配信日時 2022/12/05 09:59

死別経験よって獲得される「新たな自分」の研究【カレッジサプリ】

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令和4年12月5日(第3210号)


死別経験よって獲得される「新たな自分」の研究


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 2884字/読了時間4分)

■おはようございます。紀藤です。

昨日は大学にて、大学院の仲間も一緒に
共に論文の執筆でした。

また夜は12キロのランニング。



さて、本日のお話です。

立教大学大学院の
経営学専攻リーダーシップ開発コース(LDC)で

『キャリアとリーダーシップ論』
という授業を受けています。

有名なキャリアの理論を
網羅的に理解するだけではなく

内省や対話を通じて、
自分自身のキャリアを考えるという
有意義な内容でございます。



その中で学んだ一つに、

「死別経験とキャリア」

というテーマがありました。

この話が興味深く、
自分の人生観とも向き合う体験でしたので
皆様にその内容と気付きについて
ご共有をさせていただければと思います。

それでは参りましょう!


タイトルは



【死別経験よって獲得される「新たな自分」の研究】



それでは、どうぞ。



■「人生は”哀しいもの”である」。


ある先輩経営者が
何かの会でそう話されていたことが
ずっと心に残っています。

曰く、

人生とは色々なものを獲得して、そして、
それらのものを失う(手放す)道だから、

とのこと。


■確かに、

「自らの仕事」でも
出世して活躍してもいずれ一線から退くわけですし

「自らの健康」も
老いによってできていたことが段々とできなくなっていくし

「大切な人」でも
死という避けられない出来事で必ず別れがやってきます。


そこには
激しい痛みや悲しみも伴えば
少しずつ手放したり失う哀しさも存在します。

ゆえに、総じて

”人生とは哀しきものである”

と表現されたのが
妙にしっくりきて自分の中に、
残っているのでした。



■その”哀しさ”を構成する要素の中でも、
もっとも大きなものが

「死別」

ではないか、と思います。


身近な大切な人との死別とは、
自分の一部が引き剥がされたような
そんな喪失感、辛さを伴う、

などと聞くこともあります。


私も大切な人との死別は
想像もしたくありませんし、

もしそうなったとしたら
自分が自分でなくなる感覚に
陥るであろう、思ってしまいます。



■一方、こんな研究があり、

先日の『キャリアとリーダーシップ論』の
授業で紹介がされていました。


それは、


”身近な他者との死別を通した人格的発達 
 がんで近親者を亡くされた方への面接調査から.” 

渡邉照美, and 岡本祐子(2006)
質的心理学研究 5 (1): 99–120.


という論文の研究です。



■キャリアを広く見ると、

生まれてから死ぬまでの
社会の中での自分という意味で

”アイデンティティ生涯発達”

もキャリアの中に捉えることもあるようです。


そして、
上記で紹介した論文は

「死別経験がアイデンティティの発達に
 どのような変化をもたらすのか」

について、
実際に身近な他者を亡くされた方を対象に、
インタビュー調査を行いました。



■論文の内容について、
以下、ご紹介させていただきます。


(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

論文まとめ『身近な他者との死別を通した人格的発達』ほかより


<論文の背景と目的>

◯背景:
・死別は多くの人にとって避けることのできないものであり,
 人生におけるライフイベントの中でも,最もストレスフルな出来事とされている。
 そのため,死によって大切な人を失うことは大きな喪失経験であるといえる。
 しかし、近年それを克服した場合に生じるポジティブな変化に注目が集まっている。
 
◯目的:
・本研究では,がんで身近な他者を亡くされた方を対象に,
 半構造化面接により,死別経験による人格的発達の内容を明らかにすることを目的とした。

**

<調査方法>

・死別経験についての「質問紙調査」を行った。

・その上で本研究の趣旨を理解し、
 協力の意志を示した方と紹介者(死別経験者18名)に
 「半構造化インタビュー」を行った。

・インタビューの内容としては
 死別の事実関係、どの程度ケアに関わっていたか、
 経験した死別に対して自己を発達させる経験として
 主体的に位置づけられているか、などである。

**

<結果1 ー質問紙調査からわかったこと>

(※以下は、渡邉・岡本(2005)を引用にしています)

・質問紙調査により、死別経験が遺された者を
 人間的な成長・発達の方向へ変容させることが示唆された

・人格的発達の内容としては
 (1)「自己感覚の拡大や自己の強さの獲得」
 (2)「他者への共感性や関係性の強化」
 (3)「死への関心や死の意味への認識」
 の3つの領域の資質であった。
 
**

◯質問紙調査内容(一部)

{第1因子:自己感覚の拡大}
・私は、プラス思考で物事を考えられるようになった。
・私は、人とのつながりを大切にするようになった。
・私は、どのような人にもその人なりの良さがあると感じるようになった。
・私は、他人の喜びを、自分の喜びとすることができるようになった。
・私は、自分の中に好まない面を見つけたら、隠すよりも良くしていこうと思うようになった。
 など合計35項目
 
{第2因子:死への恐怖の克服}
・私は、死について考えることを避けるようになった。(逆転項目)
・私は、死についての考えが思い浮かんでくると、いつもそれを跳ねのけようとするようになった(逆転項目)
・私は、死を非常に恐れるようになった。(逆転項目)
・私は、人が亡くなると、自分の死について考えさせられるのが嫌だと思うようになった。(逆転項目)
・私は、死は恐ろしいのであまり考えないようになった。(逆転項目)
 など合計5項目
 
{第3因子:死への関心・死の意味}
・私は、自分の死についてよく考えるようになった。
・私は、死とは何だろうとよく考えるようになった。
・私は、家族や友人と死についてよく話すようになった。
・私は、死について考えることは人を成長させると思うようになった。
・私は、死はその人の人生観が試されるときであると思うようになった。
 など合計7項目



<結果2 ー半構造化インタビューからわかったこと>

以下、6つのカテゴリーが抽出された。

・新たな行動の獲得
・死に対する思索
・生に対する思索
・他者理解の深化
・人間関係の再認識
・自己感覚の拡大

※参考: 渡邉照美, and 岡本祐子. 2006.
”身近な他者との死別を通した人格的発達 がんで近親者を亡くされた方への面接調査から.”
質的心理学研究 5 (1): 99–120.

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここから)



■さて、いかがでしょうか。


私は、これまで
自分がケアをする必要がある等
最も身近な人(家族レベル)を亡くす経験は
ありませんでした。

ゆえに、あくまでも
想像の範囲内にとどまります。



ただ、この研究を見て、
死別経験に対する見方が
わずかながら変わったような気がしました。

もちろん、
また理性的な面から
そういう見方もあるという、
「頭でわかった」という意味です。

ゆえに、表面的な捉え方の変化に
過ぎないようにも思います。



■ただ、

こういった誰もが避けられない、
必ずいつかやってくる出来事について、

それらの経験を通じて
その意味を自分なりに昇華された人の話は

いつか来たるそのときの
いくばくかの緩衝材になるようにも思いました。



■死別という大きな、
でも誰にも訪れるテーマについて、

こうした観点から見てみることも意味がある、
そんなことを、授業を通じて思った次第です。

重たいテーマではありますが
私自身、とても考えさせられました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<本日の名言>

現実とは、あなたの外側にあるだけでなく、
あなたの内側にもあるのです。

ドロシー・ロー・ノルト

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【編集後記】
現在論文が、39500文字。
調査研究が終わってまとめたら約50,000字で着地しそうです。
初稿ではありますが、ゴールが見えてきました。

とはいえツッコミどころが満載なので、
ここからブラッシュアップしていきたいと思います。

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