配信日時 2022/03/04 09:00

書籍『組織におけるストレングスベースのリーダーシップ・コーチング』を読み解く(5) ~第3章 ポジティブ・リーダーシップ理論~【カレッジサプリ】

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令和4年3月4日(第2934号)


書籍『組織におけるストレングスベースのリーダーシップ・コーチング』を読み解く(5)
 ~第3章 ポジティブ・リーダーシップ理論~


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 6050字/読了時間7分)

■おはようございます。紀藤です。

昨日は2件のアポイント。
また夜は10キロのランニングでした。

その他、論文のまとめなどでした。

論文は読むのはエネルギーがいるのですが
読み解いていくと、すごく深い内容で、
大きな気づきを得られると感じているこの頃です。

(ということで、論文シリーズ、
 ちょくちょく余談もはさみつつ、
 続けさせていただければと思います)



さて、本日のお話です。

先日よりお届けしております、

「組織におけるストレングスベースの
 リーダーシップ・コーチング」

について、体系的にまとめられている書籍

『Strength-Based Leadership Coaching in Organizations
An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development』
https://www.amazon.co.jp/dp/B01CEFQWMI/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_WFSJHK5H0CHCFSB5WMK9

を解説させて頂いております。



今日は

「第3章 ポジティブリーダーシップ理論」

のご紹介となります。

それでは早速まいりましょう!



■「強みに注目する」。

この魅力的な響きに惹かれている方も
たくさんいるのではないでしょうか。

欠点ベースであったアプローチから、
その人の”強み”を軸にコミュニケーションをする。


そうすることで生まれるポジティブな空気感は
個人や関係性にプラスの影響をもたらしてくれる、、、、

このことを直感的に感じている人は
決して少なくないと感じます。



■そして、この

「強みに注目する」

というアプローチの背景には、
まさに今日ご紹介の

「ポジティブリーダーシップ理論」

があります。

このことを理解することで、
より強みに注目することの奥行きを
感じられるはず。


、、、ということで、

早速、書籍より
その内容を探求してみましょう。



■ちなみに第3章の内容は以下の通りです。

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<第3章:ポジティブ・リーダーシップ理論>

【はじめに】
【リーダーシップ行動の起源】
【ポジティブ・リーダーシップ理論】
【ポジティブなリーダーシップ開発における成果】
【まとめと結論】
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そして以下、内容のまとめとなります。


(ここから↓↓)
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【はじめに】
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・ストレングスベースのアプローチの背景にあるのは、ポジティブなリーダーシップ理論である。

・理論を理解するためには、その起源と背景を理解する必要がある。
 リーダーシップが進化したのには理由があり、リーダーシップの理論もリーダーシップの行動を説明しようとする試みの中で、時間をかけて発展してきた。

・そして、ポジティブリーダーシップは、効果的なリーダーシップの実践のために最も新しいモデルの例である。


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【リーダーシップ行動の起源】
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●進化心理学者が考える「リーダーシップ行動」の進化

・多くの動物は優劣をつけて集団をまとめる(サルとか、狼とかそうですよね)

・何のためにそうするかというと、“集団の結束や共同体の意思決定”のためだった。
 しかし人間の場合はそうではなく、リーダーが力を持ちすぎないようにしていた(Boehm,1999)

・リーダーシップという行動は、何千年にも渡って進化してきた、歴史の中にマッピングされている。
 そしてここ250年のビジネスにおけるリーダーシップもその一つの系譜の中にある、とかんがえる。

・進化心理学者の考え方において、現代のリーダーシップについて以下の示唆がある。

 1)「分散型リーダーシップ」(色んな人がリーダーシップを発揮する)や「平等的なリーダーシップの構造」が好まれる
 2)環境上の課題に対応するために柔軟なリーダーシップが必要とする
 3)社会の複雑さとグループサイズに応じて、リーダーシップスタイルが変化する


●「リーダーシップ理論」の進化

・この100年間、リーダーシップ理論は進化してきた。

・大きな流れは「偉大な人物」→「変革的・分散的・本物志向のモデル」への変化である。

・また以下の大きな流れもあった。
  「特性理論」(リーダーは生まれつきリーダー。リーダーの資質を解き明かす)
 →「行動主義理論」(リーダーシップの行動を特定する)
 →「状況理論」(リーダーはフォロワーとの関係などの状況を解き明かす)
 こうして研究が進み、複雑さを増した。

・その中で、ポジティブなリーダーシップモデルが登場したのは「変革型リーダーシップ」からである。

・「変革型リーダーシップ」とは、“高い集団目標に向かって他者を鼓舞すること”で多くの努力が引き出せる、としたモデルである。



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【ポジティブ・リーダーシップ理論】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

●ポジティブ・リーダーシップに分類される要素とは?

 1)リーダーの優れた点など、強みに焦点をあてること
 2)フォロワーに対して、自信や自己効力感などの個人の能力、パフォーマンスの両面でポジティブな影響を与えること
 3)個々のリーダーの自己利益を超えた目的のためであること(=自己超越的である)

 ※ポジティブ・リーダーシップの開発が、難しいリーダーとは? 
 →上記の考え方に対して受け入れられない、すなわち変化する準備ができていない、変化することができないリーダー。
  あるいは自分のリーダーシップの成長について固定観念を持っているリーダー(成長出来ないと思っている)は、ポジティブ・リーダーシップ開発は難しい、とされる。
   
   

ーーーーーーーーーーーーーー
<暗黙のリーダーシップ理論>
ーーーーーーーーーーーーーー

●暗黙のリーダーシップとは?

・「リーダーとは・・・のようなものである」と考えるリーダーに対する前提。
 リーダーシップの暗黙の理論には、“マインドセット”と“発達的準備”という2つの主要なものがある。

*マインドセット(Dweck,2006)
 ・成長思考(能力は開発できる)と固定思考(能力は生まれつき、変えられない)等のその人が持つ信念。
  マインドセットは重要であり学業等、幅広く影響をもたらす。

*発達的準備(Avolio and Hanah,2008)
 ・「リーダーシップの役割を引き受けるために、新しく複雑な思考方法に焦点を当て、意味づけ、発展させる能力と動機」と定義されている
 ・ポジティブなリーダーシップ開発の重要な前提となる。
 ・発達的準備の要素は「自己認識/自己調整/なりたいリーダー像の明確さ/自分を振り返る能力/変化する能力」がある。



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<明示的なポジティブリーダーシップ理論>
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●明示的なリーダーシップ理論とは・・・
 組織におけるポジティブなリーダーシップ開発のモデルや方法として正式に採用されているもの。
 変革型リーダーシップ、オーセンティック・リーダーシップ、サーバント・リーダーシップ、グローバル・リーダーシップなどがある。


◯{変革型リーダーシップ}
・組織と、共有されたビジョンに向かってフォロワーのパフォーマンスを向上させる点で、リーダーがフォロワーに与える影響を重視するもの(Bass,1999)

 *変革型リーダーシップの5つの要素
  1)理想的な影響力を持つ属性(信頼の構築)  (例:力強さと自信の表示)
  2)理想的な影響力のある行動(誠実な行動) (例:自分の最も重要な価値観や信念について話す)
  3)刺激的な動機付け(他人を鼓舞する) (例:説得力のある将来のビジョンを明確にする)
  4)知的刺激(イノベーションの促進) (例:問題解決時に異なる視点を求める)
  5)個別配慮(フォロワーの指導・育成) (例:他の人が自分の強みを伸ばせるようにする)

 *「フルレンジ・リーダーシップモデル(FRLM)」(9つの要素で構成される)
 =リーダーシップの5つの変革的要素
  +フォロワーの行動に報酬を与えることに焦点をあてた2つの取引的要素
  +機能性が低く、受動的・回避的なリーダーシップのスタイル説明する2つの要素

 ※このFRLMは構成的妥当性を裏付ける証拠が数多く存在している。
  これは「多因子リーダーシップ質問表(MLQ)」(Bass and Avolio,1997)として、研究者と実践者の両方が最もよく使用するリーダーシップ尺度となっている。

 ※強みは「変革型リーダーシップ」とどのように結びつくのか?
 ・変革型リーダーシップの「理想的な影響力」の領域では、リーダーは、信頼関係を構築する能力や、倫理的かつ誠実に行動する能力によって、フォロワーにポジティブな影響を与えようとする。
 ・「他者を鼓舞する」の領域では、ポジティブな感情に関する言葉が多く使われるため、影響を与える事が考えられる。


◯{心理的資本}

・心理的資本は「意欲的な努力と忍耐に基づいて、状況と成功の可能性を肯定的に評価すること」と定義される(Luthans et al,2007)
・心理的資本の中には、“希望”、“楽観主義”、“自己効力感”、“レジリエンス“という4つの状態に似た構成要素が存在する。
・心理的資本は、向上させる事が可能であり、トレーニング介入によって大幅な改善が実証されている(Avey et al,2011)
・心理的資本を高めると、自信や自己効力感のようなポジティブな状態を活用し、職場でのパフォーマンスを向上させることができるとされる
・そして、変革型リーダーシップは、フォロワーに「心理的資本」を構築することができる。
 そう言える理由は、変革型リーダーシップがフォロワーのパフォーマンスに与える影響を媒介するという証拠があるからである(Goorty et al,2009)

・「変革型リーダーがフォロワーを鼓舞し、モチベーションを高める」
 →「心理的資本の構築(希望、楽観主義、自信、回復力がアップ)」
 →「フォロワーが余分な裁量的努力をする(つまり、頑張る)」
 →「フォロワーのパフォーマンスが高まり、アウトプットが向上する」 


◯{オーセンティック・リーダーシップ}

・企業の不正行為、リーダーシップの脱線の時代に生まれたモデル。
・透明性、倫理的行動、役割にとらわれない模範的なリーダーの行動が強調された。
・オーセンティック・リーダーシップ質問表に含まれる4つの要素(Walumbwa et al,2008)
 1)意思決定におけるバランスの取れた処理
 2)内在化された道徳的視点
 3)他者との関係性の透明性
 4)自己認識
・これらの4つの要素を見ると、ポジティブな心理的状態の識別・強化に加えて、道徳的要素が含まれるといえる。

 ※強みは「オーセンティック・リーダーシップ」とどのように結びつくのか? 
 ・リーダーの強みを高めることは、ポジティブで真正なリーダーの行動に直結するといえる。
 ・リーダー自身の信念や価値観など、“真正な(心からの)”表現が、フォロワーの信頼、希望、楽観性を高めることは、上述の「心理的資本」に関連している(Hernandez,2011)


◯{サーバント・リーダーシップ}
・「他者を利他的に育成し、自己超越的な価値観を内面化する」こと(Liden et al,2008)
(つまり、“他者に奉仕する”ような、自己を超えたリーダーシップがサーバントリーダーシップ)
・自己犠牲と、部下の幸福を重視する


◯{ポジティブ・グローバル・リーダーシップ}
・「時間と文化を超えて、リーダー、そのフォロワー、組織の強み・能力・開発の可能性を高め、
  肯定的なリーダーシップ特性・プロセス・行動・パフォーマンスの成果が、体系的に現れること」と定義(Youssef and Luthans、2012)
(“時間と文化を超えて”、というところがミソのようです。
  地理的な距離や、倫理観や価値観、成功基準の考えを超えてリーダーシップを発揮する、という点が強調されています)



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【ポジティブなリーダーシップ開発の成果】
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●ストレングスベースのポジティブリーダーシップ開発に望まれる成果とは?

・リーダーシップの成果に関する研究では、ペア・チームでのプロセスよりも、
「リーダー個人の“知識・スキル・態度”(KSA)」に焦点を当ててきた(DeRue and Myers,2014)

・ポジティブリーダーシップ開発においては、「行動レベル」「モチベーションレベル」「認知レベル」で結果が得られる可能性がある。
 この変化は、個人、ペア、グループの各領域で見られる。

・ストレングスベースのアプローチは、“個人の「モチベーションレベル」の分析”に適しているが、
 リーダーシップの効果が、リーダー個人を超えて、チームや同僚、部下に波及することがわかってきている(MacKie,2015)

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【まとめと結論】
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●ポジティブ・リーダーシップ理論は、リーダーシップを伸ばすためにどのように役立つのか?

1)理論は、研究の方向性、評価の方法、フレームワークを提供してくれる

2)理論は、リーダーシップに関する信念を理解し、リーダーシップスキルの開発に役立つ

3)理論は、従属変数を提供してくれる(=理論はその「リーダーシップの構成要素」を教えてくれる)

・組織が「天性のリーダー」がいると考えている(という暗黙の理論を持っている)場合は注意が必要である。
 その考えが組織全体にあると、「リーダーは生まれ持った才能」となり、開発でなく選抜となる。
 そこに意識を取られると、リーダーシップの可能性を秘めている候補者がリーダーシップの役割に選抜されない、手を挙げなくなる可能性がある。
 結果、潜在能力が高い人材が昇進のプロセスから排除される可能性がある。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)



■さて、ここまでお目通しいただいた方、
誠にありがとうございます。

もう、こうやってまとめてみると
実に、広くて深いですね。。。


ただ、思ったのが
これらの全体像を理解しておくことで

”「強みが大事」という言葉の背景にある説得力”

を得られるように感じるのです。

多くの考えには、それにまつわる
知の巨人たちがいて、その人達が、

「フォロワーのパフォーマンスを高めるための変数はなにか?」
「どんな行動が個人にチームに影響を与えるのか?」

を愚直に考え続けてきたわけです。

それらの文脈を理解し、その上で
「強みの重要性」を語れたとしたら、
奥行きがあるものになる、と私は思いました。



■ということで、

本日は、
<第3章:ポジティブ・リーダーシップ理論>
をお届けいたしました。

次回、引き続き
「第4章」をもりもりお届けしたいと思います。

**

<第1章:組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介>
<第2章:強み:定義とモデル>
<第3章:ポジティブ・リーダーシップ理論>

【<第4章:強みの特定と評価>】 →次回はココ

<第5章:リーダーシップ開発へのポジティブなアプローチの有効性を示す証拠>
<第6章:強みの開発>
<第7章:組織におけるポジティブなリーダーシップ開発のためのコーチング>
<第8章:リーダーやマネジャーとしてストレングスベースのアプローチを用いる>
<第9章:ストレングス・ベース・アプローチによるチーム開発>
<第10章:ストレングスベースのリーダーシップ・コーチングの背景と限界>

**

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
本日も皆さまにとって、素晴らしい1日となりますように。

==========================
<本日の名言>

世界で最も素晴らしいことは、
自立の方法を知ることである。

モンテーニュ(フランスの思想家/1553-1592)

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【編集後記】
このシリーズを書いて5号。
ふと眺めてみると、なんだか教科書みたいになってしまいました(汗)

箸休めとして、ちょくちょく軽めのお話も挟んで
皆さまにもお届けできればと思いますので、
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします!


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