■おはようございます。紀藤です。

7/15(土)17:00に
弘前公園東門をスタートした
「みちのく津軽ジャーニーラン」。

今日も続けてまいります。


※昨日までのお話はこちら

◯「知らないから楽観的でいられる」 ~263kmマラソン体験記(1)~
 https://1lejend.com/b/detail/HSfoIRnMfw/4549662/

◯120kmからが本当のスタート(そして絶望の始まり) ~263kmマラソン体験記(2)
 https://1lejend.com/b/detail/HSfoIRnMfw/4550245/
 
◯「股間の痛みとリーダーシップ」海岸線の苦行 ~263kmマラソン体験記(3)~
 https://1lejend.com/b/detail/HSfoIRnMfw/4550700/
 

今日は、7/17(月)、
3日目からのお話となります。

それでは早速まいりましょう!

タイトルは、



【闇の中の天使、私設エイドおじさん ~263kmマラソン体験記(4)】



それでは、どうぞ。



■7月17日(月)深夜2時。

開始から33時間経過。

現在178km地点。


最後の死力を振り絞って、、、
といいたいところですが、

そのセリフを言うには
まだ早すぎるタイミングです。


ここからは

「後半戦のはじまり」

なのです。

もう、いつになったら
終わるんだ、、、

走りながら、自分もそう思っています。



■5人になった仲間は、
1人脱落して、4人になりました。

また遅れて到着した一人マッキーも

足首の腫れを訴えており、
後で出発するとのことでした。

いよいよ眠く、
いよいよつらく、
いよいよ皆いっぱいいっぱいです。

1日目の夜に話していた
お互いの赤裸々トークなど
行う余裕はありません。

それでも、

”闇の中、
 誰かと一緒に走れる”

というのは、それだけで
心強いものであることは、
この2晩で痛いほど知りました。


エンディ、ヒロポン、
そしてここにはいない提督、
マッキー、ありがとう。。。



■1時間弱の睡眠ののち、

「ふるさと体験館」

を発ちました。


睡眠に加えて
股擦れをテーピングで固めて
誤魔化したことで、活力がみなぎりました。

痛みがない。
眠気も今はない。

きっと大丈夫だろう、、、、

そして
次のチェックポイントである

「津軽中里駅(204km)」

を目指します。


そこまでの道のりは、
ひたすら山道。暗い山道です。

あと2時間もすれば
夜が明ける。

最後の夜が、
終わろうとしていました。



■一方、走りながら
重要な事に気づきます。

それは

”次の休憩所まで約26km、
 休憩所がない”

ということ。

自販機が現れるのも、今は山道なので、
20kmくらい先になります。

股擦れの処置で頭がいっぱいで
水の補充を忘れていたのでした、、、


「水がない」。
これは致命的なのです。

仲間に話をすると、
水が不足しているといったエンディ。


水なくして走れない、ということで
山道のトイレで水を組むことにしましたが、

「飲まないで下さい!
 飲料水ではありません」

と強く警告されており、
腹を下しては元も子もない、
ということで諦めて走り出します。



■さて、この頃になると

走りながら、
様々なものが見えるようになります。

いわゆる「幻覚」です。


正常なときでも
暗い中だと見間違いという
現象は起こります。

そこに加えて、
暗闇✕睡眠不足✕疲労が重なると、
”別のものに見える”という勘違いが
脳内で起こりやすくなるよう。


私が、走っていると

懐中電灯で照らした先の
すぐ目の前の路肩の段差に

1歳くらいの赤ちゃんが
座ってこっちを見ていました。
そして、その目が光っていました。

あまりにもビビって、
「うわっ!」と一人声をあげました。


側にいたエンディが
「どうした?」と聞きます。
「赤ちゃんが見えた」と私が答えると


「ああ、そう。まあそろそろ、
 そういう頃合いだよね」

と驚く様子もなく、
するっと受け流されました。

皆、そういうのが見えているのです。


その他にも、

カーブミラーが
スーツを来たパンダに見える、とか
 
木々が、象に見える

など不思議な光景が見えました。



■ただ、そんなのは
どうでもよいのです。

脳がちょっと勘違いしただけで
痛くも痒くもありません。

問題は、

「めちゃくちゃ眠い」

ただこれだけ。

「眠い!眠い!眠い!」と
誰が助けてくれる訳でもないのに
誰にとも無く叫んで見る。

「ああーっ!!」と大声を出してみる。

眠くて、
誤魔化してたくて
でも変わらなくて。

また水もなくて
喉も渇き始めて、
トイレの水も駄目で、
でもやはり変わらず。

ただただしんどさだけが
溜まっていきます。



■そんな中で、

「闇の中に天使」のような
存在が現れました。

それが「私設エイドおじさん」です。


この山道、同じように
水不足に陥ったランナーに、

深夜3時にも関わらず
おじさんが車を出してくれていました。


毎年、ここで1人、
深夜~明け方にサポートを
応援してくれているそうです。

トイレの水が飲めず絶望している中で、
「もしかしたら今年もいるかも」と
仲間が言っていましたが、
私設エイドのおじさんは今年もいてくれました。



そこでミルクティーやコーヒー、
リポビタンDなどを頂きます。。

そして空だった水も、
両方のボトルに満タンにしていただきました。


まだまだ頑張れる・・・!


人の優しさや、サポートがあるから
長い旅路も続けられるのだ、、、

そう思わずにはいられませんでした。



■さあ、いくか!!

と元気よく走り始めます。


、、、がそれもつかの間。

また、ものの10分で、
暴力的な眠気が襲ってきました。

目を覚ますために、
1kmくらい全力で走ってみたりします。

それでもただ足が疲れるだけで
やっぱり眠い。

なので、全力で走る
道端でまた5秒だけ眠る。
仲間に追いつかれる。

全力で走る
道端でまた5秒だけ眠る。
仲間に追いつかれる、

を繰り返していきました。



■195km。

朝4時30分。
もう空は明るくなりました。

最後の夜が、明けたのでした。



休憩所まであと10km。

でもこの10kmが長い。
そしてやっぱり眠い。。。


「ちょっとだけ寝よう」

駐車場のベンチのようなところを見つけ
5分だけと思い、横たわります。


すると、今度は車に乗った
若いお兄さんが小走りで近づいてきました。

「お疲れ様です!
 、、、お味噌汁、飲みます?」

と一声。

体が塩分や栄養分を必要としている中
味噌汁という最高に嬉しいギフト、
そして優しさが身に沁みました。


紙コップに入った
お味噌汁を持ってきてくれます。


「この時間、辛いですよね・・・
 もうちょっとです、がんばりましょう!」


この方は今回参加されなかったのですが
毎年参加されている猛者であるそう。
 
その明るすぎる声には、
この時間のキツさがリアルにわかるからこそ、
元気づけようとしてくれている、
そんな想いを感じました。

また、ちょっとだけ元気を
そしてアミノ酸をいただきました。



■追って、

後方を走っていた仲間の一人
エンディも加わって

お味噌汁を飲んで、
つかの間の休憩を入れました。

あと10km、がんばろう。

そこまでいったら、30分寝よう。

そして走り始めました。

山道は終わりを告げ
民家がポツポツ増えはじめ、
場所が町になっていました。

そして朝7:00、
チェックポイントである

「津軽中里駅(204km)」

に到着。

そこでは駅にブルーシートがひかれており
そのままそこに横たわります。

すべての場所に、布団なんて当然ないし、
畳もありません。

床でも、コンクリートでもいいのです。

寝れれば、それでいい。



■小休止の後、
さていこうか、と
仲間のエンディ、ヒロポンと共に、
歩き始めた時に、エンディが言いました。


「マッキーから連絡があった。
 足首が痛くて、このペースだと
 次のチェックポイントに間に合いそうもない。
 ここでリタイヤになると思う」


とのこと。 

最初5人で始まった仲間は、
3人になっていました。



■自分たちは必ず完走しよう、、、

言葉には出しませんが、
皆その意志を持っていることは確かでした。

そして3人で
次のチェックポイント

「金木町物産館(212km)」

を目指します。

次まで、あと8km。
あっと言う間じゃないか、

魔の明け方の時間が過ぎて、
いくぶんか体力も、
そして希望も戻ってきていたようでした。



テーピングでぐるぐるまきの
股擦れが汗と水分でぐしょぐしょになってきており
大変な痛みを醸し出し始めました。

朝になって空いていた薬局で
「キズパワーパット」を購入。
これを患部に貼って、対処をしました。


金木町物産館に到着し、
皆で「さくらんぼソフト」を食べます。

あと50km・・・!

最後の戦い、という言葉が
脳裏に浮かびました。




■すでに完走経験がある
エンディがいいます。

「ここから先は、
 最後の国道になるけど、
 それぞれのペースで行こう」

「そして、
 最後のチェックポイント、
 黒石駅で会いましょう!」

、、、と。


結局、後半の最大の壁と対峙し、
ゴール前のチェックポイントにて皆で会おう、
というのは叶いませんでした。



そして、後半の最大の壁

”212km~242km間の
 延々と続く国道沿いの道”
 
がここから始まるのでした。


朝9:30。

制限時間まで、あと12時間30分。

(つづく)

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<本日の名言>

閉じ込められている火が、
いちばん強く燃えるものだ。

ウィリアム・シェイクスピア
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【編集後記】
大会から4日経ちました。
足のむくみが残2~3割くらいまで回復してきました
また日焼けした肌の皮がむけ始めました。

この263kmのダメージが、完全に癒えた頃にはきっと
この想い出も過去のものになっていくのだな、、、
とちょっとした寂しさも感じています。

睡眠は、昨日まで2時間おきに起きてしまっていましたが
睡眠のリズムは完全に戻りました。しっかり眠れました。
(やっぱりお腹が空きますが)


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